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連載:IFRSと経営

ビジネスのグローバル化がIFRSを生んだ

野村直秀
アクセンチュア株式会社
2009/6/29

IFRSが広がった背景にはビジネスのグローバル化がある。各国は世界の投資マネーをいかに自国の資本市場に取り込むかを考え、「資本市場における会計基準のグローバルスタンダード」であるIFRSを採用した。IFRSの特徴から経営への影響を探る(→記事要約<Page 2>へ)

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 世界同時不況への対応から多くの企業が厳しい戦いを強いられている今日ですが、ここ数年来、経営および経理業務領域の話題の1つであった「内部統制報告制度」がその適用初年度対応を終了させようとしています。その効果と負担に関する議論はまだ終わったわけではありませんが、新しく、そしてより大きな波が日本のビジネス界に押し寄せようとしています。国際会計基準(国際財務報告基準、IFRS)の採用問題です。

 これから、2回にわたり、IFRSの採用が日本のビジネスに及ぼす影響とその対策について、論じていきます。

資本市場におけるグローバルスタンダード

 ここ10年間の世界各国の資本市場の規模の拡大とボーダーレス化は著しく、各国政府にとって世界の投資マネーをいかに自国の資本市場に取り込むかが、国の成長を加速させる上で非常に大きな政策課題となってきました。そのため各国は資本市場内でのルールの統一化や自由化を推し進めてきたわけですが、世界共通の会計基準の採用もその流れの1つとしてとらえることができます。世界の投資家がより安心して投資を行えるように、自国の市場で義務付ける会計基準を世界で広く利用されている国際会計基準にするという選択を行ったのです。

 この動きをけん引したのはEUでした。EUは、域内の資本市場の統合化と活性化を目的として、EU内の資本市場における財務報告の基準としてIFRSを2005年に採用しました。EU内の資本市場で資金調達を行う外国企業に対してもIFRS(または同等の品質の会計基準)での開示を求めました。この動きがIFRSを「資本市場における会計基準のグローバルスタンダード」に押し上げる、大きな流れを作ったのです。

 一方、米国は世界最大の資本市場を持ち、そこで鍛えられた最も高品質な会計基準を維持しているとの自負を持っていました。しかしエンロン事件等で明らかになったように、近年の資本市場の急速な技術革新に会計基準が遅れを取り、適切な情報開示を実現できなかったという現実もありました。米国はこの現実を直視し、会計基準の改革の方向性の1つとしてIFRSの導入を視野に入れた動きを2002年に始めました(米国財務会計基準審議会[FASB]と国際会計基準審議会[IASB]とのノーウォーク合意)。

 2008年10月には米国内企業に対するIFRSの義務付けに関するロードマップを提示し、いよいよ世界統一会計基準の動きが本格化しました。この背景の1つには、EUのみならず新興国を中心とする新たな資本市場の発展により米国の資本市場の位置付けが相対的に低下してきたこともあるといえます。

世界各国のIFRS適用状況(アクセンチュアの資料から作成)


 日本は、1990年代後半から世界の資本市場のボーダーレス化に対応すべく、自国の資本市場の改革である金融ビッグバンを行い、またそれに呼応する形で会計ビッグバンと呼ばれる会計基準の大幅な見直しを行ってきました。会計ビッグバンは、当時の世界の資本市場を完全にリードしていた米国の会計基準であるUS-GAAPを模範にして整備を進めました。

 しかし、2000年以降はEUのIFRS採用やほかの国々のIFRS採用の動きに合わせる形で、2007年の企業会計基準委員会(ASBJ)と、IASBとの合意(東京合意)に基づきIFRSのコンバージェンス(収れん)作業に着手し、現在に至っています。コンバージェンスは2011年6月に終了する予定ですが、同時に日本政府は米国の動きに呼応し2009年2月、日本国内市場におけるIFRSのアドプション(適用)のロードマップ案を公表しました。2009年6月には2010年3月期からの任意適用、2015年また2016年の強制適用を目標にしたロードマップを公表しています(参考記事:国際会計基準、強制適用は2015〜16年 段階適用の可能性も)。

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