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連載:EBS、HyperionユーザーのIFRSガイド(3)

経営管理の高度化はIFRS対応システムとともに

村川洋介、海上和幸
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
2010/1/15

IFRSが話題となっている要因は経営管理の在り方に大きな影響を及ぼす可能性があるからだ。IFRSにより影響を受ける経営管理の分野は多岐にわたるが、ここでは情報システムと関連がある領域を中心に検討しよう(→記事要約<Page 3 >へ)

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 その結果、従来しばしば見られたような、制度会計とは別の会計数値を管理会計システムで独自に収集し分析するという無駄がなくなり、管理の精度が向上することが期待できる。

 またIFRS報告開始の前年度で、比較対照年度としてのIFRS基準による連結報告と、従来の国内会計基準の連結報告の双方の処理が必要な期間については、カスタム次元またはシナリオ次元を利用して、複数会計基準の連結処理を共存させることができる。この方法は、現在、米国会計基準と国内会計基準の双方で連結報告をしている企業でも活用されている。

Oracle Hyperion Financial Data Quality Management

 Oracle Hyperion Financial Data Quality Management(以下FDM)はHFMや予算管理アプリケーションであるOracle Hyperion Planningと連携して使用するための、個別会社の会計情報連携ツールである。連結決算処理をするまでに必要な、以下の処理機能を持つ(図参照)。

  • ERPなど会計システムとのデータ連携
  • レポートパッケージのアップロード
  • 収集したデータの整合性チェック・検証
  • 勘定科目のマッピング
  • GAAP調整仕訳のアップロード
  • 各ロケーションの収集状況管理
  • 連結システム(HFM)から原データへの追跡(ドリルバック)
  • SOX法に対応するための証跡の保存
FDMによる個別会計システムから連結会計システムへの連携(IBM ビジネスコンサルティング サービスの資料から作成)

 特に、SAP、Oracle E-Business Suite(以下EBS)、PeopleSoftなどERPとの連携が強化され、データ収集状況が一目で分かる、収集したデータの整合性チェックが可能となるなど、従来の連結決算プロセスで経理・財務部門の重い業務負荷となっている作業を軽減できるため、決算のクオリティ、スピード、コントロールレベルを向上させる有効なツールとなることが期待できる。

 また、GUI画面で勘定科目等のマッピングが変更できるなど、セグメント情報の変更などについても経理部門で対応できるため、より柔軟な連結管理項目の運用が可能となる。

Oracle E-Business Suiteのシングルインスタンス化

 先に述べたように、各連結会社の単体会計システムを集約し、システム管理・運用を一元化することで、グループ全体のシステム運用コストを低減することが期待できる。さらに、個別企業をすべて1つのERPシステム内で管理される組織として登録・運用する方式に統合し(シングルインスタンス化)、最終的には経理部門のシェアードサービスセンター化を実現することで、グループ企業全体のシステム投資を最大限に効率化し、決算精度向上と決算作業の効率性向上を図ることができる。

 複数の会計基準に対応した複数の帳簿を、整合性をもって保持できるEBSのようなERPシステムであれば、各国それぞれの単体決算用の国内基準での会計データと、制度連結および管理連結用のIFRS基準での会計データを同時に管理可能である。これによりシングルインスタンス化した形での単体・連結会計システムの構築が実現できる。

まとめ

 3回にわたって、オラクルのアプリケーションのIFRS対応を概観してきた。現在IFRSは、2011年上半期に向けて多くの基準の見直しが行われており、また、会計基準という性格上、その後も企業活動の多様化や社会的要請によって新設改廃が継続していくことは必至である。オラクルのアプリケーションを含め主要なERPは、当然このような動きに対応していくことになろう。これらを活用していくことで、企業は最低限のIFRS対応は比較的容易に行えるようになる。しかしこれは、すべての上場企業が共通のルール(IFRS)と同等のツール(IFRS対応ERP)の下で財務情報の開示を行うようになることを意味し、IFRSの目的の1つである財務情報の比較可能性のみならず、情報開示の迅速性、頻度、内容、詳細度といった経営管理のレベルの比較可能性も高まることを意味するのではないだろうか。

 つまり、IFRS対応とは、これまでのような単なる会計基準対応に留まらず、経営環境変化対応を伴うということを意識した上で、企業としての対応方針を策定していくことが重要となろう。

筆者プロフィール

村川 洋介 (むらかわ ようすけ)
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
エンタープライズ・アプリケーション-Oracle
マネージング・コンサルタント

1990年、日本IBM入社。システム設計・開発を担当後、流通業、金融業などの業務アプリケーション開発とパッケージ導入を多数手掛ける。IBMビジネスコンサルティングサービスに異動し、ERP導入プロジェクト、J-SOX対応プロジェクトなどを担当。

 

海上 和幸 (かいじょう かずゆき)
IBM ビジネスコンサルティング サービス株式会社
フィナンシャル・マネジメント
公認会計士

1974年、プライスウォーターハウス会計事務所入所。監査部門にて会計監査、システム監査を担当後、コンサルティング部門にて連結経営管理や決算早期化、その他経理・財務領域を中心とするコンサルティングに従事。PwCコンサルティングとIBMの統合により、現職。

要約

 IFRSが大きな話題となっている要因は、単に「会計基準」の大幅な変更と、それに伴うプロセス/情報システムの変更に多大な手間とコストを要するからだけではなく、経営管理の在り方に大きな影響を及ぼす可能性があるからである。IFRSにより影響を受ける経営管理の分野は多岐にわたるが、ここでは情報システムと関連がある領域を中心に検討する。

 経営管理の観点から求められるのはマネジメント・アプローチ、注記の増大に対応する決算・開示プロセスの見直し、十分なデータを提供できる経営ダッシュボードの実現などである。オラクルのアプリケーションではこれらの経営管理をどのように実現しているか。多次元処理を特徴とする連結会計用のパッケージ「Oracle Hyperion Financial Management」、個別会社の会計情報連携ツール「Oracle Hyperion Financial Data Quality Management」を紹介する。

  現在IFRSは、2011年上半期に向けて多くの基準の見直しが行われており、また、会計基準という性格上、その後も新設改廃が継続していくことは必至である。オラクルのアプリケーションを含め主要なERPは、当然このような動きに対応していく。これらを活用していくことで、企業は最低限のIFRS対応は比較的容易に行えるようになる。これは、IFRSの目的の1つである財務情報の比較可能性のみならず、情報開示の迅速性、頻度、内容、詳細度といった経営管理のレベルの比較可能性も高まることも意味する。

 つまり、IFRS対応とは、これまでのような単なる会計基準対応に留まらず、経営環境変化対応を伴うということを意識した上で、企業としての対応方針を策定していくことが重要となろう。

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