連載:経営財務トレンド(6)
再び動き出した日本の内部統制議論
垣内郁栄
IFRS 国際会計基準フォーラム
2009/11/6
日本の内部統制報告制度が改定に向けて動き出した。企業や監査法人、当局の関係者が集まったラウンドテーブルが開催。現行の制度についての問題点が洗い出された。
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「重要な欠陥」への誤解
日本の内部統制報告制度では、重要な事業拠点の選定のために「連結ベースの売上高などの一定の割合(例えば、おおむね3分の2程度)に達している事業拠点を評価の対象とする」などの数値基準が示されている。数値基準があることで企業は対応の目標を設定しやすくなる反面、数値基準によって企業の主体性が制限される可能性がある。日本の内部統制報告制度が経営者の主体的な判断を尊重するリスクベースのアプローチを認めていることとの矛盾を指摘する声もある。武田薬品工業 高原氏は、「3分の2基準に基づき対応しようとすると、海外の大きな現地法人から評価する必要がある。しかし、そのような会社はすでに内部統制が整備されている。心配なのは最近、設立した小さな子会社であったりするが、対応できないケースがある」と話した。
金融庁の総務企画局企業開示課長の三井秀範氏は「数値基準は初年度に向けて割り切って作った」と説明し、企業の自主的な判断を優先するとした。
企業からは「重要な欠陥」という評価結果の文言についても指摘があった。重要な欠陥は本来は内部統制上の問題がある場合に出される評価結果だが、「一般的には財務報告自体に虚偽や不正があるような印象を与える可能性が強い」(旭化成 吉田氏)からだ。メディアが重要な欠陥が報告された企業名を報道するケースも多く、企業側は風評被害などを強く警戒しているのが実情。結果的に過剰な対応に走りがちだ。
青山学院大学大学院 教授の町田祥弘氏は「重要な欠陥についての適切な認識を浸透させる啓蒙活動に限界があるとすれば、言葉を換えるのも選択の1つだ」と話した。一方、東京証券取引所の執行役員 静正樹氏によると、東証は9月29日に公表した「上場制度整備の実行計画2009」(PDF)で、内部統制報告制度の重要な欠陥や、評価結果を表明できないことについても、適時開示するよう求めることを決めた。メディアを通してではなく、企業が自ら情報公開をすることで、投資家に正確な情報提供を行えると考えている。
内部統制報告制度の改善につなげる
米国ではSEC(証券取引委員会)が複数回のラウンドテーブルを開催し、内部統制報告制度を改定する道筋を示した。日本でも金融庁が企業会計審議会を開く前段階として独立的な組織が集まって意見のすりあわせを行っていく方針のようだ。ラウンドテーブル閉会のあいさつをした日本公認会計士協会 会長の増田宏一氏は「この後も2回、3回とラウンドテーブルを開いていただいて、内部統制報告制度の改善につなげてほしい」と話した。