苦行は昔の話

Ubuntu Linuxをインストールして分かったこと、分からなかったこと

2008/01/07

 以前から試してみたいと思っていたLinuxディストリビューション「Ubuntu Linux」を年末年始の休暇を利用してインストールした。Ubuntuについての記事はこれまでいくつか執筆したが、自らインストールして使ってみたのは恥ずかしながら今回が初めて。妻の実家で作業というビハインドを乗り越えて、分かったこと、そして分からなかったことがあった。

 Ubuntu Linuxについては以下の記事が詳しい。「プロダクトレビュー[Ubuntu 7.10 日本語ローカライズド Desktop CD]」「Ubuntu Linuxが注目される理由」。Ubuntuが注目されているのはすべての面における簡単さだろう。OS全体を1枚のCD-ROM全体に納めることができる点、Live CDになっていてインストール前に動作を確かめられる点、利用頻度が高いアプリケーションがプリインストールされている点、Windowsユーザーからの移行を意識し、WindowsのNTFSファイルシステムを読み書きできる点、コマンドを使わなくても多くの作業がGUIで行える点などが支持されている。

分かったこと1:Ubuntuは決して軽くない

 さて、私は上記のようなUbuntuのメリットを期待して、CD -ROMをセットしたのだが……。いきなりつまずいた。Live CDによってUbuntuは起動するのだが、HDDへのインストーラが途中で止まってしまう。インストールしようとしたのはUbuntu Linux 7.10(Gutsy Gibbon)の「日本語ローカライズドDesktop CD」。ドライブはくるくる回っているがインストーラ画面が一向に進まない。バージョンの問題かと7.04のCD-ROMを用意したがダメ。

 どうも、このPCの問題らしいと気付いたころには作業開始から半日がたっていた。Ubuntuをインストールしようと考えているPCは2002年5月に発売されたソニー製のノートPC。CPUはMobile Celeron 900MHzで、メモリが256MB。そもそもこんな古いPCにUbuntuをインストールしようとしたのが間違いだったのか(Ubuntu 7.10のシステム必要条件)。

 私には「LinuxはWindowsよりも軽い!」という思い込みがある。Windows Vistaが動かないようなPCでもLinuxならサクサクという幻想。多くの読者もこのようなイメージを持っているのではないだろうか。しかし、GUIが当然のいまのLinuxディストリビューションでは、当てはまらないようだ。私は「メモリ192MB以下のPC」を対象にしたUbuntuのAlternate版CD-ROMを用意し、テキストモードでインストールした。GUIを使わないインストールはサクサク進み、パーティションの設定なども難なくクリア。1時間ほどでインストールできた。最初からこうしていればよかった。インストールした後のPCの体感速度は、同じPCにデュアルでインストールしてあるWindows XPとほぼ同等。眠っている古いPCの再活用法としてUbuntuをインストールしても、Windows以上のパフォーマンスは難しいかもしれない。

ubuntu01.jpg Ubuntu Japanese Local Community TeamのWebサイト。「日本語ローカライズドDesktop CD」をダウンロードできる

分かったこと2:デバイスの認識はばっちり

 CD-ROMからのインストールが終了し、再起動するとHDDからUbuntuが起動する。わくわくする瞬間だ。まず目に付くのはアイコンが1つもないデスクトップ。文書や画像、ショートカットなどのアイコンがデスクトップを占領する私のWindows PCとは大違いなシンプルさに感動する。ただ、グラフィックスカードが正しく認識されていないようで画面の解像度が変。初めて触れる設定画面をいろいろ操作し、正しく変更する。これらのシステム管理機能は、Windowsのコントロールパネルを使った経験があるユーザーならそれほど違和感なく使えるだろう。

 「Linuxは軽い」以外に、私には「Linuxでのデバイス設定は苦行」との幻想があった。無線LANアダプタやマウス、デジタルカメラの接続など英語のドキュメントを探して右往左往し、恐々とドライバを導入するのかと覚悟したのだが、いずれも何もせずに利用可能になってしまった。特に無線LANアダプタについては利用可能な無線LANを探してワンクリックで接続できた。この簡単さはWindows以上かもしれない。 Ubuntu 7.10についてネットでよく見かけるスリープ、ハイバネートの動作不良についても私のPCでは問題なかった。私が使ったPCがたまたまだったのかもしれないが、デバイス対応の幅広さには感動した。

分かったこと3:日本語環境が最初から使える

 Ubuntuではインストール時の設定でメニューを日本語にできる。さらに入力メソッド「SCIM」、漢字変換システム「Anthy」が用意されていて、いきなり日本語の入力ができる。この日本語環境の充実もユーザーを引き付ける要因の1つだろう。また、新しいアプリケーションを導入する場合でも、アプリケーションの検索、導入を支援する「Synaptic」があり、GUIベースでアプリケーションを検索し、安全にインストールできる。

分かったっこと4:コマンドは要らない、とは言い切れない

 さて、コマンドだ。GUIではなくキャラクタベースでファイルを操作したり、アプリケーションを実行できる。Ubuntuにも「端末」の名でターミナルが用意されている。使いこなせるユーザーには手放せないものだが、初めてLinuxに触れるユーザーにとってはまさしく鬼門。GUIに慣れたユーザーにとってコマンド入力は理解できない苦行と映るかもしれない。

 Windowsユーザーからの移行やWindowsとの併用を想定しているUbuntuはこのコマンドでの作業をできるだけ避けようとしている。上記のようにアプリケーションのインストールはSynapticがあるし、ファイルマネジャーは「Nautilus」が使える。システム管理もGUIで可能だ。ただ、ブログのエントリ「『Linuxって端末開いてコマンド打たなきゃいけないじゃない』という誤解」で、まつもと氏が書くように「Ubuntuは、基本的にこの管理者というものをなくしてしまった。だから、本来であればユーザーは、端末を開いてコマンドを打ち込むというような操作をする必要はないはずなのである。しかし、現実との間にはギャップがある」のである。

 コマンドを入力する必要があるのは、まつもと氏が上記のエントリで書くように「ハードウェアの相性の悪い場合」「日常的な使用の範囲を超えたとき」だ。これ以外の作業はコマンドを使わなくてもGUIで代替できるケースが多い。コマンドを使ったほうが効率的に作業を行える場合はあるが、それでもGUIによる操作のほうがWindowsユーザーには歓迎されるだろう。

 では、「ハードウェアの相性の悪い場合」「日常的な使用の範囲を超えたとき」はどう解決すればいいのだろうか。前者にとってはUbuntuをプリインストールしたPCの販売が望まれる。米デルのようにハードウェアを検証し、UbuntuをプリインストールしたPCの販売が増えれば、ユーザーはハードウェアの面倒な設定をコマンドで行う機会は減る。OSがプリインストールされたPCを使うのが普通になっているユーザーにとって、簡単とはいえOSを自らインストールする作業は、それだけで移行への障壁だ。“普通の人” がUbuntuを使うようになるには、プリインストールPCが欠かせない。

 後者の「日常的な使用の範囲を超えたとき」のコマンド入力は基本的には上級ユーザー向き。上級ユーザーならそもそもコマンドへの違和感も少なく、Ubuntuを使う上での障害にはならないだろう。Windowsでも少し面倒な設定をしようとするとレジストリを編集しないといけないのと似ているかもしれない。

分からないこと:UbuntuはメジャーOSになるか

 Windowsが圧倒的なシェアを確立したのは、OSを中心とした業界のエコシステムをマイクロソフトが作ったからだ。マイクロソフトはOSを開発するだけでなく、自らがキラーアプリケーションを開発し、サードパーティにもアプリケーション開発を促し、デバイスメーカーには対応ドライバを用意してもらう。また、サービスプロバイダにもWindowsできちんとサービスが動くように検証してもらう。これらのエコシステムをマイクロソフトが中心となって作ることで、Windowsはシステムとして高い品質を保っている。そしてエコシステムに参加するパートナーにはメリットがあり、次の製品開発への原資が生み出されている。

 Ubuntu、もしくはほかのLinuxディストリビューションはいつの日か、 WindowsやMac OSと並ぶクライアントOSになるだろうか。日常作業の一部分をUbuntuに置き換えることはいまでも可能だろう。例えば、Webブラウジングや基本的なオフィス文書の作成などだ。

 ただ、Windows PCで行っている作業すべてをUbuntu PCに置き換えるのは難しいだろう。家庭ではWindowsアプリケーションの互換問題のほか、プリンタなど周辺機器のドライバの問題、Linuxに対するユーザーのリテラシの問題がある。企業であれば、上記に加えてWindowsを前提に組まれたActive Directoryやサポートの問題がある。

 Ubuntuはこれらの問題の多くを解決してきた。しかし、OSの普及で重要なのは機能だけではない。受け入れられる環境が伴わないと広がらないのだ。Ubuntuにはまだ仕事が残っている。マイクロソフトが構築したのとは異なる次世代エコシステムの構築だ。開発コミュニティや先進的なアプリケーション、サービスベンダの取り組みに期待したい。

(@IT 垣内郁栄)

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