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【Top10】使い道を考えるのは誰か
2008/11/10
先週の@IT NewsInsightのアクセスランキングの第1位は「イー・モバイル、“通話もできる”小型3G端末を発表」だった。イー・モバイルが発表したH11LCは機能を見ると携帯電話端末そのものなのだが、実際には「通話もできる」と通話機能はおまけ的位置付けの変わった端末だ。音楽プレーヤーにはなるが、メールやWebなどの機能はない。
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このH11LCは従来にない枠組みの製品で、いったいどういう用途で誰が使うのか、いまひとつ分からない。確かに57グラムと小さくて軽いが、ケータイに加えてもう1つ余計に持つのはムダだし(イー・モバイルのほかの端末は通信モデムにもなる)、1台で済ませるにはメールすらないのでは苦しい。
H11LCと同時に発表した高速通信サービスも少し事情が似ている。上り速度が1.4Mbpsと従来の384kbpsの3.6倍も高速だが、サービスを発表するイー・モバイル 執行役員副社長の阿部基成氏ですら、「われわれもいろいろと使い道を考えたが……」と前置きしながらファイル送信のデモンストレーションしていた。
この発表でハタと疑問に思ったのは、いったい誰が使い道を考えるべきなのかということだ。別にイー・モバイルに考えてもらわなくても、速度が速くなれば、それに見合ったアプリケーションや使い方、ライフスタイルが出てくるのだから、それでいいように思うのだ。いっそ質疑応答で「これ、使い道は?」「皆さんが考えてください」と言い切るぐらいでいいのではと思う。当たり前だが通信サービスは土台やツールであって目的ではないからだ。いまのところ、上り1.4Mbpsの高速通信サービスも57グラムの小型端末も、ニッチ市場にしか訴えないように見えるが、従来にない新しいものなのだから、その真価は市場に出してみなければ分からない。
これは特に通信帯域について言える。通信帯域は、あればあっただけ消費されるようになるだろう。すぐに世の中が追いついて1.4Mbpsでも足りなくなるはずだ。そのとき、その帯域を使って人々が何をしているかなど、通信キャリアが心配するまでもないのではないか。
2009年春にも始まろうという次世代高速無線通信サービスは、事業者免許交付のときに騒がれたのが嘘のように誰も気にしていないように見える。一部関係者の口から聞こえてくるのは「キラーアプリがない」という情けないひと言だ。要するにモバイルWiMAXや次世代PHSを使って何をやるかというと、どうにも思いつかないということだ。出てくるキーワードはせいぜい「動画」で、展示会などでも決まって映像系デモンストレーションがあるが、全然説得力を感じない。このままでは、すでに無線通信サービスを使っている数十万ユーザーだけが使うという相変わらずのニッチ市場で終わるのではないか、というのが関係者たちの心配のようだ。
しかし、通信キャリアが心配しなくてもいいのではないか。使いやすいインフラやプラットフォームを適正価格で用意すれば、さまざまなアイデアが花開くはずだからだ。いまはまだ誰にもよく分からないが、スマートフォンやモバイル端末、組み込み系デバイスで、新たなデータ通信の使い方を考え出す人々はたくさんいるだろう。
マーケティング放棄の無責任な暴論に聞こえるかもしれないが、通信サービスにせよ、Webサービスにせよ、インターネットが証明してきたのは「プラットフォームを開放せよ」という命題が、ほとんどのケースで正しいということではなかったか。使い方はユーザーや開発者がひしめく市場が考える。PaaSと呼ばれるクラウドコンピューティングの一形態も、そうした文脈でも捉えられる。自分たちだけで作っているよりも、開発者を巻き込んである程度好きにやってもらおうという考えだ。米ヤフーも10月末に同社サービスのクエリ言語とWebサービスのホスティング環境をリリースしてきたが、同社が出すメッセージはクリアだ。プラットフォームを開放するから、みんなでヤフーを作り直してくれということだ。
イー・モバイルの記者発表会は、通例30分や40分はかかかる一般的な記者発表の新サービス・商品の説明部分が、わずか15分で終わった。たくさん集まった記者陣は肩すかしを食らったような顔をしていた。知り合いの週刊誌記者は「記事にならんね」とため息をついていた。しかし記者は、通信サービスなのだから、それでいいのではないだろうか、とも思ったのだった。
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