買収の目的と今後を両社が説明
「ヴイエムウェア+SpringSource=PaaS」の未来
2009/09/07
SpringSourceの買収を発表したヴイエムウェア。同社は9月1〜3日に米国サンフランシスコで開催したVMworld 2009で、その意図と今後に向けたビジョンを説明した。2社による短期的な目標は、PaaSサービスの基盤となる技術を統合的に提供することだ。
ヴイエムウェアによるSpringSourceの買収は、まだ法的にクリアされたものではない。しかし米ヴイエムウェアCTOのスティーブン・ハロッド(Stephen Herrod)氏と米SpringSource CEOのロッド・ジョンソン(Rod Johnson)氏は今回のVMworldで、その背景と今後の方向性を明らかにした。
ヴイエムウェアは設立以来、ITインフラのシンプル化と効率化によるコスト削減を目指し、実現してきた。一方で、アプリケーションの運用やサポートにも同様にコストが掛かっている。「そこでこの部分に自動化を持ち込んでコストを減らしたい、アプリケーションの自動操縦という考え方に基づいて自律的な管理を実現したいと考えた」(ハロッド氏)。
一方、Enterprise Javaアプリケーション・フレームワークSpringのエンタープライズ版などを通じ、アプリケーション開発プロセスの変革を進めてきたSpringSourceは、最近では開発されたアプリケーションの稼働、管理を含めたライフサイクル全般の改善に取り組んでいる。稼働の観点からはSpringSource tc Serverやdm Serverを提供、管理についてはOS/アプリケーション監視のHyperionを買収するなどの手を打ってきた。
そこでヴイエムウェアとSpringSourceは、この2社の技術を統合すれば、開発者が下のレイヤをまったく意識せずにコードを書くだけで、自動的に拡張性や信頼性が確保された形でデプロイし、運用できるような環境を作れると考えたのだという。
「vSphereはIaaSと呼ばれる部分(の基盤技術)を提供している。(この層には)強力な仮想マシンコンテナがあり、持続的なディスクがあり、ネットワーク上のアイデンティティがある。一方、その上では(SpringSourceが提供しているような)ミドルウェアやツール群が、アプリケーションに対するサービスを提供している。この部分はアプリケーション層をその下のインフラ層とつなぐことができる。そこで、アプリケーションサービスをインフラサービスとともにパッケージ化してしまえば、それはPaaSと呼ばれているものになる。つまり、開発者は、APIより下の部分を何も考えなくてよくなる」(ハロッド氏)
ヴイエムウェアは、SpringSourceのフレームワーク/ツール/Webアプリケーションサーバから、VMware vSphereの仮想化・運用サービスを自在に操作できるようなAPIを提供する。そのことによって、アプリケーションをその下の仮想サーバを含めて自動的にクローニング(複製)したり、稼働中も負荷に応じてアプリケーション用のメモリを追加したり、場合によってはアプリケーション+OSから成る新たな仮想マシンを立ち上げて、アプリケーションを自動的にスケールアップさせたりなどができるようになる。
Enterprise Javaだけでは終わらない
つまり、アプリケーション基盤と仮想インフラの緊密な連携により、従来アプリケーション開発者がやりたいと思っていても、物理的なサーバがあるがゆえの限界のために実現できなかったことを実現したいのだという。
ただし、SpringSourceのツールとだけ統合を進めても、結局のところEnterprise Javaの世界を超えることはできない。そこでヴイエムウェアは、ほかのアプリケーションフレームワーク/ミドルウェアとの連携も進めていきたいという。
「我々はアプリケーションとその下の仮想レイヤとの間の通信にかかわろうとしている。しかし自動的なスケーラビリティや可視化は普遍的な課題だ。そこでビジョンとしては、われわれは(SpringSource以外の)さまざまなベンダとも協業し、Ruby on Rails、Python、.NETなどのフレームワークがこの同じAPIを活用し、仮想化された世界におけるエクスペリエンスを向上できるようにしていきたい。時間は掛かるが、これが我々の目的地だ。社内クラウドでも外部クラウドでもどちらにもデプロイできる、共通のプログラミングモデル、共通のデプロイメントプラットフォーム、さらに共通の方法によるインフラ管理を実現する」(ハロッド氏)
ヴイエムウェア+SpringSourceが“game changing”な理由
ヴイエムウェアは、VMware vSphereで、データセンター/ホスティング事業者がIaaSサービスを提供できる統合的な基盤の提供を進めている。重要なのは、そのIaaSが、企業の社内ITインフラと切り離されたものではないという点だ。社内と外部はいつでも相互に移行が可能であり、さらに適宜組み合わせて単一の仮想データセンターを運用できる世界を目指している。
ヴイエムウェアとSpringSourceが目指すのは、これと同じことをPaaSのレベルで実現することだ。データセンター/ホスティング事業者は、ヴイエムウェアとSpringSourceの技術を採用しさえすれば、Enterprise JavaのPaaSを提供できるようになる。PaaSなので、アプリケーション開発者は、Amazon EC2やヴイエムウェアのパートナーが始めるvCloud Expressでは必要な、仮想サーバの作成や構成すら意識する必要がなくなる。サーバのサイジングなどまったく考える必要はない。処理能力はニーズに応じて自動的に調整される。
この考え方でさらに注目すべきなのは、ヴイエムウェアとSpringSourceの組み合わせが社内PaaSも可能にするということだ。現在のところPaaSというと、非常に少数の事業者しか実現できないのではないかというイメージがある。しかし、ヴイエムウェア+SpringSourceの統合技術を使えば、その他大勢の事業者がPaaSを提供できるようになるとともに、一般企業でもユーザー部門に対して、同様なサービスを提供できるようになる。
この組み合わせのもう1つのポイントは、特定の事業者にロックインされることがないという点だ。あるPaaSサービスにアプリケーションをデプロイしたとしても、いつでもほかの事業者や社内に、このアプリケーションを無停止で移動できるようになる。
こうした考え方は、OSというものの存在意義を低減させる方向に働く。ヴイエムウェア+SpringSourceが“game changing”な理由はここにある。
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