紙媒体経由の情報流出も追跡
「禁止ではなく抑止」、早稲田大らが来歴管理技術を共同開発
2009/11/30
早稲田大学、岡山大学、日立製作所、日本電気(NEC)、NECシステムテクノロジーは11月30日、複数の組織間で共有する情報の動きを追跡する「来歴管理技術」を共同開発したと発表した。顧客情報の流出が発生した場合でも、委託元と委託先、再委託先などにまたがって情報の流れをたどり、流出元を特定できるといい、12月1日から3日にかけて実証実験を行う予定だ。
この来歴管理技術では、PCやプリンタ、デジタル複合機などにインストールする「来歴エージェント」を通じて、いつ、どのユーザーが、どのファイルに対してどういった操作を行ったかというログを収集する。このとき、ファイルはハードウェアを入れ替える必要はなく、ソフトウェアの導入だけで対応可能という。
各組織はログの収集・管理や検索用に「来歴管理サーバ」を用意することになるが、組織をまたがって情報をやり取りする場合は、来歴管理サーバ間でログ情報を問い合わせ、追跡を行う。この際、通常の電子署名ではなく「グループ電子署名」技術を活用することによって、従業員のプライバシー情報などを秘匿しつつ、ログの信憑性を確保する仕組みだ。
ファイルに対するアクセス管理とログの収集は、独自のDRM技術によって行う。ファイル本体に履歴情報を加えて「カプセル化」し、認証を経ない限り操作できないよう暗号化する仕組みだ。このとき、ファイルの作成者とカプセル化の権限者を別々にすることにより、文書作成者本人による情報持ち出しも防ぐという。また、認証にバイオメトリクスを利用する場合、生体情報そのものが流出するリスクを抑えるため、データをランダム化して悪用されないようにする「テンプレート保護型生体認証技術」を採用した。
もう1つの特徴は、電子透かし技術を組み合わせることによって、デジタルデータだけでなく紙文書についても来歴を把握できることだ。どのファイルが印刷されたり、コピーされたりしたかという情報を管理することによって、情報漏えい事件の大きな部分を占める「紙媒体経由」の流出を抑止する。
早稲田大学 理工学術院 基幹理工学部情報理工学科の小松尚久教授は、「電子メールやUSBメモリの利用を禁止すれば情報流出は防げるかもしれないが、その場合、企業の活動が著しく阻害され、ユーザーの利便性が低下する。禁止するのではなく、情報が漏えいした場合の流出元を追求できるようにすることで、抑止効果をもたらしたい」と述べている。
関連リンク
情報をお寄せください:
- Windows起動前後にデバイスを守る工夫、ルートキットを防ぐ (2017/7/24)
Windows 10が備える多彩なセキュリティ対策機能を丸ごと理解するには、5つのスタックに分けて順に押さえていくことが早道だ。連載第1回は、Windows起動前の「デバイスの保護」とHyper-Vを用いたセキュリティ構成について紹介する。 - WannaCryがホンダやマクドにも。中学3年生が作ったランサムウェアの正体も話題に (2017/7/11)
2017年6月のセキュリティクラスタでは、「WannaCry」の残り火にやられたホンダや亜種に感染したマクドナルドに注目が集まった他、ランサムウェアを作成して配布した中学3年生、ランサムウェアに降伏してしまった韓国のホスティング企業など、5月に引き続きランサムウェアの話題が席巻していました。 - Recruit-CSIRTがマルウェアの「培養」用に内製した動的解析環境、その目的と工夫とは (2017/7/10)
代表的なマルウェア解析方法を紹介し、自社のみに影響があるマルウェアを「培養」するために構築した動的解析環境について解説する - 侵入されることを前提に考える――内部対策はログ管理から (2017/7/5)
人員リソースや予算の限られた中堅・中小企業にとって、大企業で導入されがちな、過剰に高機能で管理負荷の高いセキュリティ対策を施すのは現実的ではない。本連載では、中堅・中小企業が目指すべきセキュリティ対策の“現実解“を、特に標的型攻撃(APT:Advanced Persistent Threat)対策の観点から考える。