どこでも、いつでも、どのデバイスでも仕事ができる
シトリックス、行き先はデスクトップ仮想化でなく「ワークシフト」
2010/05/16
米シトリックス・システムズは5月12日より米国サンフランシスコで開催したカンファレンス「Citrix Synergy 2010」で、同社の企業デスクトップ環境向け製品がより包括的なものに進化したことを強調した。
もっとも象徴的な発表は「Citrix XenClient」のリリース候補版提供開始だ。シトリックスはターミナルサービス型のシンクライアント・ソリューション(現在は「Citrix XenApp」に含まれている)でスタートした会社だが、現在はこれに加え、仮想PC型(サーバ上で動かす仮想マシンをユーザー端末から遠隔的に利用する)のデスクトップ仮想化技術「Citrix XenDesktop」を推進している。XenClientが年内に正式リリースされれば、ユーザー端末自体を仮想化するクライアント・ハイパーバイザという第3の技術が加わることになる。より正確には、XenAppにはアプリケーションをオンデマンドでユーザー端末に送り込むアプリケーション・ストリーミング機能が含まれているため、XenClientは第4の技術という言い方もできる。

これらの4つの技術を個別に提供するのではなく、1つの統合的な製品として提供していくというのがポイントだ。現在、XenDesktopの主流エディションにはXenAppが含まれている。XenClientもXenDesktopの一機能になる予定だ。すなわち、XenDesktopはターミナルサービス、デスクトップ仮想化、アプリケーション・ストリーミング、クライアント・ハイパーバイザという、あらゆるアプリケーション利用形態に対応した製品に進化する。
さらに多様な端末への対応がある。シトリックスはアップルのタブレット型端末「Apple iPad」からXenAppのアプリケーションを利用できるソフトウェア「Citrix Receiver for iPad」を4月に提供開始した。Citrix Receiverソフトウェアは、すでにPCやMacのほか、iPhone、Blackberry、Android、Windows Mobileの端末に対応済みだ。
「ワークシフト」を実現する基盤
シトリックス 社長兼CEOのマーク・テンプルトン(Mark Templeton)氏は基調講演で、これらの取り組みが「バーチャル・ワークスタイル」を後押しすると強調した。

「仮想コンピューティング基盤を使えば、人々は仕事をコントロールできるようになる。仕事を(その時々で)自分にとってより適した場所に移せる。これを『ワークシフト』とわれわれは呼ぶ。夕食の時間に帰宅することもできるし、子供が病気にかかった親は家で仕事ができる。パートタイマーや高齢者はパートタイムの仕事がしやすくなる。国境や文化の壁を越えたチームでの仕事もしやすくなる。ワークシフトは強力なコンセプトであり、今後は特に、人の生産性が事業の成功を左右するような時代になっていくため、現代のあらゆる組織は対応が必要だ。シトリックスが提供できるのは、仕事を自分にとってより適した場所に移す仮想インフラ技術だ。エンド・ツー・エンドで、仮想コンピューティングに必要なすべてのツールを提供できる」
テンプルトン氏はモバイル端末を画面の大きさで3つに分けて、シトリックスの技術との組み合わせで実現される新しい仕事のやり方を紹介した。大画面を持つモバイルPCは、自由に情報を作成できる環境をもたらす。小さな画面のスマートフォンは、最新情報をチェックしたり、インターネット・メッセンジャーなどでアラートを受信するのに使える。そしてiPadなど、新たに登場しつつある中画面のタブレット型端末は、情報を咀嚼(そしゃく)・検討したり、知識を獲得したりするのに使える。こうした端末の広がりに、企業のIT担当者は備えなければならないとテンプルトン氏はいう。どんな端末が主流になるかを考えるのは無駄で、あらゆる端末に対応できる基盤を構築しておくべきだとする。
さまざまな新端末が登場する一方で、ユーザーにとってメインの業務端末であるPCの世界では、「デスクトップ仮想化がメインストリームになってきた」とテンプルトン氏は話した。直近の2四半期でXenDesktop 4は150万ライセンスが出荷。これはライバルであるヴイエムウェアの「VMware View」を上回る数字という。大規模導入も相次いでおり、富士通は英国政府から14万ユーザーという大規模な納入案件を獲得したという。
XenClientはモバイルと管理の両立を狙う
テンプルトン氏は、2014年には企業におけるユーザー端末の72%がポータブルPCになるという予測を引用し、企業PCは急速にモバイル化が進んでいると指摘した。デスクトップ仮想化は高度に管理された業務環境を提供するには適しているが、何らかのネットワークに接続している状態でなければ利用できない。そこでシトリックスが年内にXenDesktopに搭載しようとしているのがXenClientだ。XenClientを使えば、ユーザーのPCは通常のPCよりもセキュリティ的に有利な仮想化ソフトウェアをベースとし、その上に、企業によって管理されたOS/アプリケーション環境を仮想マシンとして動かすことができる。ユーザーが社内にいる間は、デスクトップ仮想化によって仮想マシンをサーバ上で動かして利用し、外出時にはこの仮想マシンをユーザーのPCにダウンロードして利用することができる。すなわち、ユーザーPCの仮想化環境上で動かす仮想マシンはもともとデスクトップ仮想化用にIT管理者が最適な構成を施したものであり、集中管理のメリットが保たれる。
XenClientでは、PCの紛失や盗難に際してセキュリティを確保するための「リモートキル」機能がある。ユーザーがIT管理者に、紛失あるいは盗難を報告すると、管理者はそのPCの仮想マシンを「殺す」よう設定することができる。すると、次にこのPCがインターネットに接続した時点で、仮想マシンが起動できなくなる。
セキュリティについては、シトリックスは今回、XenAppおよびマイクロソフトのアプリケーション・ストリーミング製品「App-V」用の「Safe Zone」技術を発表した。
これはCitrix Receiverのプラグインとして提供されるもので、XenAppアプリケーション(ターミナルサービス、アプリケーション・ストリーミングの双方が対象)、そしてApp-Vアプリケーションを利用するユーザーが作成するデータを自動的にAESで暗号化する。暗号化用のフォルダが作成され、ユーザーはこのフォルダにのみデータを保存できる。こちらも、PCの紛失や盗難時にはデータを遠隔消去することが可能だ。
シトリックスでは従業員のPCを企業が支給するのではなく、各人が自分で購入したものを仕事に持ち込む「BYOC(Bring Your Own Computer)」という考え方も提唱している。PCを生活の一部として利用する若い世代の従業員は、業務で使うPCも、押し付けではなく自分の好きなものを選びたいからというのがその理由だ。こうした場合や、社外の協力社員が自身のPCを使って企業の業務アプリケーションを利用する際の、セキュリティ対策として開発されたのがこのデータ暗号化プラグインだ。

さらにセキュリティでは、マカフィーとの提携を発表。マカフィーでは、ハイパーバイザ上で動作する複数の仮想マシンを対象としたウイルス対策機能を、同じハイパーバイザ上で動かす1つの仮想マシンで代行する(正確には保護対象の仮想マシンでも小型ソフトウェアを動作させる)製品を提供の予定だ。これによって各仮想マシンのパフォーマンスを劣化せずにウイルスから保護することを狙う。サーバ、クライアントのどちらのハイパーバイザにもこの製品は適用できる。シトリックスは、マカフィーと同様の取り組みを、ほかのベンダとも行っていくという。
企業の従業員は場面に応じて端末を駆使し、いつでもどこでも仕事ができる自由を求めている。企業としてはこれを野放しにせずに、セキュリティを含めた一括管理のもとで実現することが、従業員が最大限に生産性を発揮できる結果につながるとテンプルトン氏は力説する。シトリックスのテーマは、ターミナルサービスやデスクトップ仮想化といった個々の技術を提供することではなく、さまざまな業務形態を、業務に必要な統制のもとで支える仮想コンピューティング基盤を提供していくことなのだという。
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