Oracle OpenWorld 2010基調講演レポート
「Javaを最も速くする」Oracle Exalogic Elastic Cloudとは何か
2010/09/24
米オラクルは、2010年9月19〜23日にサンフランシスコで開催した年次イベント「Oracle OpenWorld 2010」の基調講演で、新製品と戦略の数々を発表した。初日は、CEOのラリー・エリソン(Larry Ellison)氏が登壇し、クラウドコンピューティングのソリューション「Oracle Exalogic Elastic Cloud(以下、Exalogic)」をはじめ、これに付随するさまざまな新技術および製品を発表した。
エリソン氏はExalogicを「サーバ、ネットワーク、ストレージ、仮想化ソフトウェア、OS、ミドルウェアの機能を持ち、すべてが動作するように設計された、完全なクラウド・システム」と表現する。そして「Javaを最も速くする」とした。
エリソン氏がクラウドを再定義
エリソン氏は、基調講演のはじめに「そもそもクラウドコンピューティングとは何か」という話から始めた。「クラウドコンピューティングとは、標準技術に基づいていて、多様なアプリケーションを開発して実行できる“プラットフォーム”で、仮想的でElastic(伸縮自在)で、そして、ソフトウェアとハードウェアを含むものだ」(エリソン氏)。
その代表的な技術として、Amazon EC2(Elastic Compute Cloud)を挙げた。「アマゾンのクラウドは革新的でElasticだ。オラクルも賛同する。Amazon EC2との違いは、パブリックかプライベートかの違いだけだ」
オラクルが提供するExalogicは、Amazon EC2をプライベート・クラウドにしたものと位置付けている。
Exalogicの構成要素
Exalogicは、オールインワンのプライベートクラウド構築基盤システムだ。同社が2008年に発表した高速ストレージ「Oracle Exadata Database Machine」(以下、Exadata」)の技術に基づき作られたためか、見た目もほぼ同じものとなっている。簡単にいうと、DBサーバであるExadataのアプリケーションサーバ版ということだ。
構成要素は以下のようになっていて、サン・マイクロシステムズ買収後にオラクルが手に入れた技術などがふんだんに盛り込まれている、2つの企業の合併の象徴的な製品だ。
- サーバ:30台のOracle Compute Node
- CPU:12コア(2.93GHz)インテルXeon→合計360コア
- メモリ:2.8TB
- サーバ・ストレージ:960GB Flash SSD
- ネットワーク:InfiniBand(Dual Ported 40GB/秒)、10Gbpsイーサネット
- ストレージ・アプライアンス:40TB SAS Disk Image、4TBの読み込みキャッシュ、72GBの書き込みキャッシュ
- 仮想化環境:「Oracle VM」
- OS:「Oracle Solaris 11」「Oracle Enterprise Linux」「Oracle Unbreakable Enterprise Kernel」
- データベース:「Oracle Database 11g」
- ExadataとのDB接続:「Exalogic GridLink for Exadata(以下、GridLink)」
- クラスタリング:「Oracle Real Application Clusters(以下、RAC)」
- キャッシング:「Oracle Coherence(以下、Coherence)」
- JVM:「JRockit」「HotSpot」
- アプリケーションサーバ:「Oracle WebLogic Server(以下、WebLogic)」
- ミドルウェア:「Oracle Fusion Middleware」
- 管理ソフト:「Enterprise Manager」
ハードウェアとソフトウェアの統合でJavaを最も速くする
ソフトウェアはExalogicマシンでI/Oファブリックを利用できるよう最適化されている。InfiniBandベースのI/Oファブリック技術は、アプリケーションから完全に分離したフェイルオーバで、高い耐障害性を実現しているという。ミッション・クリティカルな分野でのクラウド利用を想定していて、Java I/Oスタックにおける並行処理、マルチコア・プロセッサの効率化および最適化のための新たなアーキテクチャを実装した。オラクルがハードウェアとソフトウェアの両方を手に入れた成果の1つの形だ。
Exalogicは、以前から発表があったJavaベースの「Oracle Fusion Applications」(「Oracle E-Business Suite」「Siebel CRM」「PeopleSoft Enterprise」「JD Edwards」など)や業界別ビジネス・アプリケーションを、特別な変更を加えることなく、短時間で稼働させることを目的に、アプリケーション込みで工場で組み立てられ、テストや調整も行われて提供される。ソフトウェア技術者とハードウェア技術者が、一緒に開発・テスト・管理・サポートすることによって、採用企業にコスト削減をもたらすという。
オラクルの内部テストにおいて、Exalogicの1ラックは以下を実証したとのことだ。InfiniBandやSSDを使っていない標準のストレージと比較しての数値だという。
- 1秒当たり100万以上のHTTPリクエストを達成し、インターネット・アプリケーションを12倍速度向上
- 1秒当たり180万以上のメッセージを達成し、Javaメッセージ・アプリケーションを4.5倍速度向上
なぜ、このようなパフォーマンスが得られたのか。以下では、上記の構成要素の中で注目のポイントをいくつか紹介しよう。
InfiniBandは、筺体の中のネットワーク技術として最適化されている。バッファコピーをなくしたり、大きなパケットを使ったり、並行処理を行うことによってInfiniBandの接続性を有効利用している。Exalogicのためにスレッドをスケジューリングするアルゴリズムの最適化もしている。
データセンタでInfiniBandにつなぐことができない環境も見越して10GBのイーサネットも提供しているいるが、それに比べ3倍のスループットを実現したという。
Exalogicは最大8台まで増設できるが、その接続にもInfiniBandを使うので、1つのクラウド、1つのストレージとして使えるという。
GridLinkは、InfiniBandでのJDBCを提供し、OLTP(Online Transaction Processing )で従来に比べ、2〜3倍の高パフォーマンスを実現したという。瞬時の接続フェイルオーバや、Exalogic上のWebLogicとExadata上のRACの間の動的なロードバランシングを実現し、トランザクションにおける親和性を高めいてる。
WebLogicのワークロード自体もExalogic用に最適化されている。拡張性を高めるために、並行処理でリクエストをさばき、スレッドのスケジューリングやクラスタリングを最適化することによって、1.5倍のスループットと遅延性の半減に成功したという。
インメモリ・データグリッドのCoherenceはExalogicの分散データキャッシングの部分で使われている。InfiniBand RDMA(Remote Direct Memory Access)を介してデータをキャッシュすることで、瞬時の故障検出とフェイルオーバを実現。WebLogicとともに使われることが多いという。
メインフレームとの違い
ソフトウェアとハードウェアを一緒に提供するというと、メインフレームが思い浮かぶが、違いは何なのか。「垂直型の拡張性だけではなく水平型の拡張性も持っている。Java EEというオープンな標準技術を使っている」(エリソン氏)のが、メインフレームとの違いという。
1つのパッチで済む
エリソン氏がExalogicの中でも気に入っているのが、パッチ機能のようだ。Exalogicのソフトウェアにパッチする際には、Enterprise Managerを介して1つのファイルを当てるだけで済む。「Exalogicは導入しやすいだけではなく、パッチも当てやすい。1つのファイルで済むからバグの再発も防ぎやすく安全でコスト削減にもつながる」(エリソン氏)
提供形態・時期と日本での展開
Exalogicは、いまから1年以内に提供開始する。価格はハードウェアのフルスタック1台で107.5万米国ドルだ。1/2や1/4のラックでも提供できるという。ソフトウェアは、WebLogic Suiteに加え、必要なFusion Applicationsが追加されて提供される。
Exalogicの日本での展開はどうなるのか。これについては、日本オラクル 代表執行役社長 最高経営責任者 遠藤隆雄氏に聞いた。
遠藤氏は、Exalogicの発表を以下のように振り返った。「『Elastic』というのが、キーワードだった。フレキシビリティなどのいい方もあるが、要は自由度が高いということだ。パブリック・クラウドと同じものがプライベート・クラウドでも使えるという可搬性がないと、あるパブリック・クラウドに移行したシステムやサービスは、そこ以外で動かせないというのは、やはり企業の業務用途ではよろしくない。ラリーは半年ぐらいまでは、Exalogicのことを『Exacloud』と呼んでいた」
「Exalogicは、クラウドのリソースと、それを活用するアプリケーションをあらかじめインテグレーションして、スイッチ・オンで使える環境を提供するものだ。アマゾンのクラウドは世の中のあらゆる技術やアーキテクチャを使って構築された、素晴らしいものだが、企業がプライベート・クラウドの構築で、アマゾンと同じことはできないだろう。しかも自分たちで運営して保守していくのは、まず不可能だろう。だから、手軽に導入できるプライベート・クラウドがオールインワン・パッケージで提供できるのは、とても意味のあることだ。Exalogicは、トラブルやエラーの原因になるインテグレーションのリスクやコストから、企業を解放することを目指している」(遠藤氏)。
今後のオラクルのクラウド戦略として遠藤氏は、「Exalogicに搭載するFusion Applicationsがポイントになる」という。「2011年1月ぐらいからパイロット版、6月ぐらいからGA版を提供開始する予定だ。アプリケーションのレイヤでSaaSとオンプレミス、つまりパブリック・クラウドとプライベート・クラウドを、Elasticに共存・連携させる。それが、究極のクラウド環境だと思う」
日本向けの情報としてFusion Applicationsの日本語化も進行中で、Fusion Applicationsの提供開始と、ほぼ同時に日本語化されたものも提供する予定だ。
オラクルは、すでにCRMなどの「On Demand」シリーズでSaaS提供はしているが(参考:オラクル参入でSaaS市場は? 「Siebel CRM On Demand」正式発表)、アマゾンのようにパブリック・クラウドでPaaS環境を提供することはないのだろうか。これに対して遠藤氏は「SaaSをやると、どうしてもカスタマイズしたい、つまりPaaS環境がほしいという要求が出てくるものだ。おそらく、将来的にやると思う。Exalogicの発表から、それは類推できる」と答えた。
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