実践で鍛えた“市場環境変化への柔軟・迅速な対応力”
NECがWebSAMに込めた
クラウド運用管理へのこだわりとは?
2011/8/15
ビジネスの変化への迅速な対応が求められる企業ITの世界において、「導入スピードの迅速化や柔軟な構成変更が可能なIT基盤」に対するニーズが高まっている。NECでは、この春から大企業向けの仮想サーバメニューに特化したクラウドプラットフォームサービス「RIACUBE-V」の提供を開始した。このサービスはNECがエンタープライズシステムの運用管理製品として高い評価を獲得してきた「WebSAM(ウェブサム)」を共通管理基盤として活用している。WebSAMは「止めてはならない企業向けクラウドサービス」を運用している現場からの多数のフィードバックを基に、クラウドに関するさまざまな機能強化を行っている。この成果が、今後製品として次々に提供されていく予定だ。
シンプル構成で迅速な導入が可能な
クラウドプラットフォームサービス「RIACUBE-V」
NECのWebSAMは同社のノウハウをつぎ込んで育て上げてきた統合運用管理ソフトウェア。仮想化環境も含めたサーバ、ネットワーク、ストレージ等のITインフラの管理から、ジョブ管理、サービスレベル管理、資産管理、IT全般統制管理に至るまで、「統合」運用管理製品と呼ぶにふさわしい豊富な機能を有している。
そのWebSAMでいま、大規模クラウド運用への対応が精力的に進められている。同社が提供している企業向けクラウドプラットフォームサービス「RIACUBE-V」の共通管理基盤として使われることで、現場の厳しい要求に日々応えていることを通じ、「クラウド運用に欠かせない管理作業をどう省力化するか」というテーマに取り組んでいるのである。これをお伝えするために、まずRIACUBE-Vとはどんなサービスなのかをご紹介しよう。
企業の情報システムをインテグレーションする際に、顧客ごとに個別に機器選定や検証を行うより、共通化されたIT基盤を利用する方が調達コストも抑えられるし導入も迅速化できる。そこでNECでは、「ハードウェアやOS、ミドルウェアなどを組み合わせ、あらかじめ事前検証を行って構築したプラットフォームとその運用」を、NECのデータセンターから“サービス”として提供するプラットフォームサービス「RIACUBE」を提供してきた。
RIACUBEは、サーバのタイプや可用性のレベル、運用管理の内容を細かく選ぶことができ、パターンは約2700種類と、多様なニーズにきめ細かく応えられるものになっている。
一方で、業務によっては、「ある程度絞り込まれたメニューでもかまわないから、利用開始までの期間をより短くしたい」というニーズもある。あるいは、「導入後のリソース変更について、柔軟性や迅速性が必要」という場合もある。そのようなニーズに応えるために、今年4月から正式提供を開始したのがRIACUBE-Vだ。
RIACUBE-Vは仮想化に特化した企業向けのクラウドプラットフォームサービスで、仮想サーバのリソース(増減可能な、コアとメモリの組み合わせ)は6種類あり、OSとミドルウェア、ストレージ、ファイアウォールを組み合わせるだけのシンプルな構成。そこに、ネットワークやバックアップなどのオプションの追加も可能。最短5日後に利用を開始でき、利用期間は1カ月単位となっている。
図1 仮想化に特化した、企業向けのクラウドプラットフォームサービス「RIACUBE-V」のサービス一覧(クリックで拡大) |
一般的なパブリッククラウドでは、監視などの運用管理についてはユーザー側が個別に用意しなければならないケースも多い。だがRIACUBE-Vでは、基本的な監視や障害対応は標準で提供される。また、これまでのRIACUBEファミリーで培った経験に基づいて「重要」と考えられるものを、オプションの運用サービスとしてメニュー化している。
RIACUBE同様、RIACUBE-VはNECのデータセンターにおいて、高セキュリティ下で安全に運用されており、高いサービスレベルを求められるバックオフィス系(経理・総務・人事など)の基盤として快適に利用できる。また、RIACUBEとの連携はもちろん、NECのデータセンター内にハウジングされているユーザー企業の自社システムと連携させることもでき、ハイブリッドな運用を実現できる。
クラウドサービス管理ポータルを用意して
一定の自動化を実現
RIACUBE-Vは、共通管理基盤としてWebSAMを使用している。サーバ、ネットワーク、ストレージ、ミドルウェアといったITインフラごとのきめ細かな性能情報や稼動状況を統合的に監視し、障害の早期検知から対処までを支援するツール。さらに、ITILに基づく運用を支援するツールや、アクセスログやIDなどを統合的に管理し、高度なセキュリティ運用を実現するツールなど、WebSAMが提供する様々なツールを利用して、RIACUBE-Vの運用を実現している。
NEC 共通プラットフォームサービス本部 主任 山本大輔氏 |
RIACUBE-Vでは、さらに、リソースプールから迅速に仮想サーバを切り出すための管理ポータルを用意している。これは、後述する今秋リリース予定の「WebSAM Cloud Manager」を先行利用して一部カスタマイズしたものだ。
「利用者が、Webポータルからシステム構成などを入力して、申し込み操作をすると、プロビジョニングをして、その通りに実装しリソースを切り出し、利用者に提供するという一連の作業を、管理ポータルから自動化できるようにしています」(共通プラットフォームサービス本部主任 山本大輔氏)
運用側の手間が少なくなるほど、サービスとして提供する際の価格を低く抑えることが可能になり、最終的にはユーザー企業にとってのコストメリットにつながる。現状ではネットワーク構築やファイアウォールの設定などは一部手動で行っており、そこが今後の課題だという。
上記のポータルは、「RIACUBE-V」上でユーザー企業のクラウドサービスを構築する、NECのエンジニアが操作する。これ以外にも、運用管理者向けの機能も用意してあり、運用管理者は、仮想マシンの停止/起動やバックアップ/リストアを行うことができるほか、リソースの性能情報を参照することも可能だ。
「企業の一般ユーザーは、社内のシステムがどのような基盤で動いているかを意識せずに利用するが、業務システムを運用しているIT管理者としては、トラブルが発生した場合の原因調査や障害予測のためにも、リソースの状態をタイムリーに確認したいというニーズがある」(山本氏)
また、監査が必要な基幹系システムでの利用もあるため、そのためのログ収集や分析のツールも強化している。さらに、今後は、ファイアウォールの設定変更やミドルウェアのパラメータ設定などもポータルに開放することも検討しているという。
企業システムの中には、担う業務内容によって、自社で持つべきと判断されるものや外部のサーバでも構わないものがある。外部のサーバを利用する場合でも、物理サーバを個別に用意するのが適切なシステムと、迅速・柔軟に対応できる仮想サーバが良いシステムがある。つまり、どれか一つで全システムを構築するよりは、それらを適材適所で組み合わせた方が、業務全体の効率を最適化できる。
ただし、その場合にはもちろんそれらを連携させることが必要だし、管理も統合する必要がある。その点、「RIACUBE-V」はWebSAMを利用しているため、仮想化環境の種類や、仮想サーバ/物理サーバを問わず、あるいはオンプレミス/オフプレミスを問わず、さまざまな形態のシステムを一元的に運用管理することが可能なのである。
クラウドを念頭においたWebSAMの進化
WebSAMは、早くからクラウド到来を見据えた製品強化を進めており、自社の大規模基幹クラウドをデータセンターで集中運用するという、実践を通して培ったノウハウを積極的に製品に取り込んでいる。今回、さらにRIACUBE-Vで活用されたことで、IaaSの運用基盤としての要件に対する強化も進められた。
まず、クラウドサービスとしての提供価格を抑えるためには、運用側の管理コストをいかに低減するかが重要となる。実際、RIACUBE-Vの運用グループからは、「1人で1000台を管理したい」という要望があった。しかし、クラウド環境になると、物理サーバを共有利用するため、ある仮想サーバに障害が発生した場合、どの物理サーバで動いているのか、その物理サーバに問題があるのか、それともアプリケーション側に問題があるのかなど、システム障害の原因の切り分けが難しくなる。サービスレベルを維持するためにも、障害発生時の影響範囲の把握は迅速にできなければならない。そのためにも、物理構成と論理構成のひも付けを自動化する必要があった。
WebSAMは、それぞれの監視製品が収集するサーバ・ネットワーク・ストレージ・ミドルウェアなどの情報を、一つのCMDB(構成情報データベース)に集約。従来は別々にマップ表示していた物理構成と論理構成を、一つの画面上で論理と物理、両方の関係性を参照できるようにしている。
さらに、最も負荷の高い作業であるパッチ管理を自動化。サーバであればBIOS、ネットワーク機器やストレージ装置であればファームウェアなど、アップデートやパッチの適用が必要なものは多数ある。OSやミドルウェアのアップデートも含めて、一連の適用作業をあらかじめ検証済みの手順に沿って自動化できるようにしている。
実践で磨かれたWebSAMの新機能を今秋リリース
今後クラウドビジネスにさらに注力していくためには、クラウドサービス管理ポータルは必須だ。NECでは2月28日に「クラウド共通基盤ソフトウェア戦略」として、その開発の方向性を発表した。
この秋に、新規に投入されるソフトウェアとして、まず1つはクラウドサービス管理製品である「WebSAM Cloud Manager」がある。これは、前述の通りRIACUBE-Vで先行利用されたものだが、セルフサービスポータルやクラウド間連携、事業者がサービス提供する場合に必要となる課金用メータリングや契約管理などの機能を含んでいる。
図2 クラウドサービス管理「WebSAM Cloud Manager」とデータセンタ運用の自動化「WebSAM vDC Automation」の管理機能。IaaSのスピーディな立ち上げとクラウドシステム運用の自動化・効率化を支援する |
もう1つは、ポータルからのリクエストに応じた仮想マシン環境のプロビジョニング、リソースプールの管理、提供リソースのモニタリングなど、データセンター運用を自動化/省力化する「WebSAM vDC Automation」である。
NEC 第二ITソフトウェア事業部 グループマネージャー 上坂利文氏 |
「クラウドシステムのライフサイクル全般に関する運用を支援するためには、様々な運用管理製品を組み合わせて利用する必要があります。この場合、連携のための設定や動作確認などに手間がかかりますが、今回、全て自社製品で構成して、製品間連携をシームレスにしているので、導入までの期間を短縮することができます」
(NEC 第二ITソフトウェア事業部
グループマネージャー 上坂利文氏)
また、来年度には、NEC独自の「インバリアント分析」技術を活用したリソースの需要予測機能も提供予定だ。これは、煩雑な設定をすることなく、トラフィックが何倍になればCPU負荷がどのくらいになるというような関係性を自動で予測できる。例えば「キャンペーンを打つのでおそらくトラフィックが3倍になる、すると現状のリソースでは足りなくなる」といったことが予測できるわけだ。
NECでは、「IaaSの提供事業者が、そろそろリソースを追加するか、あるいはスケールアウトして仮想マシンを増やした方がいいといった的確なキャパシティプランニング提案のためのツールにも使える」(上坂氏)としている。
これらの新機能のリリースとともに、価格体系も刷新する予定だ。これまでは買い切りのソフトウェア製品だったが、スモールスタートが可能な月額課金を用意する。現時点では、WebSAM Cloud Managerが、基本使用料25万円に1ID当たり月額50円〜、WebSAM vDCAutomationが、1管理対象当たり、月額7000円〜という従量課金を付加する体系を予定している。
市場環境変化に迅速・柔軟に対応できるとして、多くの企業に浸透しつつあるクラウド基盤。しかし、その効率性・利便性は、運用管理の在り方次第で敵にも味方にもなる両刃の剣と言える。では、クラウドの利点を余すところなく引き出し、業務に役立てられる運用管理の在り方とはどのようなものなのか? これに対するNECの回答が、実践の中で得られた知見の結晶であるWebSAMの機能群ということなのだろう。自社のクラウド運用管理には何が足りないのか、どうすればもっと効率化し、収益向上に役立てられるのか、WebSAMという運用管理バイブルを、一度ゆっくりとひも解いてみてはいかがだろうか。
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