EMCは、2015年5月の「EMC World 2015」で、スケールアウトストレージソフトウエア「EMC ScaleIO」の無償試用の拡大を発表。一方でフラッシュをDRAMの延長として使える外部装置「DSSD」を2015年中に提供開始すると明らかにした。これらは、一般企業のITの、新しい世界への無理ない移行を象徴している。
米EMCは、2015年5月に開催された「EMC World 2015」で、同社のスケールアウトブロックストレージソフトウエア「EMC ScaleIO」の無償試用の拡大を発表した。また、「ソフトウエア・ディファインド・ストレージ(SDS)」のコントローラソフトウエア「EMC ViPR」をオープンソース化することも明らかにした。これらは、EMCの本気度を明確に示している。
EMCは、調査会社IDCのいう「第3のプラットフォーム」の波が、やがて企業ITの世界にもやってくることを、IDCによるリポートのころから認識。それ以来EMCは、「一般企業も、同社自身も、この世界に向けて変わっていかなければならない」ということをメインメッセージとして、さまざまな取り組みを進めてきた。
その一つが、ソフトウエア型のストレージ製品の充実だ。以前よりEMCは、「自社のハードウエア製品の付加価値の大部分はソフトウエアにある」としてきた。とはいえ、同社はハードウエアとしてのストレージを開発・販売することで成長してきた企業であり、売り上げの大部分は、ハードウエアとしてのストレージ製品が占めている。
その同社が、過去約2年にわたり、業界で唯一、中立的なSDSコントローラーといえる「EMC ViPR」を発表するとともに、ソフトウエアオンリーのストレージ製品ベンダーを次々に買収。ブロックストレージ「EMC ScaleIO」、オブジェクトストレージ「EMC ECS」として、販売に力を入れている。
背景にはもちろん、大規模オンラインサービス事業者を中心に、スケールアウトストレージソフトウエアの利用が広がっていることがある。
第3のプラットフォームは、「クラウド」「ビッグデータ」「モバイル」「ソーシャル」の4つの波が、ITに従来とは桁違いの拡張性や柔軟性を求めるようになり、メインフレーム、クライアント/サーバーに続く、新たなプラットフォーム・アーキテクチャが必要になるという考えだ。大まかにいえば、大規模オンラインサービス事業者が採用しているアーキテクチャが、企業にも浸透すると訴えている。
大規模オンラインサービス事業者は、多くの場合、スケールアウトストレージソフトウエアでデータを管理している。ここで重要なのは、ソフトウエアだということだけではない。ニーズに応じて自在に拡張していける、「スケールアウト」ソフトウエアだということに意味がある。そこでEMCは、スケールアウト型のブロックストレージソフトウエアでは「ScaleIO」、スケールアウト型のオブジェクトストレージソフトウエアでは「ECS」を提供している。
ここまでは、驚くべきことではないのかもしれない。一般企業を主な対象とするストレージ製品ベンダーであっても、ストレージ市場全体がスケールアウトストレージソフトウエアに向かっているのであれば、製品を品ぞろえに加えるのは当然ともいえる。
だが、EMCがはさらに踏み込んで、「ScaleIO」の無償試用を拡大した。本番業務に適用しないという条件で、機能や期限なしに、無償で使える試用版を提供開始すると発表したのだ。同社はその理由について、「これまでもEMCのWebで、無償試用版をダウンロードできるようにしていた。だが、『分かりにくい』『期限つきなので十分に試せない』という声が多かった」とEMC Worldで説明した。
つまりEMCは、「スケールアウトストレージソフトウエアは、一般企業においてもまず、大規模オンラインサービス事業者に似たマインドやニーズを持ったアプリケーションエンジニア寄りの人々が選定し、導入を推進する」と考えている。この人たちは、自分たちが自在に試すことのできない製品を選ぶことはない。そこで、利用障壁を最小化するために、無償化に踏み切った。本格運用を始める際には、一般企業の場合、情報システム部門がサポートを購入してくれる可能性が高いし、それでいい、ということだ。
このことを、調査会社ガートナーの提唱する概念、「バイモーダルIT」で説明することもできる。「バイモーダルIT」とは、一般企業のITが、今後2つのモードによって進められていくというコンセプト。モード1は「守りのIT」で、しばらくの間従来のアーキテクチャを保ちながら運用されていく。モード2は「攻めのIT」で、儲けるためのITともいえ、これについては新たなアーキテクチャへの取り組みが積極的に進められるようになる。
多くの企業における、モード2の実質的な推進役は、前述の「大規模オンラインサービス事業者に似たマインドやニーズを持ったアプリケーションエンジニア寄りの人々」だ。モード2向けの製品は、従来のような情報システム部門向けの提供モデルでは、この人々に受け入れてもらえない。「ScaleIO」の無償化試用拡大には、こうした背景がある。
具体的な例を挙げれば、主にモード2で期待されているクラウドプラットフォームにOpenStackがある。OpenStackは、クラウドサービス事業者やオンラインサービス事業者が、その基盤として利用できる。一方でOpenStack、一般企業においても、まず「儲けるためのIT」を高速に回していくための基盤として、普及していくとされる。
EMCは、ScaleIOで、OpenStackのためのストレージとしての、事実上の標準という地位を獲得することを、一つの目標としている。
一般企業のITが、IDCのいう「第3のプラットフォーム」に向かっていくとしても、ほとんどの企業では、明日から全てのITシステムについて、そのアーキテクチャを変えるわけにはいかない。ガートナーが「バイモーダルIT」を提唱しているのはそのためだが、「モード1は未来永劫、従来のままであり続ける」と言っているわけでもない。
モード1のシステムでは、さらなる高速化が求められる場面が増えてくる。また、周辺環境の整備に伴い、徐々に新しいアーキテクチャへの移行が進む。ただし、モード2のシステムに比べ、その移行は慎重で、段階的なものにならざるを得ない。
これが、ScaleIO、ECS以外のEMCのストレージ製品に関する考え方につながってくる。つまり、EMCはフラッシュ関連製品を次々に開発し、アプリケーションへのデータ供給の高速性および低遅延に関するニーズの高まりを、先取りしようとしている。また、既存ストレージ製品では、「一般企業におけるデータ管理」という観点から、ソフトウエア機能の再構成を進めている。
まず、フラッシュ関連では、EMCの「EMC XtremIO」が、データベースやVDI(仮想デスクトップ)だけでなく、基幹システムを含め、高速性が求められるアプリケーションを幅広くカバーする役割を担うようになってきた。XtremIOは高速だというだけでなく、企業が求めるデータ保護・管理機能を備えているという点でも注目される。これまでEMCグループが提供してきたITインフラ製品のうちで、最も急速な立ち上がりを見せており、オールフラッシュストレージ市場のトップシェアを争っている。
さらに象徴的なのは、「DSSD」という製品の開発プロジェクトだ。
DSSDは一見、一般的なオールフラッシュストレージ装置のように見える、共用サーバー間で共有可能なフラッシュ製品だ。複数サーバーのCPUそれぞれにPCIeバス経由で直結し、大量のNANDメモリを、事実上DRAMの延長として使えるようになる。リアルタイム分析やインメモリデータベースなど、大量データの高速処理を支援するという。
DSSDは2015年中に提供の予定で、ストレージとメモリの境界における、従来は考えられなかった用途を切り開く可能性がある。
一方、「EMC VMAX」「EMC VNX」などのブロックストレージ製品も、個々のストレージ製品から、互いに連携し、データ管理基盤を構成できるものに、進化しつつある。
まず、オープンソース化した前述の「EMC ViPR」により、他社製品を含め、ストレージ機種を超えた統一的な利用管理ができる環境が整いつつある。これによって、ストレージ製品は運用手法がばらばらで、手が掛かるという課題に対応する。
一方で、ストレージの機種を超えたデータの自動階層管理が実現しつつある。EMCは、最後のデータ階層として、クラウドストレージサービスを利用できるようにするソフトウエア製品も提供開始した。このように、従来のストレージ製品利用をめぐる課題が、次々にクリアされようとしている。
「メリハリ投資」を可能にするエッジの効いた新製品と、流れるようなデータ管理で、モード1アプリケーションの「第3のプラットフォーム」への無理のない移行を支援する。最近のEMCの活動で、一番見逃してはならないポイントはここにある。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年9月22日