うつくし過ぎるプログラマー、あるいはRubyの女神様など、さまざまな肩書(?)を持つギークタレント池澤あやかさんが、IT企業に転職!?
もしもの世界の話ではあるが、池澤さんが実在の有名IT企業に転職するとしたら、どうなる? エンジニアなら、誰しも興味があるのではないだろうか。
本連載は、そんな架空の設定のもと、池澤さんにさまざまなIT企業で「エンジニアとして」面接を受けてもらう。今回はその準備として「エンジニア池澤あやか」の、これまでの職務経歴の棚卸しと、面接に備えた予習をしておきたい。
アドバイスをくださるのは、「ドワンゴ」技術コミュニケーション室 室長の塩谷啓さん。エンジニアであり、エンジニアの採用や生産性向上にも携わるプロフェッショナルだ。
池澤さんは「事前に書いてきたんです」と言いながら履歴書を取り出し、塩谷さんに手渡した。
しかし、塩谷さんは内容を読むまでもなくダメ出し。その理由は単純明快で「手書きは勘弁してください(笑)」というものだった。
「え〜、一所懸命書いてきたのにぃ」と、へこむ池澤さん。塩谷さんがダメ出しをしたのは、別に字が汚いからではない。むしろ池澤さんの字はキレイだ。
履歴書は手書きがいいのか、PCで作成がいいのか、というのは、よく話題に上るテーマの1つだが、「IT業界でエンジニアを志望するなら、履歴書はデジタルで記載するべきだ」というのが、塩谷さんの持論だ。
なぜなら、IT企業では採用担当以外にエンジニアも履歴書を見ることも多く、履歴書に書かれている情報を手掛かりに、いろいろと「ググる」(Googleで検索して調べる)のだという。しかし、手書きだと検索したい言葉をコピペできないのでイチから入力しなければならない。職務経歴にURLが記載されていることも少なくない昨今では、これが大きな手間となる。「特に池澤さんのようにアクティブに活動されていて『ググラビリティ』(グーグル検索のされやすさ)の高い人ならば、なおさらです」とのことだ。
そして、いよいよ池澤さんの履歴書に目を通し始める。そして内容の薄さが指摘された。それもそのはずで、職歴は「タレント活動など」と書かれているのみだった。
本当は書きたいことがいろいろあったという池澤さんだが「履歴書の職歴の欄が狭すぎて全部は書きれないと思ったので……」と、反省まじりにその理由を説明した。
「そういうときは履歴書とは別に職務経歴書を用意する。エンジニアの転職では、職務経歴書は履歴書よりも1024倍大事!」というのが、塩谷さんのアドバイスだ。これまでにどんなことをやってきたのか、相手に分かるようにできるだけ詳しく書き、インターネットで確認できるものは、URLも添えると効果的だという。
「職務経歴書のフォーマットって、何か決まりがあるんですか?」との池澤さんの質問には、自由書式で構わないとの答え。中にはURLだけ送ってくるツワモノもいるという。
いよいよ、池澤さんの模擬面接がスタート。職務経歴書がなかったので、これまでどんな仕事をしてきたのかを口頭で説明するところからスタートした。
「慶応大学 環境情報学部(SFC:湘南藤沢キャンパス)」出身の池澤さん。学生時代からタレント業をしていたが、実はそれ以外の職歴もあった。
温泉でアルバイトとして働いていたというが、「なぜ温泉?」という疑問に対する答えは、「温泉に毎日入れるかなぁ、と思って」と、とても分かりやすかった。
その後、Web企業でのアルバイトも経験。本格的な就活こそしなかったものの、大学3年次に、Googleの日本法人で1カ月間のインターン体験をしたという。2013年4月に大学を卒業した後からは、タレントとして以外に、フリーランスのエンジニアとしても活躍している。
「Webサイトをつくることが多いですが、企画やデザインから携わるものもあります」と、池澤さん。
「あ、あとGitHubもやっています。気が向いたらアプリケーションを作って載せています」
Vine動画でミュージックビデオを自動生成するWebアプリケーション。GitHubでソースを公開中
「VineMVは、音楽はiTunesのAPIを使い、動画はVineのタグを頼りに、MeCabで入力ワードを要素分解、Microsoft Translator APIで翻訳したりして、該当するものを組み合わせて、それっぽく表示しています」
塩谷さんはさらに、池澤さんがGitHubで自分の書いたソースを公開していることも高く評価した。ソースを公開すると、プログラミングの信条が異なる人たちから痛烈なコメントをもらうこともあり、中には心が折れてしまう人もいるという。
「確かに最初のころは『お前のコードはインデントがおかしい』など、手厳しいコメントが付きました」
それでも、いろいろな人のコメントやアドバイスをもらうことにより洗練されたコードが書けるようになるため、ソースを公開することによってエンジニアが得るものは大きい。また、成果物を発信することで職務経歴が充実し、面接での評価につながるかもしれないという効果も期待できる。
塩谷さんは、職務経歴には具体的な数字を載せておくべきだという。Webサイトなら「PVは月間でどれぐらいあったか」「KPIはどのようなものを設定し、どれぐらい達成率だったのか」などだ。数字を載せることで、そのプロジェクトがどのようなものだったか、より具体的なイメージを持ってもらえるし、いかに数字にコミットしているかも伝わるからだ。
塩谷さんは、職務経歴を見れば、この人は「何ができるのか」はおおむね分かるため、面接の場で重要なのは「何をしたいか」を伝えることだと言う。
「あれもできます、これもできます」と言う人に、「それであなたは何をやりたいの?」と聞くと、明確に答えられないケースも多いらしい。
塩谷さんは、池澤さんにもIT企業に転職して「何をしたいか」をたずねてみた。
「これまで新しいテクノロジーを利用した企画の仕事を多くしてきて、やりがいも感じています。こういった仕事をもっとやっていきたいです」
明確に「企画の仕事がやりたい」と言えるのはとても重要だ。しかし、具体的にどんな企画がやりたいのだろうか?
「テクノロジーを駆使して、人をわっと驚かせられるような企画に携わりたいですね」
池澤さんのやりたいことの方向性は分かったという塩谷さん。しかし、ただ「企画をやりたい」と言うだけでは、もったいないとのことだ。
池澤さんの他のエンジニアにはない経験や強みを加えてアピールすると面接官の食いつきが良くなるという。
池澤さんは、UIのデザインも手掛け、コードも書けるプログラマーだ。企画段階で製品やサービスのプロトタイプまで作れるとなれば、企画職としても大きなアドバンテージになる。そうした視点で捉えれば、先ほどの職務経歴も高い説得力を持って受け止められるようになるはずだ。次回以降面接を受けるIT企業でも、この部分は積極的にアピールしていくべきとのことだ。
最近、普段から手を動かしているかどうかを判断するために、ホワイトボードにコードを書かせながら面接を行うIT企業も多い。ドワンゴでも、エンジニアにはホワイトボード面接を行っているという。そこで、池澤さんにもホワイトボード面接を体験してもらうことにした。
ホワイトボード面接では、シンプルなプログラミングの課題をその場でコーディングしてもらう。今回は例題として、プログラマーにはおなじみの「FizzBuzz」が出された。
FizzBuzzとは、「与えられた数字が3の倍数ならFizz、5の倍数ならBuzz、3と5の公倍数ならばFizzBuzzと出力する」というもの。ホワイトボードの前に立った池澤さんは「う〜ん……」と30秒ほど考えて、記述し始めた。
「あ、勢いで書いちゃったけど。何語だこれ?(笑)Processingかな?」と自分で自分にツッコミながら書き上げた。
池澤さんの書きぶりを見て、普段から手を動かしてコードを書いていることがよく分かったという塩谷さん。でも、それで終わりではないのがホワイトボード面接だ。
プログラム中に、3の倍数を判定するif文、5の倍数を判定するif文、3と5の公倍数を判定するif文があるなど冗長だとして、もっとシンプルに記述できないかという新たな課題が出された。
「case文を使う方法がありそうだけど……うーん」と、長考に入る池澤さん。もっといい方法が、漠然とではあるが頭に浮かんでいる様子だ。
そこで、塩谷さんは、「出力文字列用の変数を『空文字』として用意しておき、条件に応じて文字列を『concat』していったらどうなるか?」という助け舟を出した。
そのアドバイスを聞き、ひらめいた池澤さん。「あ、分かりました。こんな感じですね」
3の倍数なら“fizz”を、5の倍数なら“buzz”を元の文字列に連結し、最後に出力するプログラムを完成させた。if文周りの冗長性を減らし、当初のコードに比べてかなりシンプルになっており、塩谷さんから合格点をもらうことができた。
塩谷さんによれば、ホワイトボード面接の面接官は、文法の細かな正誤を見ているわけではないという。書いたことを説明できるか、応用がきくかなど、プログラミングの基礎能力、思考力、そしてコミュニケーション能力が見られているのだという。間違えたコードを書いても、面接官とコミュニケーションを取りながら、ブラッシュアップしていけばいいので、まずは気負わず書いていくことが大切だという。
次回以降は、実際にIT企業の面接に臨む池澤さん。果たしてどうなるか、乞うご期待!
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アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2016年12月27日