国内最大級の人材サービス企業として、膨大な数の求職者/取引企業のニーズに応え続けているパーソルホールディングス。超ミッションクリティカルなシステムと膨大なデータを持つ同社は、他業種以上にスピードと柔軟性が求められる人材サービス業において、どのようにクラウドを使いこなしているのだろうか。Oracle Cloud導入の経緯と評価を詳しく聞いた。
総合人材サービス企業のパーソルホールディングスがクラウド活用を加速させている。同ホールディングスは、国内外95社からなる総合人材サービスグループ。パーソルテンプスタッフ(旧テンプスタッフ)、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)、パーソルプロセス&テクノロジー(旧インテリジェンス ビジネスソリューションズ)、パーソルR&D(旧日本テクシード・旧DRD)を中核にグループを構成。2017年7月に、テンプホールディングスからパーソルホールディングスに商号を変更し、さらなる事業拡大に乗り出している。
グループ拠点数は490拠点(国内447拠点、海外43拠点)、「DODA」「an」などで扱っている求人数は約34万件、登録求職者数は約780万人、取引企業は年間2万8000社という規模を誇る。人材ビジネス業績ランキング(オピニオン調べ)では国内1位、時価総額ランキングでは世界6位(同社調べ)に位置する日本を代表する人材サービス企業だ。
同ホールディングスがクラウド活用を本格化させる1つの端緒となったのは、2015年、パーソルキャリア(旧インテリジェンス)に「Oracle Exadata Database Machine」(以下、Exadata)を導入したことだ。というのも、パーソルグループが扱っているデータは、求職者の氏名、住所、学歴、職歴などの個人情報をはじめ、「顧客企業が欲している人材像」「給与や待遇の情報」など、きわめて重要かつセンシティブなものが中心となる。そうした「膨大かつクリティカルな情報を安全かつ効率よくビジネスに活用する上では、Exadataが最適な選択肢」と判断したためだ。
その後、グループを構成するに当たり、各社が展開していた基幹データベースをExadataに統合。2016年からは、さらなるアジリティの向上、データ容量の拡張、データベースのパフォーマンス向上を狙い、パブリッククラウドの「Oracle Database Cloud Service」の利用を開始。さらに現在は、Oracle Exadataをクラウドサービスとして提供する「Oracle Database Exadata Cloud Service」の検証も重ねている。
ホールディングス全社が共通利用するITシステムの開発・運用を担う「グループIT本部」において、インフラ部コアインフラ室に所属する佐藤隆一氏は、次のように話す。
「多くの利用者と顧客企業を持ち、社内にも多数のスタッフを抱える当社にとって、圧倒的なパフォーマンスと信頼性を持つExadataは不可欠だと考えてきました。ただ、人材サービスは、常に鮮度の高い情報を収集し続け、効率良く活用することがビジネスの要。人材サービスをグローバル規模で、より効率良く展開していくためには、データベース基盤にもさらなる容量、パフォーマンス、拡張性が必要です。そこで現在、全社の統合データベース基盤としてオンプレミスのExadataを活用するとともに、パブリッククラウドのOracle Database Cloud Serviceを利用し、さらにOracle Database Exadata Cloud Serviceも検証しています。つまり、オンプレミスとクラウド、両方でExadataをフル活用しようと考えているのです」
ただ、このように積極的にクラウドを活用しているパーソルグループにしても、「一度クラウド活用につまずいている」という。同社ではグループ一体経営を目指して、2014年7月から「ITインフラ統合プロジェクト」をスタート。その直後、2014年9月にクラウドをいったん検討し始めたものの、2015年9月に利用を断念しているのだ。
利用を検討した背景について、佐藤氏は「経営環境変化が加速する中で、事業部門からは『新しいことにどんどん取り組みたい』というニーズが多数寄せられていました。そうした要望に迅速に応えるためには、インフラ基盤にもスピードと柔軟性、拡張性が求められていたのです」と振り返る。
しかし、データ活用の信頼性・パフォーマンス向上のためにExadataを採用していた同ホールディングスとしては、パブリッククラウドのIaaS基盤では信頼性が懸念された他、ミッションクリティカルなデータベースシステムを稼働させるにはコスト面でも不利だと判断したのだという。
「オンプレミスのExadataと同等の機能と品質をパプリッククラウド上に構築すると、クラウドの方が1インスタンス/ノード当たりのコストが高くなることが分かりました。その点、オンプレミスに優れた基盤を構築してリソースを使い切る方が、初期コストはかかりますが、トータルで見ればコストを抑えながら高いパフォーマンスを実現することができます。また、顧客や取引先の重要情報を預けるだけの信頼性が果たしてパブリッククラウドにあるのかどうかという懸念もありました。私もそうですが、Exadataの能力を知る人ほど、クラウド利用には慎重にならざるを得なかったのです」
とはいえ、経営環境が目まぐるしく変わる中、いつまでも従来と変わらない運用スタイルが通用するとも考えられなかった。
「そこでクラウドに対する視点を変えることにしたのです。コストだけで見積もるのではなく、ビジネス展開のスピードにどう対応するか、新しいテクノロジーをどう活用するかといった視点からクラウドを評価するようにしました。コストについても『24時間365日、提供し続けているサービスの全てが、本当に必要なのかどうか』を見極め、サービス停止が許されるものについては積極的にクラウドに移行することを決めました。こうした考え方の下、2016年2月の経営会議で、あらためて“クラウドファースト宣言”を行ったのです」
これを受けて2016年5月、同社は「Oracle Cloud Platform」の利用を開始した。それが冒頭で述べたOracle Database Cloud Serviceと、Exadataをクラウド提供するOracle Database Exadata Cloud Serviceだ。この他、IaaSサービスも利用を開始した。
クラウドサービスが複数ある中、Oracle Cloudを選んだ理由の1つは、前述のようにオンプレミスのデータベース基盤をExadataに統合するプロジェクトを進めていたことだ。アプリケーションもExadataで本番稼働させることを前提に開発していたため、クラウド上でもオンプレミスと全く同じようにExadataとOracle Databaseを利用できる点を重視したという。同ホールディングスではこれらのクラウドサービスによって、「スピーディーな開発環境の提供」「拡張性」「コスト削減」の3つを目指した。
「具体的には、仮想マシンを迅速に配備するだけではなく、開発用データベースも迅速に配備して開発・テストを高速化すること、リソースが急に必要になっても環境をスケールアウトさせて対応できること、さらに運用を含めたトータルコストを下げることの3つを狙いました」
Oracle Database Cloud Serviceをまず利用したのは、基幹システムのデータベースだ。当時、同システムでは1年がかりの改修プロジェクトを進めており、並行して複数のテストを実施する必要があった。だが従来はテスト環境を同時に4つまでしか作成できず、これがプロジェクトのスムーズな進行を阻むボトルネックになっていた。そこでOracle Database Cloud Serviceを活用することで、「スピーディーな開発・テスト環境の提供」と「拡張性の確保」を目指したのだ。
結果、Oracle Database Cloud Serviceは大きな成果を生んだ。テスト環境を必要なときに必要なだけ用意できるようになったため、開発スピードが数倍に向上した。また、データベースの利用をいつでも停止できるため、夜間などテストを行わない時間帯は利用停止することでコスト削減も実現。佐藤氏は、「こうしたクラウドサービスとしての利点に加え、Oracle Database Cloud Serviceならではの特長も奏功しました」と話す。
「他社パプリッククラウドのデータベースサービスでは、クラウド事業者側が提供している設定を使うしかありませんが、Oracle Database Cloud Serviceでは変えたいと考えたパラメータを全て変更できたのです。仮想マシンへのアクセスやデータベース・パラメータの変更が自由に行えるOracle Database Cloud Serviceにより、本番環境とほぼ同じ開発・テスト環境を作れたことで、リリース時の懸念を大幅に解消できました」
続いて取り組んだのが、Exadataをクラウドサービスとして提供するOracle Database Exadata Cloud Serviceの検証だ。Exadataを使ったオンプレミスの本番環境とまったく同じ環境をクラウド上に構築できるため、開発のスピード・品質の向上に大きく寄与すると期待されたためだ。
だが検証時点では、米国でサービスが始まったばかりであったため、利用するにはいくつか課題があったという。まず、同ホールディングスのアプリケーションサーバはWindows環境で動作しているが、Oracle Cloud Platformは当初、Windows環境をサポートしていなかった。また国内にデータセンターがなかったため、他社のIaaS上にWindowsを導入してアプリケーションサーバを構築し、米国のデータセンターにあるOracle Database Exadata Cloud Serviceと接続する必要があった。当然、拠点間通信にレイテンシが発生し、Exadata本来のパフォーマンスを十分に享受することができなかったという。
当時のOracle Database Exadata Cloud Serviceは、夜間や土日に利用停止するメニューが提供されていなかったことも課題となった。また本番環境として利用する場合、米国のデータセンターに顧客や取引先などの重要情報を預けることになるわけだが、同ホールディグスのセキュリティポリシー上、データの国外持ち出しも難しかったという。
「とはいえ、現在ではOracle Cloudの国内リージョンが開設され、Oracle Database Exadata Cloud Serviceも国内から提供されることになると期待します。サービスの内容自体には非の打ち所がありません。これまでは開発・テスト環境としてOracle Cloud Platformを使ってきましたが、オンプレミスと全く同じアーキテクチャを採用し、オンプレミスシステムをそのままクラウド移行できることは大きなメリットです。既存システムのクラウド移行による運用効率化には大きな期待を寄せています」
現在はOracle Cloudを顧客企業のデータセンター内でサブスクリプションモデルとして利用できる「Oracle Cloud at Customer」の1サービス、「Oracle Exadata Cloud at Customer」の利用も視野に入れているという。
以上のように、“クラウドファースト宣言”に基づくOracle Cloud Platformの活用は、同社にさまざまなメリットをもたらしている。特に開発・テストのスピードが向上し、ビジネス要請に迅速に応えられるようになったことで、グループIT本部の役割も変化しつつあるという。
というのも、同ホールディングスにおいて、アプリケーション開発はグループ企業のパーソルプロセス&テクノロジーが担っているため、グループIT本部のミッションは「インフラの調達・増強計画の立案」「ベンダーとの交渉や保守契約」といったインフラ管理が中心だった。
だが、クラウド利用を進める中で、グループIT本部のミッションは「(開発部門や事業部門への)クラウドサービスの提供」「(クラウド利用に伴う)運用ポリシー変更の協議」「新サービスの活用準備」など、よりビジネスに近いレイヤーでの活動が増えてきたのだという。
佐藤氏は、「グループIT本部には、『新たな取り組みを推進するためのインフラがほしい』といった声が、開発部門やグループ各社の事業部門から数多く寄せられています。ビジネスの拡大に比例してデータ量も増えており、1年間で1.3倍ほどになりました。データ分析や機械学習、AI活用なども活発化しており、そうした取り組みを支えるインフラ整備の重要性はますます高まっています」と話す。
これを受けて、IT部門の役割についても「インフラの安定運用だけを行っているようでは、われわれの存在意義がなくなってしまいます」と語る。もともと佐藤氏は、旧インテリジェンスの開発エンジニアとしてキャリアを積み、その後、グループIT本部に移ってExadataの導入を推進してきた経緯がある。佐藤氏は、Exadata の導入判断にも寄与したであろう“ビジネス、アプリケーション、インフラのレイヤーまで全てを見渡せる観点”から、Oracle Cloudへの期待も込めて、あらためて強調する。
「どうすれば人材サービス企業としての価値を高めていけるのか、どうすれば既存のインフラやクラウドの旨味を引き出すことができるのか――グループIT本部として、Oracle Cloudをはじめ、さまざまなテクノロジーの可能性を検証し、うまく引き出しながら、新しいビジネス価値をどんどん発想・提案していくIT部門を目指していきたいと思っています」
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