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構造化:全体像を見極め、構成要素を整理する「問題解決力」を高める思考スキル(4)

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構造化とは何か

  • CASE1……一生懸命仕事をしていたつもりだったが、一部の問題に時間を使いすぎてしまい、納期までに十分なアウトプットが出せなかった。
  • CASE2……発生したトラブルに適切に対処したつもりだったのに、真の原因を見落としており、すぐに同じ問題が再発してしまった。
  • CASE3……分からないことがあったので詳しい人に聞いてみたが、いくら説明を受けてもいまひとつピンとこない。

 皆さんも、こんな経験が一度はありませんか。

 原因はいくつか考えられると思いますが、少なくとも今回説明する「物事を構造化する」という考え方を押さえておけば、この手の失敗はかなり回避できるでしょう。なお、ここでいう「構造化された状態」とは、(1)全体を把握したうえで、その構成要素についても明らかになっている、(2)構成要素間の関係が分かりやすく整理されている、の2つの意味を含みます

●構造化とは何か

図1 たまたま目についたことだけではなく、全体を見極め、要素間の関係を整理したうえで考える(出典:『MBAクリティカル・シンキング』 グロービス・マネジメント・インスティテュート著、ダイヤモンド社刊)
図1 たまたま目についたことだけではなく、全体を見極め、要素間の関係を整理したうえで考える(出典:『MBAクリティカル・シンキング』 グロービス・マネジメント・インスティテュート著、ダイヤモンド社刊)

 この「物事を構造化する」という概念は、一般的にあまりなじみがないかもしれませんが、ITエキスパートの皆さんならイメージしやすいと思います。例えばデータベースなら、(1)データベースの要件がきちんと定義されていて、エンティティやその構成要素が明確になっている、(2)エンティティ間の関係がER図((Entity Relation Diagram))などによって明確になっているといったところかと思います。あるいは、プログラムにおけるフローチャートをイメージしてもいいですね。

 いずれにせよ、構造化には下記のような3つのメリットがあります。ITエキスパートは普段から「構造化」を活用している方が多いので、実感していただけると思います。

構造化「3つのメリット」

  • 全体が把握できるため、漏れやダブりを回避しやすい
  • 要素間の関係が明らかなので、修正や問題解決の際に的確な対処ができる
  • 情報共有しやすい
  • 要素間の関係が明らかなので、修正や問題解決の際に的確な対処ができる
  • 情報共有しやすい

構造化はビジネス面でも役立つ

 さて、ビジネスにおいて「構造化する」という思考技術は、2つの局面で役立ちます。1つは問題解決、もう1つはコミュニケーションの局面です。ここでいう問題解決とは、単に「トラブルを解消する」という意味ではなく、「課題を克服する」というものです。従って、「現状ではあまり問題はないが、もっと良くできるはずだ。どうしたらよいか」といった状況も問題解決に含めています。

 問題解決の際は、最初に問題を取り巻く背景を構造的にとらえる必要があります。これができれば、そこから問題解決の大きなヒントが得られることになります。その構造を踏まえて文章の論理展開に落とし込むことによって、コミュニケーション、特に説得に効果を発揮します。状況を構造的に把握できないままの行動や主張は、効果や説得力がなくなり、誤解を生んで思いがけない“負の副産物”を生み出したりもします。容易に反論を招く結果にもなります。

 特に、ITエキスパートのキャリアステップとして有力なコンサルタント職を目指すなら、ほかの人たちとは一味違う状況分析・提案・説得をできるかどうかが鍵になります。そこで次のセクションでは、コンサルタントの仕事を例に「事象の構造化」を解説します。

事象を構造化する

 ビジネスにおける問題やトラブルは突発的、個人的なものではなく、構造的なものによって起きることが多いといえます。従って、対象としている事象の本質的なメカニズム・構造を理解しておくことで、どこを改善すればより大きな効果が得られそうか、どこから手を付ければ「ドミノ倒し」的に効率良く問題を解消できるのかが見えてきます。

 さらに、何らかのアクションをと取ったときに、どのような副作用が発生するのかなども推定できます。そのためには、ある特定の状況について、独立した事象、表層的な事象に目を奪われるのではなく、以下の3つのポイントを明らかにする必要があります。なお【3】は、【1】や【2】とは次元が違うテーマであることにご注意ください。

 【1】 全体としての事象間の関係性(特定時点でとらえた関係性)

 【2】 因果のメカニズム(時間軸でとらえた関係性)

 【3】 個別要素の重要度(関係性の「定量感」)

【1】 全体としての事象間の関係性

 これは、ある事象や人物を取り巻く状況を特定の時点で過不足なくとらえ、互いの関係(力関係、影響力など)を分かりやすく示すことを指します。典型的な例は人物間の相関図です。

 優秀な交渉家は、交渉に臨む際、争点の数や質に加え、「相手の組織内での位置、決定権、関係者間の力関係、そのほかの関心事」を一覧できるマップを作ってから仕事を始めるといわれています。特に、BtoB(企業間)ビジネスにおいては一顧客の意思決定が収益を大きく左右するため、このスキルは重要です。

 例えば、クライアント側の担当者が変わった場合、仕事の進め方を変える必要があるかもしれないので、あらためて人間関係を整理して対策を考えてみるとよいでしょう。

●人物相関図を例に事象を構造化する

図2 クライアントの担当窓口が変わった。今後、新担当A氏と仕事をする上で何に注意すべきか?
図2 クライアントの担当窓口が変わった。今後、新担当A氏と仕事をする上で何に注意すべきか?

 優秀なコンサルタントは、コンサルティング・ワークだけでなく、形が見えず結果も不明確なコンサルティング・サービスをいかに売るかにも長けているものです。事実、コンサルティングファームで昇進するにはこの力が不可欠です。また、コンサルティング・ワークにおいても、クライアントやチームメンバーをうまくマネージして結果を出すにはとても有益なアプローチといえるでしょう。

【2】因果のメカニズム

 これは、因果が「Chicken-Egg」的で相互依存性が存在することの多いビジネス環境において、観察される事象の因果構造を明らかにするものです。これもコンサルティングファームの事例で考えます。例えば、あるクライアント企業の事業部で以下のような事象(問題点)が表層的に観察されたとしましょう。

(1)……地方の営業成績が良くない

(2)……地方は顧客が分散しており販売効率が低い

(3)……営業担当者が地方に行きたがらない

(4)……地方の営業担当者はなかなか歩合給を稼ぎにくい

●問題の因果関係を把握する

図3 表面的に見えている要素だけでなく、隠れた要素にも注意して因果関係を想定する
図3 表面的に見えている要素だけでなく、隠れた要素にも注意して因果関係を想定する

 ここで、物事を構造的にとらえることができないコンサルタントと、それができるコンサルタントの思考パターンを比較してみましょう。

構造的に考えられないコンサルタント

 「大きな問題はこの4つだな。さて、それぞれの問題に対して手を打つ必要がある。どこから手を付けようかな。最終的にものをいうのは営業成績だから、(1)の問題を中心に考えるべきだろう。(3)と絡めると、これは結局、優秀な営業マンを優先的に地方に配属すべきということだろう。さっそく、優秀な営業マンを何人かピックアップして地方に配属するように提言しよう。地方は嫌とか何とかいう奴もいるだろうが、そこは会社のためということで説得させるように仕向けてみるか」


構造的に考えられるコンサルタント

 「(1)から(4)のことはまったく独立して起きている問題ではなく、根本のところでつながりがある。おそらくこのような形に整理できるだろう(図3)。となると、まず営業マンの評価・インセンティブのスキームを見直すことから考えるべきだ。地方については都市よりも有利な歩合給制度を導入することを提案しようか。あるいは、いっそのこと、地方では代理店の活用をもっと積極的に図るべきだと提案する必要があるかもしれない」


【3】個別要素の重要度

 世の中で発生している出来事は、極論すればすべて複雑な関係図・因果関係図に落とし込めるわけですが、複雑な関係を複雑なままとらえていては、何らかの対策が必要なときに、どこから手を付けていいのか分からなくなります。厳密性にこだわり過ぎることはむしろマイナスと考え、ある程度割り切って、複雑な構造の幹の部分を浮き彫りにすることが肝要です。

 そのためには、どの要素が重要なのか、どの要素なら無視しても大丈夫なのか、その「量感」を素早く見分けるセンスが必要です。量感が加わることで、単に定性的に構造化した場合に比べ、問題解決の難易度や、問題解決の方向性が分かりやすくなります。これはとても重要な概念ですので、次回にもう少し詳しく取り上げたいと思います。

筆者紹介

芳地 一也

(株)グロービス・マネジメント・バンク、コンサルタント。グロービス・マネジメント・スクールおよび企業内研修においてクリティカル・シンキングの講師も務める。東京大学文学部心理学科卒業後、(株)リクルートを経て現職。グロービスは経営(マネジメント)領域に特化し、ビジネススクール、人材紹介、企業研修、出版、ベンチャーキャピタルの5事業を展開。経営に関するヒト・チエ・カネのビジネスインフラを提供することで、日本のビジネスの「創造と変革」を目指している会社。



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