ネットワークの普及とネットワークエンジニア
現在では、子どもから年配の方まで何らかの形でコンピュータを利用する機会が増えている。小学校の教育課程に取り入れられるなど、一家に1台のPCという環境も現実味を帯びてきた。そうした中で、実際にコンピュータを使用するときに、“ネットワークに接続する”ことは当たり前になっている。インターネットにつないでWebページを閲覧する、電子メールで情報をやりとりするなど、すべてネットワークを利用している。どのような仕組みで構成され、どのような技術で動作しているのか、といったことを知らなくても利用できる。
しかしネットワークエンジニアは、一般の利用者が知らなくてもよい部分の知識を知ることで、ネットワークをしっかりと構築できる技術を身に付ける必要がある。利用者があまり意識しない部分ということは、目に見えにくい=分かりにくい、ということでもある。ネットワークは、利用者から見えにくいところで動作しているものだけに、イメージがつかみにくい。ネットワークエンジニアを目指す場合の第1のステップは、この壁を乗り超えることになる。
ネットワークを学ぶために
さぁ、これからネットワークを学ぼうという方には、少なくともコンピュータの基礎知識は持っていてもらいたい。だからといって、最初から詳細な知識は不要である。入出力処理について、機器の基本構成・動作概要を把握しており、基本的な操作ができれば問題ない。そしてできれば、インターネット接続や電子メールの利用経験があれば、ネットワークのイメージをとらえやすいだろう。
最初に、ネットワークエンジニアを目指すためのステップをまとめたので、参考にしてほしい(図1)。
基本をしっかり学ぶ
何でもそうであるが、基本をしっかり押さえておくことは重要である。ネットワークの基本とは、まず階層化の概念を理解することである。さまざまなシステムやプロトコルが存在し、すべてが同じ構造で成り立っているわけではないが、階層化の考え方はすべてにおいて共通している。この共通項を定義したOSI基本参照モデルは、きちんと整理して覚えておく必要がある(表1)。階層の1つ1つがどのような働きを持ち、それらがどのように積み重なってシステムを構成しているのか。また、同一階層のシステム間における相互関係について、理解していなければならない。
第7層 | アプリケーション層 |
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第6層 | プレゼンテーション層 |
第5層 | セッション層 |
第4層 | トランスポート層 |
第3層 | ネットワーク層 |
第2層 | データリンク層 |
第1層 | 物理(フィジカル)層 |
表1 OSI基本参照モデル |
特にデータ転送に関する定義を行っている下位層(第1層〜第4層)については、ネットワークエンジニアにとって最も重要な部分となる。ネットワークシステムを構築する際には、各階層の機能に見合った機器を選択する必要がある。機器の役割によって、単にネットワークを拡張するだけのものもあれば、セグメントを分けたり、負荷分散を行うものもある。また、複数のネットワークシステムを相互に接続する場合には、同一階層プロトコルによる整合性にも注意が必要である。階層化の概念をしっかり理解しておかなければ、ネットワークシステムは構築できないのである。
個々の階層における役割・機能をつなぎ合わせ、それらの相互作用を理解したうえで、システム間のつながりを把握していただきたい。各システムがネットワークを介して接続され、データがどのように流れていくのか。つながりが見えれば、ネットワークのイメージが現実なものとして見えてくるはずである。単なる利用者である限り架空の世界であるネットワークが、鮮明なイメージとしてとらえられる。これは、ネットワークエンジニアにとって必要不可欠なのである。
次に、ネットワークの全体像を理解していなければならない。個々の詳細技術も必要ではあるが、まず全体像をイメージすることが大切である。ネットワークと一口にいっても、家庭内LANから企業LAN、全国拠点を結ぶWANなどさまざまである(図2)。それぞれの特徴や形態を理解し、標準的な技術については一通り把握しておきたい。また、当然のことながら、LANとWANを結んで構成されるネットワークも多いため、相互関係についても知る必要がある。
TCP/IPプロトコルは必須
実際のネットワークシステムで使用されている通信プロトコルは、TCP/IPプロトコルがデファクトスタンダードである。TCP/IPを知らなければ、ネットワークシステムを構築することはできないといっても過言ではない。TCP/IPが誕生してから約30年にもなるが、いまなお世界中で最も広く使われているプロトコルである。
TCP/IPを利用したネットワークシステムを構築する際には、エンドユーザーが利用するPCのIPアドレスから、サブネット、ルーティングプロトコル、外部ネットワークとの接続など、さまざまな項目を考慮しなければならない。いろいろな技術が組み合わされ、それらを考慮しながらシステムが構築されていくのである。
まずは、TCP/IPプロトコルそのものの本質をしっかりとらえておくことが大切である。TCP/IPは、長い歴史の中でその時代のネットワークに合った技術が数多く考えられ、標準化されてきたが、基本的な仕様は変わっていない。IPはコネクションレス型のプロトコルであり、パケットを目的のコンピュータまで届けることに専念するベストエフォートサービスである。TCPはコネクション型のプロトコルであり、IPを補って信頼性の高い通信を実現する。それぞれの基本機能や動作について、きちんと理解しておこう。
TCP/IPプロトコルとは、一般に連動するプロトコル群の総称である。IPとTCP(またはUDP)をベースに、HTTP、FTP、SMTP、DNSなど多数のアプリケーションプロトコルが動作する。また、IPとともに実装されるICMPや、IPアドレスからハードウェアアドレスを獲得するためのARPなど、たくさんのプロトコルが連動する。TCP/IPによる通信は、これらが相互に作用する仕組みなのである。TCP/IPのプロトコルスタックを把握し、階層としてシステムを見ることができるようにしたい(図3)。また、前述したようなよく利用されるプロトコルについての知識も、合わせて身につけておくことが必要である。
LANの学び方
LANは、ある意味ユーザーが自由に構築できるネットワークである。その反面、管理が難しいともいえる。さまざまな技術を駆使して構築しても、汎用性・拡張性のないLANではすぐに再構築を余儀なくされてしまう。無駄な作業が発生しないようなシステムを構築するためには、まず標準技術についての知識をしっかり身に付けることが大切である。自由なネットワークであるからこそ、標準技術をうまく組み合わせることが重要になる。
LANの標準といえばイーサネット(Ethernet)が代表格であるが、イーサネットも日々技術革新が行われている。より速く、効率的なネットワークへと対応している。ところが、同じイーサネット規格でもすべてそのまま接続・利用できるわけではない。また、構成によってはネットワーク効率の高いシステムもあれば、まったく効果の期待できないシステムもでき得る。つまり、LANは自由に構築できるからこそ、技術をしっかり把握していなければならないのである。
LANを構成する際には、さまざまな要素を検討することになる。例えば、伝送路として有線を使用するのか、無線を使用するのか。有線であれば、ツイストペア・ケーブルなのか、光ファイバ・ケーブルなのか。ツイストペア・ケーブルであれば、どのカテゴリのものを用意するのかなど、それぞれの特徴を理解したうえでなければ選択はできない。
LANの接続装置も非常に数多くの選択肢がある。基本機能の違いにより、HUB、スイッチングHUB、ルータ、レイヤ3スイッチなどに分けることができる(図4)。まずは、各装置の機能、役割を理解することから始めよう。どのような目的で装置を利用するのか、その際に最適な機器は何であるのか、という具合に結び付けていくのである。実は、ここでも階層化の概念が重要になってくる。データリンク層レベルでLANを接続し、コリジョンドメインを分割して負荷分散したい、となると、スイッチングHUB(ハブ)が適合する。
このように、各装置をネットワークの階層に照らし合わせ、基本機能を理解していこう。実際の機器は、製品によって付加される機能が異なっていたり、ポート数やインターフェイスが異なったりと、より複雑になっている。ネットワークシステムを構築する際には、さまざまな側面から製品を吟味し、選択しなければならない。機器カタログの内容を読み取れるようにしておくことが望ましい。
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