やる気を数値化する「モチベーション診断ツール」:ITエンジニアのためのモチベーション診断(2)(1/4 ページ)
ITエンジニアのモチベーションを考える連載。第1回は、ITエンジニアが抱えるモチベーションの問題を事例を基に紹介。第2〜3回は、モチベーション診断ツールを掲載する。あなたのモチベータ(やる気のもと)を明らかにする!
前回の記事「あるきっかけで生まれ変わったASPサービス担当者」の文末で予告したとおり、今回は自分のモチベーションの要因を診断するツール(自分のいまのモチベーションを客観的に測るツール)、「MSQ(Motivation of Status Quo)」の簡易版を掲載する。
モチベーションを上げる方法は人によって異なる。モチベーションを上げるには、自分のやる気を促進する要因、あるいはやる気を削いでいる原因を把握することが不可欠だ。この診断ツールは、自分のいまのモチベーションの状態と、自分のモチベーションを左右する要因を明らかにする。読者の皆さんの明日からのモチベーション管理に役立てば幸いだ。
個人のやる気を分析するシステム、MSQとは何か
MSQは、働く人が持っているワークモチベーション(仕事への意欲)について、取り巻く環境や置かれている状況などさまざまな要素を基に分析し、自分のいまのワークモチベーションの状態や傾向を数値化するシステムだ。モチベーションという目に見えないものを数字で表すことで、モチベーション管理を客観的に行えるようにする。
MSQ診断では次の3つのことが分かる。(1)自分のやる気の高さ(100点満点で得点化)、(2)やる気の高さに対する自分が上げられている成果の度合い(自己評価と、過去の蓄積データによる統計的評価)、(3)自分のモチベーションスタイル(モチベーションの要因)。
(3)のモチベーションスタイルとは、働く人が持っているモチベーションの要因を9個に分類し、それぞれ1つずつ(自分にとっての)「関心度」と「満足度」という指標で測り、グラフ化したものだ(図1)。自分のモチベーションが上がる/下がる要因が分かる。関心度が高い要因の満足度が低い場合、その要因がモチベーションの阻害要因といえる。自分のモチベーションを支える複数の要因を把握し、それら1つ1つの要因を戦略的に伸ばしていくことがモチベーションの向上につながるという考えがベースにある。次のパラグラフで、ITエンジニアによく見られるモチベーションスタイルを紹介する。
図1 ある人のモチベーションスタイル(ITエンジニアに多く見られるモチベーションスタイル)。横軸が関心度、縦軸が満足度。両方が高い得点を出すモチベータがモチベーションの向上をけん引している。逆に、両方の得点が低いモチベータは、モチベーションにあまり影響していないといえる。一方、関心度が高のに、満足度が低いモチベータはモチベーションを阻害している原因となる。
ITエンジニアによく見られるモチベーションスタイルとは?
MSQは、モチベーションのコンサルティングを行うJTBモチベーションズが1996年に開発したツールだ。この10年間の診断結果を基に、ITエンジニアによく見られるモチベーションスタイルについて、JTBモチベーションズ コンサルタント 野本明日香氏に尋ねた。モチベーションスタイルは人によって変わるため、モチベーション戦略の立て方も人によって異なるそうだが、ITエンジニアというくくりでよく見掛けるモチベーションスタイルは図1のような状態だという。
「はっきり申し上げますと、ITエンジニアのモチベーションは、一般平均と比べて低いです」と野本氏は述べる。
「例えば図1の人は、モチベーションの起因要因になっているものが何もないという非常につらい状態です」(野本氏)。環境整備、期待・評価、職務管理、適職など関心の高い要因はすべて満足度が低く、業務遂行と環境適応の2つの満足度が突出している高ストレス型だ。これはどういうことなのだろうか。
「図1の人を想像するとこんな人です。保守運用のITエンジニアとして、日々やるべきことが山積みなのに、ある日突然プロジェクトが火を噴き、現場へ駆けつけなければならない状況になります。環境適応のモチベータ(やる気の要因)が高い人で、トラブルが起こると『よし、俺の出番だ!』とモチベーションが上がります。よって変化に適応できているため、図1のように環境適応の満足度が高なります。ですが、そういう状態がずっと続けば当然疲弊してきます。トラブルが起こった際、『自分からどんどん飛び込んでいきたいか』と考えると、『それほどでもない』という状態が、関心度の低さに表れています。つまりこの人は、関心度の低いことを頑張っている状態です。だから、やるべきことをこなす業務遂行や、環境の変化についていく環境適応というモチベータが上に突出しているのです」と野本氏は説明する。
このような状況にあるITエンジニアはどうすればいいのだろうか。野本氏は自己表現のモチベータを刺激することが改善につながると述べる。「自己表現というモチベータは、自分で考えて仕事をするという創意工夫のモチベータで、成果を出すうえでもすごく大切な要素です。同時に、お客さま指向という考えもこれに含まれており、意識しなければならない要因です」。つまり、顧客にとっていい仕事をする、顧客が使いやすいように工夫をしてシステムを作ることが自己表現のモチベータに含まれる。図1だけを見ると、この人は、顧客のことをあまり考えず、決められたことをこなしているという様子がうかがえる。「この自己表現の部分を育てることで、この人の仕事の質は改善します。私がよくお客さまにお勧めするのは、『お客さまの声をフィードバックしてもらう機会を設けてください』ということです」(野本氏)。実際にシステムを使ってどうだったか、悪い評価もいい評価もすべて顧客からフィードバックをしてもらうことで、作る側の創意工夫への意欲に磨きがかかり、モチベーション向上につながるということだ。
次のページでは、読者の皆さんに自分のモチベーションがいまどういう状態にあるかを実際に診断していただきたい。今回掲載する診断ツールは、MSQの機能の中で(3)のモチベーションスタイルに当たる、「自分のモチベーションの要因」を調べるもの。ただ、簡易版のため満足度のみの指標となることをご了承いただきたい。
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