人材紹介のキャリアマートは12月22日、企業経営者や人事関係者、大学関係者を対象としたセミナー「急増する内定取り消しについて考える」を開催した。厚生労働省の担当者を講師として招き、内定取り消しの現状や対策、法的問題について説明した。
少なくとも331人が内定取り消し
第1章は「内定取り消しの現状と、対応指針」と題して、厚生労働省 職業安定局 若年者雇用対策室 若年者就職援助係長 布川秀樹氏が講演を行った。布川氏は新卒学生の内定取り消しの現状について、「ハローワークが指導中のものを含め、11月25日現在確認できた限りで331人」と説明。特に不動産業やサービス業、製造業に取り消し人数が多いと語った。
これに対する厚生労働省の取り組みとして、布川氏は「特別相談窓口の設置」「『新規学校卒業者の採用に関する指針』の一層の周知」「大学などとハローワークの連携強化」の3点を挙げた。特に「新規学校卒業者の採用に関する指針」について詳細に説明。ポイントは下記の通り。
- 採用内定は、その企業への採用が保証されたものであり、法的にも「労働契約が成立した」と見なされるケースが多い
- そのため、事業主は原則、採用内定を取り消さないものとする
- やむを得ず内定取り消しを検討しなければならない場合は、あらかじめ学校またはハローワークに通知し、ハローワークの指導を尊重する
- 採用内定の時点で労働契約が成立したと見られる場合は、合理的な理由がない限り、採用取り消しは無効
ただし、現状では「ハローワークへの事前通知がないままに内定取り消しを行ったとしても、それに対する直接的な罰則はない」と布川氏。現在、2009年1月中を目処(めど)に悪質な企業の企業名公表を検討しているほか、内定取り消しを受けた学生の採用に奨励金(中小企業は100万円、大企業は50万円)を設けるなどの施策で対応していくとしている。
採用内定は、双方の合意があれば労働契約に当たる
第2章では「内定取り消しの法的性質と留意点について」と題し、厚生労働省 労働基準局 総務課 労働契約企画室 竹崎孝二氏が法律面での解説を行った。
竹崎氏は「採用内定とは、基本的には労働契約に当たる」とし、「契約時点で知ることができなかったような、内定取り消しするに足る合理的理由がない限り、内定取り消しは無効」と説明した。この際、採用内定通知などに採用内定取り消し事由が記載されていたとしても、客観的に合理的と認められなければ無効であるとした。
さらに、竹崎氏は3つの判例を参考に「どの段階で労働契約が成立したと見なされるか」「合理的な理由とは具体的にどのようなものか」を説明。労働契約に関しては「双方の合意が重視される」とし、少なくとも「企業からの採用内定の通知と、学生側の誓約書の提出」があれば労働契約が成立するという判例を示した。また、「双方の合意がポイントのため、口頭でのやりとりでも成立したと考えられる場合もある」と付け加えた。
内定取り消しが認められる場合については、竹崎氏は「採用内定を出した段階で知ることができないような事実で、かつ内定取り消しに足ると客観的に認められる場合」と説明。具体的には「卒業できなかった」「実は何らかの病気を患っていた」「採用内定が出された後に逮捕された」などの場合が考えられるという。「業績の悪化」などに代表される、企業側の理由によるものの場合は、通常の従業員を解雇する場合に適応される「整理解雇の4要件」に準ずる。整理解雇の4要件とは下記の通り。
- 人員削減の必要性(本当に必要なのか)
- 人員削減の手段として整理解雇することの必要性(整理解雇を回避するための経営努力を行ったか)
- 被解雇者選定の合理性(なぜその人なのか)
- 手続きの妥当性(対象者への説明や、納得を得るための手順を踏んでいるか)
以上を踏まえた上で竹崎氏は「個別の労働紛争について相談したい場合は、総合労働相談コーナーを利用してほしい」と投げ掛けた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.