「こんな人材が欲しい」から始まる人事制度:IT企業のための人事制度導入ノウハウ(4)(2/2 ページ)
IT企業の人事担当者に読んでほしい、人事制度導入ノウハウ。導入プロジェクト開始の準備から設計、導入、実際の運用まで、ステップごとに詳細に解説する。
求める人材像の設定方法
次に、求める人材像の具体的な設定方法を、3つのステップに沿って解説します。
1.人材の種類を設定する
当然ながら、自社で必要な人材の種類は1種類とは限りません。前回までで述べてきたように、「プロジェクトマネージャ」はIT企業にとって重要な人材ですが、そのほかに会社の運営を担う「経営人材」(幹部社員・管理職)も、「IT技術の専門職」(スペシャリスト)も必要でしょう。
先に述べた「わが社の競争優位要因」を具体的に考え、社員が中長期的に目指す姿を具体的にイメージするためには、人材の種類を具体的に設定するのが望ましいように思えます。しかし細分化しすぎると、ビジネス環境やIT技術が変化するたびに求める人材像を修正しなければならなくなります。多くのIT企業においては、上記の3つの人材像(経営人材/プロジェクトマネージャ/ITスペシャリスト)を考えてみるのがよいのではないでしょうか。
IT業界の人材像(特にITスペシャリスト)を考えるうえでは、ITSS(ITスキル標準)の「キャリアフレームワーク」「スキルディクショナリ」も参考になります。
2.「知識・スキル」「コンピテンシー」「価値観」の観点で人材像を具体化する
求める人材像は、「知識・スキル」「コンピテンシー」「価値観」の3つの観点から具体化していくことをお勧めします。
「知識・スキル」とはITの専門知識や技能のことであり、「データベース領域の最先端のスキル」や「顧客業務に関する知識」などが挙げられます。「コンピテンシー」とは優秀人材が特徴的に有している能力のことであり、「多様な専門性を持つメンバーの意識を結集するリーダーシップ」や「顧客との信頼関係を築く関係構築力」などが挙げられます。「価値観」は創業の精神や仕事をするうえで共有しておきたい考え方のことであり、「新たな技術領域への積極果敢なチャレンジ」や「チームプレーの尊重」などが考えられます。
ここでも、IT業界の技術変化を念頭に置いて考えることが重要です。特に知識・スキルについては、「自社のコア事業であるデータベース領域の最先端のスキルを常に吸収し続けられる人材」といったように、技術変化へのキャッチアップを求めるような内容にすることが必要でしょう。
3.重要な要件に絞り込み、分かりやすい表現にブラッシュアップする
社員や入社希望者が「わが社の求める人材像」を読み、自分に何が求められているのかをイメージできなければなりません。また、「このような人材になりたい」と思えるような、魅力的な表現を心掛けることも必要でしょう。
具体的には、まず人材像として設定する要件の数を絞り込むことが重要です。先に「知識・スキル」「コンピテンシー」「価値観」の観点から人材像を具体化すると述べましたが、それぞれの観点について5つも6つも要件を設定したらとても覚えきれません。1つの人材像について、3つの観点で多くても5つ程度の要件にまとめるようにしましょう。
表現の仕方についても十分な検討が必要です。「社員に伝えたい重要なメッセージが分かりやすく表現されているか」「社員が目指す姿として魅力を感じる表現になっているか」という観点から、経営幹部やプロジェクトメンバーなど多くの人々の視点でチェックするようにしましょう。
コラム2 ある企業での「求める人材像」の議論
私たちがコンサルティングを行ったIT企業で、「求める人材像」の議論を行ったときのことです。幹部社員から若手社員までがメンバーとして参画していました。彼らに「今後の事業戦略を踏まえ、わが社の優秀人材はどうあるべきだと思いますか?」と問い掛けたところ、若手社員から「高い技術力を持ったスペシャリスト」「創造性のあるITエンジニア」などの意見が出されました。しかし、現状分析を行った私たちは異なる意見を提案しました。
- 顧客には公的機関が多い。創造性も重要だが、こまごまとしたことをミスなく完ぺきに行えることの方がより重要なのではないか
- システム開発の規模は小さい。若手のITエンジニアであっても、顧客との折衝を行うことは日常茶飯事だ。若手でもコミュニケーション能力、特に顧客の要望をくみ取る能力をもっと重視すべきではないか
- 成長スピードの源泉は、やる気のある若手に仕事をどんどん任せてきたことではないか。プロジェクトの規模を考えても、若手にチャンスを与えやすい。今後も、自ら手を上げてチャレンジするという姿勢を高く評価すべきだ
これらの提案に、幹部社員たちは「わが社の人材像を考えるというのはこういうことなのか。確かにそれがわが社の強みであり、誇りとしてきたことだ」と賛同してくれました。
「高い技術力」や「創造性」などは、IT企業ならばどこでも重視したいことでしょう。しかし、「わが社の競争優位要因は違うところにある」というIT企業も多いはずです。
今回解説した「求める人材像」は、人事制度設計の基本方針となるものです。次回からはこの方針に基づき、等級制度・評価制度・報酬制度などの設計方法を解説します。
筆者紹介
クライアントの企業価値向上・経営革新・持続的な成長を支援する組織・人事を専門領域とするコンサルティングファーム。アーサー・アンダーセンからスピンオフした組織・人事チームの主力メンバーにより設立。米国型合理主義を熟知したうえで、「日本企業の固有な体質」に合わせた独自のコンサルティングを推進している。
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