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報酬制度の設計・構築方法IT企業のための人事制度導入ノウハウ(9)(1/2 ページ)

IT企業の人事担当者に読んでほしい、人事制度導入ノウハウ。導入プロジェクト開始の準備から設計、導入、実際の運用まで、ステップごとに詳細に解説する。

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 今回は、IT企業における報酬制度の設計と構築のポイントについて解説します。まず、報酬制度が持つ多様な機能について言及し、次に制度設計の説明を行います。

報酬制度の機能

 報酬制度とは、等級制度が定義する「求める人材」の要件に従って人材を評価し、その結果に応じて個人の報酬を決定する仕組みです。この仕組みが持つ機能について、皆さんは考えたことがありますか? 主な機能は3つあります。

(1)社員を方向付ける

(2)人件費をコントロールする

(3)人材の確保・定着を促す

 それぞれの機能を詳しく解説します。

(1)社員を方向付ける機能

 報酬制度は、会社の目指す方向性に合致したパフォーマンスに報酬を支払う仕組みを構築して、社員の方向付けを行う機能を持っています。このような仕組みがないと、各社員がそれぞれ自分勝手な方向に向かってしまいます。そうすると組織の統制が取れず、経営目標を計画的に達成することが難しくなります。

 IT企業のように、プロジェクトチーム単位での仕事が一般的な場合は、プロジェクトの成功を最優先するような仕事のやり方を、会社として方向付けていくことが重要です。

(2)人件費をコントロールする機能

  会社における報酬の支払い能力には限界があるため、報酬制度によって人件費をコントロールする必要があります。利益を大きくするためには、

・製品やサービスの差別化によって売り上げを上げる

・費用(原材料費、人件費など)を削減することで利益を増加させる

という2つのアプローチがあります。特にIT企業では、付加価値創造の源泉が「人」に集中していて、人件費の割合は非常に高水準です。そのため人件費のコントロールは、経営としての利益のコントロールに直結する重要な機能を担っています。

(3)人材の確保、定着を促す機能

 外部労働市場の人材が新たな職場を探すとき、報酬水準は主要な労働条件の1つになります。IT業界は、人材の「労働の価格(労働市場性)」が比較的可視化されている業界のため、報酬水準が人材の確保、定着に大きな影響を及ぼします。

 また、IT業界では「人材の量的・質的不足」が叫ばれています。報酬的側面から見た場合、「今後優秀なIT人材の報酬水準がより高騰する」ことが想定されます。人材の流動性が比較的高い業界でもあるため、優秀な人材に魅力的な報酬を用意できるような柔軟な変動ルールを持っていないと、優秀人材の定着が困難になってしまいます。

 よって報酬制度では、魅力的な水準設定を行い、人材の確保と定着を促す機能を設定することが重要です。

■報酬制度設計のポイント報酬制度設計のポイント

 さて、報酬制度の機能が効果的に働くためには、どのようなポイントに留意して制度を設計するべきでしょうか。以下の I から III の報酬制度の設計プロセスに沿って、解説します。なお、報酬は「月例給与(基本給+手当)」「特別給与(賞与)」「退職金」で構成されています。本稿では基本給と賞与を中心に解説を進めていきます。

I.何に対して支払うか?(報酬の細目を決定する)

 報酬制度を設計するうえで、まず何に対して報酬を支払うのかを決める必要があります。

 まずは基本給から考えてみましょう。基本給は、等級制度を設計する際の基準となっています。例えば、等級の基準が能力の場合、社員の能力に報酬を支払っていることになります。能力への報酬であれば「能力給」、仕事への報酬であれば「職務給」、そのほかに「役割給」などがあります。大きく分類すると、以下のとおりになります。

・「人」に対する報酬としての「能力給」「年齢給」

・「仕事」に対する報酬としての「職務給」「役割給」

 これらの細目が、通常「基本給」として位置付けられます。

 さて、IT企業では何に対して基本給が支払われるべきでしょうか?

 IT業界には「ITSS」という業務に必要なスキルを体系化した基準があります。スキルを使う能力に対して基本給を支払うことで、専門能力の獲得を促進させることができます。業界基準のスキルであるため、社員はスキル獲得の必要性に納得感を持つことができ、会社も能力開発を効果的に方向付けることができます。また人材の量的・質的不足が叫ばれている状況下では、能力を軸とした制度によって、人材を確実に育成していくことが必要です。

 またIT業界では、プロジェクトメンバーによる協業が一般的であるため、チームへの貢献を促すことがプロジェクトの成否に大きく関係します。このことを考えると、仕事の範囲を明確に定め、その仕事の遂行状況を基準にして報酬が支払われる「職務給」では、「自分の仕事ではないので、その仕事はやりません」という事態が起きる恐れがあります。上位職など、職務内容が明確に定義できる場合には職務給の適用も考えられます。しかし、協業を阻害する可能性のある報酬の細目は、IT業界に適しているとはいい難いです。

 次に、賞与を考えてみましょう。賞与も基本給の考え方と同様に、個人のチームへの貢献を促すことが求められます。また、プロジェクトチームによる仕事は、個人の成果を定量的に測ることが困難です。よって、個人単位ではなくチーム単位、もしくはより大きな組織単位で成果を評価し、その評価結果を賞与に結び付ける「組織成果賞与」を有効に活用することが、1つの選択肢として考えられます。

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