知られざるLTEのネットワーク構成:次世代の無線技術、LTEの仕組みが分かる(2)(2/2 ページ)
次世代無線技術のLTEの仕組みを紹介する。NTTドコモ、イー・モバイル、ソフトバンクモバイル、KDDIの来年の無線技術はどうなる?
新しいコアネットワーク新しいコアネットワーク
(1)プロトコルスタックの単純化
LTEでは前に述べたように、3Gネットワークに比べてRNCがなくなるなど、ネットワーク構成がシンプルになっています。それに伴い、NodeBとRNC間のインターフェイスであったIubインターフェイスがなくなるなど、プロトコルも単純化されています。
従来のRNCから、LTEのeNodeBおよびコアネットワークに移行された主な機能、プロトコルを図4に示します。
eNodeBには、RLC(Radio Link Control)、MAC(Medium Access Control)、PDCP(Packet Data Convergence Protocol)の機能が移行されています。また、コアネットワークのMME、S-GWには、NAS秘匿機能、Paging(呼び出し)制御、ハンドオーバー(HO)パス制御が移されました。
その結果、LTEのプロトコル構成は次のようになっています。
まず、ユーザーデータを取り扱うU-plane(User plane)プロトコルスタック(プロトコル階層)と、制御を行うC-plane(Control plane)プロトコルスタックがあります。このうち、U-planeのプロトコルスタックは図5のとおりです。
UE(User Equipment)とは、端末のことです。UEとeNodeBの間は無線区間に適したプロトコルが使用され、PDCPを使用してユーザーデータが正しく伝送されるようにしています。eNodeBまでデータが運ばれると、今度はeNodeBとS-GWの間でIP伝送に適したプロトコルが使用され、GTP-U(GPRS Tunneling Protocol for User Plane)を使用してユーザーデータが伝送されます。
次に、C-planeのプロトコルスタックを以下に示します。
C-planeは、各装置間で通話やネットワークを制御するための信号を伝送します。パケット呼を接続し、データを伝送するために伝送路を設定したり、ハンドオーバーの制御などを行います。
UEとeNodeB間の無線制御では、RRC(Radio Resource Control)という無線区間のチャネルの割り当てなどを行います。パケット呼の接続などは、UEとコアネットワーク間で、NAS(Non-Access Stratum)というプロトコルによって行われています。
より効率的なQoS(Quality of Service)より効率的なQoS(Quality of Service)
オールIPのLTEでは、すべての情報がパケット化されるため、より効率的なQoS制御が可能になることもポイントです。3Gネットワークにも優先制御機能がありますが、LTEでは、よりきめ細かなクラス分けにより、アプリケーションに応じた優先制御が柔軟に行えるようになります。
例えば、遅延の許されない音声パケットの優先度を上げて安定した音声品質を確保し、大量のパケットがやりとりされるインターネットのブラウジングなどは優先度を下げることで、ネットワーク全体の利用効率を高めるといった制御が行えます。
また、アプリケーションだけでなく、サービスに応じた優先制御も可能です。例えば、事業者は通常料金よりも割高なプレミアム料金を設定し、高速な通信速度で大容量の動画をダウンロードする、あるいは低遅延の通信環境でリアルタイムの対戦ゲームを楽しむといったサービスも考えられます。
3Gネットワークで提供されている高速データ通信「HSDPA」(High Speed Downlink Packet Access)では月額定額制の料金体系が一般的ですが、LTEでは新たなサービスモデルが生まれるかもしれません。
LTEネットワークを構成する各ノードの主な機能は次のとおりです。
1)eNodeB:端末と直接接続を行う
(ア)端末から発信するときの受付制御機能
(イ)着信があったときに端末を呼び出す(ページング)機能
(ウ)基地局間を移動する際のハンドオーバー制御機能
(エ)SON(Self Organized Network)機能。SONは、基地局を設置したときに基地局のパラメータを自動的に設定できる機能。設置作業、保守の簡素化が図れるようになります。
2)MME:ネットワーク制御を扱うC-Planeのアクセスゲートウェイ
(ア)シーケンス制御機能とハンドオーバー制御機能
(イ)端末の待受時の位置管理
(ウ)基地局装置に対する着信時の呼び出し(ページング)機能
(エ)端末の認証管理機能
3)S-GW:ユーザーデータを扱うゲートウェイ
(ア)LTEのユーザーデータを2Gや3Gシステムに接続するためのノード機能
(イ)法的傍受機能
4)P-GW:外部のインターネットや企業のイントラネットなどに接続するためのゲートウェイ
(ア)3GPP(LTE)と非3GPP(CDMA2000、WiMAXなど)との間で端末を移動する際にユーザーデータを管理する機能
(イ)ユーザーが使用したパケット数のカウントなど、課金用データ収集機能
(ウ)QoS制御機能
(エ)パケットフィルタリング機能
(オ)法的傍受機能
実際のLTE導入形態
各事業者におけるLTE導入のロードマップですが、図7に示すようにさまざまな形態が考えられています。例えば、GSM(Global System for Mobile Communications)/GPRS(General Packet Radio Service)を展開する事業者が、W-CDMA/HSPAのネットワーク展開を経てLTEを導入したり、日本のようにW-CDMAからLTEを導入する事業者もいれば、CDMA2000/1XからLTEを導入する事業者もいます。
一例として、W-CDMAのシステムにLTEを導入する場合を見てみましょう。W-CDMAからLTEへ移行していく場合のパケットネットワーク構成を図8に示します。
一番左が、3GPP リリース6で定義された構成で、現在のW-CDMAのシステムです。ネットワーク制御の信号もユーザーデータの制御信号も、すべてのノードを通過します。各ノードでネットワーク制御系とユーザーデータ系の制御信号処理を行うため、接続遅延が発生するという問題があります。
中央が、3GPPリリース7で定義された「ダイレクトトンネル」を使用したネットワークです。RNCから制御信号(C-plane)はSGSNへ接続されていますが、ユーザーデータ(U-plane)はRNCから直接GGSNに接続されています。このため、リリース6に比べて遅延が少なくなります。また、ダイレクトトンネルに対応する製品も開発・提供されています。
そして、一番右がLTEの場合で、RNCを持たない構成となっています。このように、LTEではネットワーク構成がシンプルになっていることが分かります。
次に、LTEを導入したとき、既存ネットワークとはどのように接続されるのかを見てみましょう(図9)。
ユーザーデータを扱うGGSNとS-GWは統一し、共通化されています。また、P-GWも共有可能です。今後、MMEとSGSNは1つのノードに両方の機能を持たせる製品も発売される予定です。その場合は、SGSNとMMEを共通ノードにすることが可能になります。
また、CDMA2000やWiMAX、無線LANなどの非3GPPのネットワークからLTEへのアクセスは外部ネットワーク接続用のP-GW(PDN)に収容されるなど、既存ネットワークとの接続を可能にしています。
以上、LTEネットワークを構成する各要素の役割について説明しましたが、お分かりいただけたでしょうか? 次回は、LTEの速度について説明する予定です。
著者紹介
ノキア シーメンス ネットワークス株式会社 ソリューションビジネス事業本部 ネットワーク技術部長
小島浩
1987年 総合電機メーカ入社。以降、移動体通信ネットワーク機器、移動体通信システムの開発に従事。
2007年 ノキア シーメンス ネットワークス株式会社に入社。以降、移動体通信機器、システムの業務に従事。
現在、同社ネットワーク技術部長。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.