次世代無線技術のLTEの仕組みを紹介する。NTTドコモ、イー・モバイル、ソフトバンクモバイル、KDDIの来年の無線技術はどうなる?
前回はLTEを支える要素技術として、高速ダウンリンクを実現する変調方式のOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)、データ変調方式の64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、複数アンテナを用いて高速無線通信を行うMIMO(Multi Input Multi Output)の概要を紹介しました。
これら無線通信技術の進化とともにLTEの普及・拡大に貢献すると期待されているのが、基地局の設置・運用を自動化するSON(Self Organizing Network)です。SONの機能は、無線技術の標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)でリリース8として規定されています。
SONが事業者に注目される理由として、無線ネットワークの変化があります。モバイルサービスの拡大とともに、無線ネットワーク上に多数の基地局が追加・設置され、その運用が複雑化するなど現場の負荷が増しています。その一方、フラットレートの採用などで収入が伸び悩む中、収益の拡大は喫緊の命題といえます。
LTEでは、既設インフラの流用による設備投資の抑制や周波数利用効率の向上によるビット当たりのコストの削減も可能です。加えてSONにより、LTEへの移行がスムーズに行えるようになります。従来、人手を介して行ってきた基地局の設定・最適化などの作業をSONで自動化することにより、CAPEX(設備投資)とOPEX(運用管理)の両面からコスト削減が期待できます。
SONの機能には、Self-Configuration(自動設定)、Self-Optimization(自動最適化)、Self-Healing(自動修復)があります。
SONの特徴は、ネットワークの自動設定や最適化によるコスト削減、基地局を追加する際の時間短縮と作業負荷の削減などに加え、ネットワーク品質を向上できることです。近年、多機能携帯端末の普及とともに、移動通信のトラフィックの比重は音声からデータ通信へと移り、ストリーミングなどの映像を楽しむユーザーも増えています。
何らかのネットワーク障害で映像をスムーズに閲覧できないといったサービス品質の低下は、ユーザーの不満となりかねません。SONとサービス管理システムを組み合わせ、ネットワークの最適化を自動的に行うなど、ネットワークのサービス品質とユーザーの満足度を高めることも可能になっています。
基地局(eNodeB)を追加・設置する際、ネットワーク接続(基地局とコアネットワークをつなぐS1インターフェイスの設定)、パラメータの設定、隣接セルの設定を自動化する機能などを装備しています。基地局装置が自律的に作動し、従来、手動で行っていた隣接セルのパラメータの設定や試用運転なども自動化できるようになります。
各基地局レベル(eNodeB)やネットワークレベル(端末、eNodeB)で収集した測定データを基に、ネットワークのチューニングを自動的に実施します。隣接セルのハンドオーバーの調整など、ネットワーク品質を向上させます。
大規模なサービス停止など、障害の自動検知から原因の特定・分析、復旧まで自動化する機能を備えています。例えば、ネットワーク機器から障害のアラームが発せられていないのにサービス品質が低下する「スリーピングセル」と呼ばれる現象もあります。
自動修復機能とネットワーク統合運用支援ツールを組み合わせてトラフィックを監視し、スリーピングセルを検出、問題を自動的に修復するソリューションも提案されています。
このほか、自動設定と自動最適化の機能を組み合わせ、サービス品質に関する各種パラメータなどを考慮し、動的にネットワーク計画の再計算を行うSelf-Planning(自律計画)をSONの付加機能として提案するベンダもあります。
Self-Configurationを例に、自動設定の仕組みを説明します。
これらのシーケンスにより、追加する基地局が無線ネットワークに組み込まれます。事業者が苦労する隣接セルのハンドオーバーの調整なども自動化でき、基地局設置のプロセスを簡素化するものと期待されています。
SONはLTEのリリース8で規定されたものですが、ベンダの中にはSelf-ConfigurationやSelf-Optimizationの一部の機能を現行の3G基地局装置に組み込み、設定・運用の自動化を進める動きもあり、SONの動向から目が離せません。
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