次世代無線技術のLTEの仕組みを紹介する。NTTドコモ、イー・モバイル、ソフトバンクモバイル、KDDIの来年の無線技術はどうなる?
北欧のオペレータであるTeliaSoneraが、2009年12月14日にスウェーデンのストックホルムとノルウェーのオスロにて世界初のLTE商用サービスを開始したと発表しました。もともとTeliaSoneraはLTEに対し非常に積極的でしたが、これほど早くサービスを開始するとは、われわれにとっても予想外でした。
ただし詳細を確認すると、スウェーデンにおいては6月末まで月額料金が4スウェーデンクローナ(約50円)、ノルウェーでは3月末まで月額料金が1ノルウェークローネ(約16円)であり、実質的にはユーザーにも協力してもらいながら問題を発見する「試験サービス期間」といえそうです。
また、現在のところTeliaSoneraの4GサービスはLTE通信だけを提供するサービス(端末がサポートするのはLTE通信のみ)となっています。次は、3Gネットワークとも連携したLTEサービスをどのオペレータが最初に提供するかが注目されます。
さて、前回はLTEとはどのようなものか、その概要について説明しました。これを踏まえて今後数回に分けて、LTEに使用される各要素技術をもう少し詳細に説明していきます。2回目の今回は、LTEのネットワークについて説明します。
第1回で説明したように、ユーザーの扱う情報量が音声から画像、動画へと増えていくに従って、無線ネットワークにはより高速なアクセスが求められています。また、事業者の観点では、より安価にシステムを構築することが要求されています。
このような背景において、LTEネットワークの特徴の1つは、パケット方式のみを提供することです。従来のGSMのような2Gネットワーク、W-CDMAのような3Gネットワークでは、回線交換方式(CS:Circuit Switched)とパケット交換方式(PS:Packed Switched)の両方を持ち、音声通信は回線交換ネットワーク、データ通信はパケットネットワークを使用するというように、2つのネットワークが併存しています。
それに対し、LTEでは音声もVoIP(Voice over IP)としてパケット化し、すべてパケットネットワークとしています。固定的に帯域を割り当てる回線交換方式と異なり、パケット交換方式は柔軟に帯域を割り当てられることから、限られた資源である周波数帯を効率よく利用できるという利点があります。また、すべてパケット(オールIP)化することにより、ネットワーク構成を簡素化できます。
これは、パケット制御技術が進んで、音声のように連続性の必要なデータもパケット(IP)として伝送できるようになったからです。また、取り扱うデータ速度も数十kbpsから数Mbps、さらに数十Mbpsへとより高い処理能力が求められていますが、そのデータを処理できるだけの装置が開発されています。
無線技術の標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)で定義されているLTEのネットワーク構成概要を図1に示します。
LTEネットワークは、「進化したパケットシステム」という意味で「EPS(Evolved Packet System)」とも呼ばれ、無線ネットワークのeUTRAN(Evolved Universal Terrestrial Radio Network)とコアネットワークのEPC(Evolved Packet Core)で構成されています。コアネットワークはSAE(System Architecture Evolution)とも呼ばれています。
また、サービス制御や加入者データを扱うHSS(Home Subscriber Server)と、サービスに応じた優先制御や課金のルールを設定するためのPCRF(Policy and Charging Rule Function)もLTEネットワークに接続されます。
eUTRANは基地局装置(eNode B)のみで構成されています(詳細は後述)。
EPCは、ネットワーク制御のC-plane(Control plane)を扱うMME(Mobility Management Entity)とユーザーデータのパケットデータであるU-plane(User plane)を扱うS-GW(Serving Gateway)およびインターネットのような外部ネットワークへ接続するためのP-GW(PDN:Packet data network Gateway)で構成されています。
ここからは、LTEシステムの特長および各ネットワーク構成要素の特徴を説明します。各構成要素の技術的な詳細は、後の回で紹介する予定です。
LTEシステムの主な特徴は以下のようになります。
3Gネットワークとの違いの1つは、RNC(Radio Network Controller)を持たない構成となっていることです。eUTRAN(無線アクセス)には基地局装置のみが設置され、直接コアネットワークに接続されます(図2)。
現行の3Gネットワークの無線ネットワークには、基地局装置のほかにRNCが置かれ、端末からの発着信制御や無線チャネル割り当てなどの制御を行っています(RNCはコアネットワークに置かれることもあります)。
LTEでは、このRNCが担っていた制御機能を、基地局装置とコアに分散させています。無線ネットワーク(アクセス)内からRNCがなくなることにより、次のような効果が期待できます。
また、コアネットワークについて見てみると、3Gネットワークでパケット交換を行うSGSN(Serving GPRS Support Node)とGGSN(Gateway GPRS Support Node)は、制御系とユーザーデータ系、両方の信号を扱っていました。
これに対しLTEにおいては、制御系はMMEが処理し、ユーザーデータはS-GW、P-GWが扱うというようにそれら2つが独立することにより、それぞれのトラフィックに応じたシステム拡張ができるようになります。
LTEは、無線方式にはOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)を、変調方式に64QAMを採用しています。広帯域(20MHz)の周波数帯域幅を使用してもフェージングなどの影響を受けにくくし、周波数利用効率を上げることにより、高スループットを実現しています。
ダウンリンク(基地局から端末)、アップリンク(端末から基地局)のそれぞれのアクセス方式は次のとおりです。
a)ダウンリンク:OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)
b)アップリンク:SC-FDMA(Single Carrier-Frequency Division Multiple Access)
OFDMの特長を生かした、周波数軸と時間軸の両方を使用したスケジューリング(ユーザーへのチャネル割り当て)を行うことにより、ユーザーの無線環境に応じて柔軟に帯域割り当てを行い、基地局当たりのスループットを確保しています。
この結果、LTEは次の特性を実現しています。
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表1 LTEの通信特性 |
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