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さらば、翻訳調の文章! 技術者向け校正ルール誰にでも分かるSEのための文章術(8)(1/2 ページ)

「提案書」や「要件定義書」は書くのが難しい。読む人がITの専門家ではないからだ。専門用語を使わず、高度な内容を的確に伝えるにはどうすればいいか。「提案書」「要件定義書」の書き方を通じて、「誰にでも伝わる」文章術を伝授する。

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 第7回「専門用語は徹底的に「読み手指向」で書くべし」に引き続き、「語句の使い方」や「表記法」を解説します。今回は、技術者の文章にありがちな癖、「翻訳調」「漢字の多用」を、より読みやすい文章に修正する方法を提案します。

 SEは、翻訳書・文書を読む機会が多い仕事です。専門書や技術書、開発業務を進める際の文書類を、英語の原文で読むこともしばしばあります。そのせいか、翻訳調の文章を記述してしまいがちです。 翻訳調、特に直訳調の表現は冗長です。読みにくいので使わないようにしましょう。

翻訳調にせず、簡潔な日本語にしよう

「可能である」→「できる」

 技術者は、よく「〜が可能である」という表現を使いがちです。しかし、この表現は「can」の直訳です。シンプルな日本語の「〜できる」に修正しましょう。

このシステムでは、顧客データと購入データの一括管理が可能である



 

このシステムでは、顧客データと購入データを一括管理できる


「すること」→名詞

 「〜すること」は、多くの人が無意識に使ってしまう冗長表現です。「することは」省き、名詞または名詞句に直します。

このシステムが稼働している間は、データを削除することを禁止する。



 

このシステムが稼働している間は、データの削除を禁止する。


「することが可能」→「できる」

 上記の2つ「〜すること」と「〜が可能である」の組み合わせを使っている文章をよく見かけます。「〜することが可能である」は、シンプルに「〜できる」と記述します。

今回開発するコンテンツ配信システムは、コンテンツをすべての店舗に同時に配信することが可能である



 

今回開発するコンテンツ配信システムは、コンテンツをすべての店舗に同時に配信できる


演習問題

 下記の文章は、日本語としては問題ありませんが、翻訳調のため多少読みにくくなっています。簡潔な日本語に言い換えてみましょう。

(1)データの変更を避ける。

(2)不要なデータの消去を目的とする機能を追加した。

(3)このシステムは以下の3つの機能を提供する。

(4)この機能は可否を判断する手助けをする。

(5)このシステムは以下の3つの機能で構成される。

(6)システム起動時には“価格”属性は0という値を持つ。

(7)対象となる業務に存在する問題点をリストアップする。


解答例

(1)データの変更を避ける。 → データを変更しない

(2)不要なデータの消去を目的とする機能を追加した。→ 不要なデータを消去する機能を追加した。

(3)このシステムは以下の3つの機能を提供する。→ このシステムの機能は以下の3つである

(4)この機能は可否を判断する手助けをする。→ この機能は可否を判断するために使用する。/ この機能を使用すると可否判断のための情報を入手できる。

(5)このシステムは以下の3つの機能で構成される。→ このシステムには以下の3つの機能がある

(6)システム起動時には“価格”属性は0という値を持つ。→システム起動時には“価格”属性の値は0である

(7)対象となる業務に存在する問題点をリストアップする。→対象となる業務問題点をリストアップする。


「Aおよび/またはB」は日本語らしくない

 翻訳調の文章には、読みにくいうえに意味が分かりにくい表現があります。例えば、「Aおよび/またはB」。これは「A and/or B」の直訳で、日本語としては不自然です。個条書きを使えば分かりやすくなります。

このようなケースでは、名前データおよび/または番号データを変更する。



 

このようなケースでは、次のどれかを行う。

・名前データと番号データを変更する

・名前データだけを変更する

・番号データだけを変更する


プログラム言語のような文章になっていないか?

 技術者は、顧客向けの文書を、プログラムの注釈文やプログラム仕様書(関数仕様書など)と同様に記述しがちです。しかし、それでは顧客に分かってもらえません。以下、技術者が書く文章にありがちな表現を、分かりやすい日本語に修正していきます。

「if文」と同じ発想で「〜する場合は」を多用する

 技術者は、プログラミング言語の命令文と同じ発想で文章を記述しがちです。プログラムではif文のような条件文を頻繁に使用するため、つい「〜の場合は」「〜する場合は」などと記述してしまいます。しかし、「〜場合は」の多用は読みにくいため、別の表現で記述するようにしましょう。

音声だけを配信する場合は、既存の機能を利用できるが、音声と画像を同時に配信する場合は、新しい機能が必要である。



 

音声だけを配信するなら既存の機能を利用できる。しかし、音声と画像を同時に配信するのであれば、新しい機能が必要である。


 「〜場合は」という表現に頼りすぎると、誤った文章を記述してしまいます。「〜場合は」は条件節で使いますが、下記例文にある「システムを起動する」は、条件節ではありません。そのため、下記の「場合は」は誤用となります。

システムを起動する場合は、次のように操作する。



 

システムを起動するには、次のように操作する。


「ループ」

 プログラムではループ文をよく使うため、ループ文を使ったプログラムの注釈を記述する要領で、文章を記述してしまうことがあります。

顧客の名前を読み取る処理をループさせ顧客リストを作成する。



 

顧客の名前を1つ1つ順番に読み取り顧客リストを作成する。


「同期させる」

 「2つの作業を同時に始める」という意味で、「同期させる」を使ってしまうことがあります。

当社の修正作業と貴社のテストを同期させます



 

当社の修正作業と貴社のテストを同時に開始させます


命令文を動詞化した造語

 また、技術者はプログラム命令文を動詞化した造語や、開発関連用語で代用した表現を使いがちです。

利用者は作業を始める前に、このプログラムをコールしなければならない。



 

利用者は作業を始める前に、このプログラムを呼び出さなければならない。


文書を統一的に管理するために、当社が作成した文書を、貴社作成の文書にマッピングさせます。



 

文書を統一的に管理するために、当社が作成した文書データの形式を変換して、貴社作成の文書データに対応させます


片仮名を多用しない

 SEがよく読む設計書や仕様書、技術書などは、片仮名の技術用語や専門用語が並んでいます。そのような文書に慣れ親しんでいるため、SEは片仮名を多用した文章を記述してしまいがちです。顧客、特に経営陣や管理職は片仮名が多用された文書を読みにくいと感じます。片仮名が多用された文書を目にした途端に抵抗を感じ、読むのをやめる人もいるはずです。できるだけ片仮名を使わないように工夫して記述しましょう。

顧客データをデータベースに保管するためのテーブルフォーマットディスプレイプリントする。



 

顧客データをデータベースに保管するための表の書式画面表示する。


アクセスコントロールによりアタックを防ぎ、セキュアなネットワークを構築する。



 

アクセス制御により攻撃を防ぎ、安全なネットワークを構築する。


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