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第122回 「未知なるもの」がスパコン開発を支える?頭脳放談

東大と国立天文台が共同開発したスパコンがリトルグリーン500で1位に。市販部品を多用しながら1位のスパコンを作っている。その秘密は?

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 「リトル・グリーン」という言葉を聞いて、即座に連想したのが「リトル・グリーン・メン」である。といってもディズニー映画「トイ・ストーリー」に出てくる愛らしい(?)宇宙人ではなく、「もともと」の意味の方である。「もともと」について蛇足な注釈を書いておけば、1960年代に電波天文学の発展とともにパルサーが発見されたときに、あまりに正確な周期信号に「もしかすると宇宙人かも」という期待と、不用意に発表するとパニックになるかもしれないという恐れのもとに、発見したイギリスのケンブリッジ大学に所属するキャベンディッシュ研究所の人達が使っていた未知の物体を示す「符丁」である。

省エネ・スパコンで1位の意義

 そんな連想をしてしまったのは、東京大学と国立天文台がスパコンを共同開発し、リトル・グリーン500というランキングで1位になった、という記事を読んだからだ(国立天文台のニュースリリース「東大・国立天文台グループ、世界一の電力効率をもつスーパーコンピュータを完成」)。東大と国立天文台である、きっといまやアニメのキャラクターに成り下がってしまった「リトル・グリーン・メン」を古の未知なるものへの挑戦という意味に引き戻してくれるのか、と勝手な期待を持ってしまったのだが、大間違いだった。

東京大学と国立天文台が共同開発したスーパーコンピュータ「GRAPE-DR」(ニュースリリースより)
東京大学と国立天文台が共同開発したスーパーコンピュータ「GRAPE-DR」(ニュースリリースより)
Little Green 500(リトル・グリーン500)で首位を獲得したシステム。計測に利用したのはGRAPE-DRシステム全体のうち64ノード。1ノードは、GRAPE-DRボード1枚、Intel Core i7-920、ASUSTeK製マザーボード、18Gbytes DDR3メモリ、x4 DDRインフィニバンド・ネットワークから構成されている。独自開発したGRAPE-DRボード以外は市販部品を使用している。

 寡聞にして「リトル・グリーン」なるランキングがあることは知らなかった(Little Green500 List - June 2010)。どうも単なるスパコンの省エネ・ランキングのようだ。大電力を飲み込むイメージのあるスパコンを何とかしようということなのかもしれない。省エネ、エコなので「グリーン」。誰が付けたかは分からないが、よく分かるがベタすぎるネーミングだ。ただし、クラスが2つあり、重い(速い)方が「グリーン」、軽い(遅い)方が「リトル・グリーン」らしい。「グリーン」のランキングも、ボクシングのヘビー級とか、フェザー級とかいう階級に分かれているがごとくである。そこで階級のチャンピオンになりました、という話であった。いまや猫も杓子も「グリーン」と語るので、何がどこまで「グリーン」なのかはイマイチあいまいである。

 しかし「単なるスパコンの省エネ・ランキング」の、それも「クラス別」であっても、チャンピオンになるのは偉いし、立派である。そこでどうやってチャンピオンになったのか見てみれば、わりとオーソドックスな行き方であった。

ランキング1位のスパコンの作り方

 スパコンの最速を目指すということになると、「事業仕分け」の対象にもなるほどの巨大プロジェクトと化してしまう。まぁ、そこそこのスパコンということであれば、裾野の広がった現在の技術であれば、そこそこのお金でできないこともないし、実際に作っている人も数多い。そういったプロジェクトでは、多くは既存のプロセッサと、既存の高速接続技術を基盤にして並列度の高いハードウェアを構築している。速度は並列度で稼ぐわけである。

 しかし既存の、つまりは商用で売られている技術を基盤とするわけなので、そのチョイスと組み合わせ、利用技術の「良し悪し」で差はつくものの、ベースの性能はそれほど大きく変えられるものでもない。似たようなものができてしまう、ということだ。そこで「頭一つ」抜け出すにはどうしたらよいか。直接的で有効なのは、キモの部分、スパコンの場合は当然、浮動小数点演算ということになるので、ここに商品化されている部品よりは演算速度の高い「カスタム」なチップ、アクセラレータを投入する、というものである。

 そこで問題になりそうなのが、実はカスタム・チップである、ように思われてならない。今回、クラス・トップに大いに貢献したチップだが、世の中は進歩するのである。スパコン構築のインフラを提供する商品チップ類は確実に並列度が高まり、そしてこのところの傾向からすれば、パワー性能レシオも高まっていく。これはどこぞのメーカーがやっている仕事だから止めようがない。つまり、時間に比例して「よいもの」が出てくるので、みんなの出発点となるレベルが上がっていく、あるいは、賭金のスレッショルドは上がっていくのである。カスタム・チップは当然ながら、自分らが努力してその先を作っていかないと次のバージョンが手に入らない。世間のレベルの向上を上回る速度でよいものを作り続けていかないと、いずれは埋没してしまう運命が待っている。

 なかなか、次々と作っていくのは辛いものです。技術的にはなんとかなるはずであっても、予算の問題があれば、人手の問題もある。何かで引っかかって時間を使ってしまえば、あせりだけが募ることになるかもしれない。特にこのクラスのチップとなると、そこそこ先端のよいプロセスや設計ツールなどを使いこなせないとなかなか勝負にならないので、お金はそれなりにかかるはず。

 いま「クラウド」にはご存じのとおり、お金がなだれ込んでいる。しかし、「スパコン」は「大衆化」したといってもまだまだである。気象庁のように日々決められた数値シミュレーションを実行しているような組織がもっともっと増えてこないことには浮動小数点演算アクセラレータ・チップのようなものの市場は広がらない。天文台はいまや巨大なストレージと高速の演算能力を必要とする点で、よい「アプリケーション(用途)」ではあるものの、みんなが天文学をやるとは思えないので、そこでできた技術を広げる先がないとお金を捻出し続けるのは辛そうである。あちらこちらで「リトル・グリーン・メン」が跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)し、みんなが「未知なるもの」へもっと挑戦してくれると、スパコンの未来も開けてきそうなのだが……。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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