EAIデータ連携でクラウドを使いこなす:クラウドと業務の視点(3/3 ページ)
企業の社内向け業務システムに、クラウドサービスは使えるのか、使うべきなのか。これは、企業の社内でもかみ合いにくい議論だ。かみ合わない理由の1つは、業務システムをシステムごとクラウドサービスに移行すべきか、あるいは切り替えるべきかが論点になってしまうところにある。そうしている間にも、業務システムにクラウドサービスのメリットを生かす企業が増えている。本連載では、クラウドサービスを業務システムに生かすやり方を、複数のエキスパートがそれぞれの分野で解説する。(編集部)
3. クラウドにデータを置くことに対する懸念
クラウドサービスは活用したいが、データをどこまでクラウドに上げてよいかという点で悩んでいるユーザーは多い。懸念点としては
- このデータを本当に外部のサーバに置いてよいのだろうか
- データ量が膨大でクラウドにおくことが現実的ではないのではないか
の2点があるかと思う。後者に対して少し補足すると、多くのクラウドサービスは保管しているデータ量に対して課金するので、数百メガバイト単位のデータを保管しようとすると、毎月の料金が決して安くない金額になることが、その背景にある。
ある保険会社のコールセンターシステムでは、これらの懸念を次のような仕組みで解決した。
まず、社内にあるデータを、1.クラウドに上げても良い最小限のデータと、2.社内に残しておく膨大なデータに分類し、EAIのツールを使って1.はセールスフォースに格納する。コールセンターのオペレーターはセールスフォースの機能を使って1.のデータを検索する。さらに詳細な情報が知りたい場合は画面上のリンクをクリックするが、リンクをクリックした時点で「詳細画面を表示せよ」とのリクエストがEAIツールに送られ、EAIツールが社内データベースを検索して結果をHTML画面にしてブラウザ内に表示する、という仕組みになっている。
これにより、2カ所に存在するデータを画面上は1つに見せることができ、オペレーターの利便性はまったく損なわない形で2つの要件を実現できる。
この仕組みはUIマッシュアップと呼ばれており、多くの導入事例があるが、2つの要件のうちデータ量に対する懸念を持つ企業に、より多く導入されているようである。
4. クラウドの制約を乗り越える
それ以外にも、EAIツールを使ってクラウドの制約を乗り越えた例はたくさんある。
(1) 大量のドキュメントファイルを格納したい
セールスフォースでは標準で1GBのファイルストレージが提供されているが、大量のファイルを保持する予定がある場合、ストレージ容量が不足することがある。
例えばあるユーザーでは、捺印された紙の契約書をスキャナで読み取りPDF化したものを、アップロードすることを予定していた。しかし1ファイルあたりの容量が大きいため容量オーバーになることが目に見えていた。
セールスフォースの追加ディスクを購入する手もあるが、容量あたりの単価はAmazon S3のほうが安い。そこで、いったんセールスフォースにアップロードしたデータを、夜間バッチ処理でAmazon S3に退避し、しかもセールスフォースにはAmazon S3上のファイルのURLリンクを書き戻すという方法を採用した。これによってファイルの格納場所は変わっているが、ユーザーの利便性を損なうことはなく、要件が実現できたのである。
(2) 複雑な計算ロジックを実装したい
セールスフォースを営業支援システム(SFA)として使いこなしているユーザーが、さらに進んだ使い方として、営業担当の行動分析を行おうとしていた。セールスフォースに登録されたデータから営業担当ごとの活動状況を複雑な計算を組み合わせ算出する。そして営業担当者同士がその数値を比較することによって、できない営業担当に気づきを与え、できる営業担当になるために行動パターンを変革できるようにする、という仕組みの導入を検討していた。これを当初、セールスフォースのネイティブ開発機能(冒頭に上げたレベル2)で実装することを検討していた。しかし、
- セールスフォースのデータベース問い合わせに使うクエリ言語(SOQLと呼ぶ)ではSUMなどの集約関数がないため、プログラムを使って値の合計をする必要がある
- 代替案として集計処理をセールスフォースのプログラミング言語(Apex)でコーディングする場合、ガバナ制限というクラウドリソースの利用制限に抵触する可能性が高いことが判明した
- 計算ロジックが変更になったときに柔軟に対応できるようにしたいと考えている
という3つの課題を抱えていた。かといってレベル3の方法ではコスト的に見合わない。
実は導入当時から2011年6月までの間にセールスフォースが機能拡充を行った結果、1.や2.についてはずいぶん改善しているが、いずれにせよこのような課題がある例はいまでもある。
この解決策としてもEAIツールが有効で、ツールを使ってセールスフォースのデータを抜き出し、いったんローカルのデータベース(OracleやPostgreSQLなどのリレーショナルデータベース)に格納、それをSQLで集計し、集計結果をセールスフォースに書き戻すという手法をとった。これにより1.や2.の制限を受けず、また3.の計算ロジックの変更にも、SQLを修正するだけという局所的な修正で対応できるため、変更受容性も高い連携が構築できた。
(3) Excelを使った従来の業務フローを残したい
セールスフォースからは(一部を除いて)Excel形式のファイルを出力することはできない。たとえば見積書はExcel形式で生成したい、と思ってもできない。また逆にExcelファイルに入力された各値を自動で読み取って、セールスフォース上に格納したいというニーズもあるが、これも難しい。
これもEAIツールが持つExcelの読み書き機能を使えば実現できる。
この例でいえば、
- セールスフォース上のボタンを押したときに、EAIツールがExcelファイルを生成し、ブラウザ上に表示する
- 共有フォルダ内にExcelファイルを配置しておくと、定期的に読み取られ、セールスフォースにデータが格納される
といった仕組みが容易に構築できる。実際にこの利用方法は導入例も多い。
5. クラウドは安全か
最後にクラウドにデータを預けることが安全かどうか、という点にも少し触れておこうと思う。
セールスフォースの場合は、システム性能やセキュリティに関する情報をリアルタイムに開示するサイトを提供していて、その中でプライバシー保護とセキュリティに関する文書を公開している。
また、このサイトに掲載されている文書の元となっていると思われるホワイトペーパーも発行されている。
取得している認証や物理的セキュリティ、運用チームの体制などについて説明がされているので、読んでいただければ自社構築アプリケーションや自社運用サーバと比べても安全性に遜色ないことがわかっていただけると思う。セールスフォースに限らず、他のクラウドもこの様なホワイトペーパーを出しているので、自社で構築したものと1つ1つ比較してみるのは、不安を払拭する上で有効だと思う。
また、このなかでは詳細には触れられていないが、セールスフォースには
- 接続元のグローバルIPアドレスによるログイン制限
- ログイン可能時間帯の制限
- パスワードポリシーの設定(桁数、利用可能文字、有効期限、過去のパスワードの利用制限回数など)
などの、セキュリティをより強固にする設定がある。これらを活用することで、セキュリティに関する不安の多くは払拭できると思う。
6. 最後に
EAIツールを使ってクラウドをより効果的に使う方法を説明してきたが、いかがだっただろうか。
ここに書かれた事例が皆さんのクラウド利用の参考になることを願いつつ記事を締めさせていただきたい。
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