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課題意識を持てばLinuxコミュニティへの道は開く――The Linux Foundationジャパンディレクタに聞く【後編】OSSコミュニティの“中の人”(2)(2/2 ページ)

「OSSコミュニティに参加したいけれど、どうしたらいいか分からない」「中が見えにくいので不安」……OSSコミュニティの“中の人”へインタビューし、OSSコミュニティをもっと身近に感じてほしい。

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コントリビューションの形はいろいろある

深見 今回、Linuxコミュニティに参加するためのいろいろな方法をおうかがいしました。開発に参加するのもあり、イベントに参加して講演を聞くもあり、コミッタと話をするのもあり、と。

福安 コントリビューションには、いろいろな形があると思うんです。よく「コードが書けないから貢献できない」「技術的にそれほど優れているわけではない」という人がいますが、それは大きな誤解です。

 ドキュメントの翻訳、LinuxConのボランティアなどはもちろん、ユーザーとして「Linuxは今ここが足りない」という声を上げることも、とても重要な貢献です。

 私自身、エンジニアではないので、自分でコードコントリビューションをしたことはありません。私は私なりの方法で、Linuxコミュニティへのコントリビューションを行っているつもりです。The Linux Foundationのスタッフとして、世の中のインフラとなる??これが私なりのコントリビューションです。

 なので、「コードが書けない」といった理由で臆せず、ぜひいろいろな形でLinuxの開発コミュニティに関わってほしいですね。

深見 そういえば、The Linux Foudationのイベントには、ボランティアスタッフがたくさん参加していますね。彼らはどういう人々で、どんなモチベーションで貢献しているのでしょうか。

福安 彼らの多くは、企業に属している人々です。Linuxをビジネスでやっている人もいますし、ただ好きでやっている人もいますが、共通するモチベーションは「Linuxが好きだ」ということですね。

 ボランティアは毎年、Webで募集するんですよ。応募者はメッセージ付きで応募してくるのですが「Linuxがすごい好きで、何かしら貢献したいから微力ながらボランティアに参加させてください」といったメッセージをたくさんいただきます。皆、本当にLinuxへの愛にあふれていますね。

深見 イベントのために休みをとってボランティアとして参加するわけですよね。すごいモチベーションだと思います。

福安 日本で以前開催したイベントは、前日のセミナーも含めて4日間ありました。前日の準備も合わせると5日間コミットしてくれたボランティアもいました。

ファーストコンタクトは「いきなりメール」でもまったく構わない

深見 Linuxコミュニティに貢献したいエンジニアに向けて、何かアドバイスをいただけますか。

福安 そうですね、まずはThe Linux Foudationにメールをください。

深見 気軽にメールを送ってしまっていいんですか? 最初は勉強会に参加して、ステップアップして……というイメージでしたが。

福安 いきなりメールを送るので全然構いませんよ。「こういう課題を感じていて、どうすればいいのか分からないから、教えてください」というメールを送っていただければと思います。

 もちろん、ユーザーグループが主催する勉強会などに参加するのもありです。集まりに参加すれば、いろいろな情報を収集できますし。ユーザーグループや勉強会に参加して情報集有するのも良し、The Linux Foudationにメールをくれるのも良し。コミュニティに参加するには、いろいろなチャネルがあるということです。

深見 積極的に自分から動いてみるといい、ということでしょうか。

福安 そうですね。「これが正規ルート」というものはない気がします。「いろいろなチャネルがあっていろいろな方法でアクセスできる」のがコミュニティです。

信頼感が最も大切

深見 コミュニティに参加する上で、福安さんが大事にしていることは何ですか。

福安 「信頼感」です。コミュニティは、信頼感で成り立っているものですから。

深見 信頼を得るために、特にどんなことを意識していますか。

福安 特別なことは何も。OSSコミュニティ内で信頼を得るためにやるべきことと、実社会で信頼感を醸成する時にやるべきことに何か差があるわけではないはずです。きちんと話すとか、誠意を持って対応するとか、そういった、本当に基本的なことです。

深見 それは、日本内のコミュニティとグローバルコミュニティでも同じものでしょうか。

福安 確かに、日本の社会における信頼醸成の在り方と、コミュニティやグローバルにおける信頼醸成の在り方はやや違うかもしれない、と思うことはあります。日本流の「奥ゆかしくてあまり主張しない、きちんとしている」ことが、正しい姿であるとは限りません。コミュニティ内では、自分が主張したい部分はしっかり主張した方がいいと思います。ポイントは「きちんと誠意を持って対応していく」ことです。

日本エンジニアへのメッセージ

深見 最後に、日本人エンジニアに向けてメッセージをいただけますでしょうか。

福安 Linuxのコミュニティは、「誰が何をやっているか分かりづらい」というイメージがあるかもしれませんが、実際はそうではありません。常にオープンで新しい人に入ってきてもらうことを求めているグループです。

 コミュニケーションは基本的に英語なので、ハードルの高さを感じるかもしれませんが、あえて日本人エンジニアには勇気を持って飛び込んでほしいです。

 これからの世の中は、ますますグローバル化するでしょう。すでに、企業は海外国籍の人を積極的に採用したり、英語を社内公用語にしたりなど、グローバル化を進めています。

  カーネルコミュニティは、まさにグローバリゼーションを体現している世界なんですよ。世界中のディベロッパが、英語という1つの共通言語で、場所と時間を超えてディスカッションしている場です。そこには国境も、企業の垣根も存在しません。国境や企業の壁を超えてコミュニケーションをとりながら、1つのプラットフォームを作り上げているのがLinux開発コミュニティです。エンジニアの皆さんには、ぜひそうした世界に羽ばたいてほしいと思いますね。

インタビュー後記

 エンジニアが最初に行わなければならないことは「課題意識を持つこと」。これが、今回のインタビューで最も印象に残った一言でした。

 OSSは、コミッタ1人1人の課題意識によって進化する。だから自分なりの課題意識を持ち、他のメンバーとコミュニケーションしながら参加しなければ、意味がない??これは何も、OSSに限ったことではないはずです。福安さんが指摘するように、コミッタに求められる最も重要な資質は、「1人の人間として誠意を持って人と接し、タスクに取り組むこと」。これは、企業や家庭、あらゆる場面で求められる資質でしょう。

 ソフトウェアやコミュニティに能動的に対応していくというポジティブさが、自分や職場、ソフトウェア、さらには世界を進化させる原動力になるのだと、このインタビューを通じて実感しました。

 インタビュー中、Linuxカーネル開発のコアメンバーは「みんなナイスガイ」という発言がありました。この発言をされた福安氏ご自身が、かなりのナイスガイであったことをここに告白します。いつも明るく、お目にかかるたびに元気をもらっています。

 次回、日本で開催されるThe Linux Foundationの大規模なイベントは、2012年6月のLinuxCon Japanです。それまでに課題意識を持ち、ぜひ横浜に出かけてみてください。きっと仕事に対しても、世界に対しても、ポジティブな自分に変わるチャンスを見つけられると思います。

筆者紹介

深見嘉明(ふかみよしあき)

経営情報学研究者。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任助教、神奈川工科大学創造工学部非常勤講師、国立情報学研究所特別共同利用研究員。慶應義塾大学SFC研究所次世代Web応用技術ラボ(AWA Lab.)メンバー、W3C/Keio Inturn、修士(政策・メディア)。

専門は情報流通形態論。現在は、ウェブプラットフォーム設計とコミュニティ形成、メタデータを媒介としたコンテンツ流通、ウェブマーケティング戦略などウェブ・情報技術をベースにした情報流通形態に関して研究を行っている。

著書に『ウェブは菩薩である〜メタデータが世界を変える』『エコシステム形成のフラットフォーム:標準化活動の行動分析』(共著、『創発経営のプラットフォーム』など。

ブログ:deepen 〜Yoshiaki FUKAMI’s view



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