「OSSコミュニティに参加したいけれど、どうしたらいいか分からない」「中が見えにくいので不安」……OSSコミュニティの“中の人”へインタビューし、OSSコミュニティをもっと身近に感じてほしい。
深見 竹迫さんは、JavaScript仕様の標準化活動などにも関わっています。言語仕様を作る側と使う立場では、また見え方が違うと思いますが、いかがでしょうか。
JavaScriptはもともと旧NetScapeが開発した言語だが、後にEcma Internationalにおいて標準化されている。
厳密に言えば、旧NetScape/Mozillaが開発した仕様をJavaScript、それをEcma Internationalにおいて標準化したものがECMAScript、さらにそれがISO/IEC JTC 1で審議されてデジュール標準(公的標準)となる。一般的にはすべてを区別せずにJavaScriptと呼ぶことが多い。
竹迫 今、ECMAScriptというECMA-262の規格が注目を浴びています。これは、JavaScriptのプログラミング言語仕様を定義したものです。私は、このECMA-262の規格をISOの標準にしていいかどうか議論する場所に、日本メンバーの1人として参加しています。
標準と標準化団体の種類
標準と一口に言っても「デジュール標準」「デファクト標準」の2種類が存在する。
デジュール標準は、政府や国際機関によって定められるいわば「公的」な標準。デファクト標準は、政府や公的機関が関与しない標準のこと。その多くはCDやBlu-ray Discのように市場競争を通じて圧倒的なシェアをもった仕様のことを指すが、それ以外にも政府から独立した民間の企業連合・コンソーシアムによって策定されるものも含まれる。Ecma Internationalや後に出てくるW3C(World Wide Web Consortium: HTML5やCSS3などのWeb標準の標準化団体)、IETF(Internet Engineering Task Force: TCP/IPなど、インターネット標準の標準化団体)は、皆政府から独立したデファクト標準の団体である。
なお、これら民間のデファクト標準化団体で策定された仕様は、その後ISO(国際標準化機構)やIEC(国際電気標準会議)などで審議され、デジュール標準となる事が多い。IETF、W3C、Ecma Internationalによって策定された標準は、最初からISOやIECで審議される標準とは異なり、簡易な手続きで標準化が進められる。この手続きのことをFast Track制度という。
ISO/IEC JTC 1
ISO(国際標準化機構)は、ネジの溝の間隔や、工場の作業手順などあらゆる工業標準を策定しており、その中に電気電子関連の分野も含まれる。しかし、この分野には別にIEC(国際電気標準会議)という標準化団体が存在し、役割が重複していた。そのため、電気通信の分野に関しては、ISOとIECが共同でJTC 1(Joint Technical Committee 1)を発足させ、そこで標準仕様策定を行う。SCはSub Committeeの略称で、技術分野ごとに設けられている。
深見 いわゆるEcma Internationalの中で議論されてきてFast Trackに上ってきているものを、ISOの構成国・日本として審議する――という立場ですよね。
JavaScriptの標準が、プロセスを踏んでISOで審議されるという流れは、エンジニアにとってはかなり分かりにくい世界だと思います。そういう世界に関わるエンジニアとして、何か見えたものはありますか。
竹迫 標準化の作業にこれだけ人が関わっているのだな、ということを強く実感しました。
深見 標準化に関わるきっかけは何だったのですか?
竹迫 実は、飲み会でした。
深見 えっ飲み会!
竹迫 隣の席に座っていた人に、「僕は最近こんなJavaScriptのハッキングをしている」と言ったら、その人が審議にかかわっている1人だったんです。そこで、「JavaScriptの審議をするから、今度来てみないか」と誘われました。
深見 人のアサインは属人的なものなのですね……。
竹迫 SC22は各国にMirror Committeeがあり、私が入った当時、日本のSC22のECMAScript Adhocには10名ぐらいの委員の方がいらっしゃいました。
深見 平均年齢はどれぐらいなのでしょうか。
竹迫 平均で40〜50歳ぐらいじゃないでしょうか。私は現在35歳ですが、日本のメンバーの中では若手の部類に入ると思います。もう1人、私より年下の人がいますが、他の人はすべて年上です。
深見 これまで世界の第一線で活躍している方々が集まっているということですね。
竹迫 パワーのある人が多いので、すごいエネルギーを感じます。当たり前のように英語でディベートできる人たちですし。規格の審議は国際的な舞台なので、いかに自分の主張を示すか、総合的な能力が試されます。
どのコミュニティでも同じ問題を抱えていると思いますが、やはり規格を審議する人たちも「年々、平均年齢が上がっていく」ことに悩んでいます。若い人をどう育っていくか、引き込んでいくかが課題と感じているようですね。特にJavaScript/ECMAScriptというのは新しい規格なので、実際の使われ方についてはやはり若い人の方がよく知っているケースも多いです。
深見 なるほど、チャンスがめぐってきている、ということですね。
深見 国際標準に関わる日本のMirror Committeeなどの仕組みを知っていたり、英語のドキュメントに対して議論をすることは、エンジニアとして生きていく中でかなり大きな資産ですよね。
竹迫 そうですね。総合的な能力が試されるという部分はかなりあります。
深見 というと。
竹迫 例えば「この仕様のこの部分を直してほしい」と主張するには、相手を納得させるための主張が必要です。専門的な知識の他に、英語のスピーキングやディベート能力など、いろいろな要素が入っているので、ビジネスの商談をまとめる時に役立つような総合的な能力が求められます。
私自身、実際に中に入ってみて、「ここらへんの能力が圧倒的に足りない」と痛感しました。なので、英語の語学力やディベートの力を磨くことが、これからの自分の課題だと思っています。
深見 エンジニアのコミュニティと標準化のコミュニティ、2つの異なるコミュニティに関わってみて、両者の違いは結構ありますか? 先ほど、必要とされるスキルが違うというお話がありましたが。
竹迫 スーツを着た人たちが忙しい中委員会に集まって議論する、という形が多いので、エンジニアのコミュニティとは結構、雰囲気が違うと思います。
深見 和気あいあいというイメージではないですよね。
竹迫 代わりに、エンジニアのコミュニティだけでは得られない刺激もたくさんあります。
もっと世界的に活躍できるようなエンジニアになるには、こんなことをする必要がある、という発見がありました。
深見 標準化活動は、エンジニアにとって見えにくい世界だと思います。JTC 1、IETFやEcmaなど、たくさんの団体名があってややこしいですし。かなり取っつきにくいと思うのですが、入っていくきっかけになるようなものはありますか?
竹迫 世の中の標準で「おかしいな」と思っていること、日々の生活の中に困ったことがあると、そのまま標準化につながっていることはありますよ。
例えば、時刻についてなどがあります。日本では「午後0時」という言い方をしますが、海外では0時という言い方は絶対しないんですね。時計の針は1から12までで、0はない。なので、午後0時とか午前0時というのは日本独特の話なので、海外に出てみると、日本人は結構、混乱します。
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