“荒れないSNS”はデザインで実現できるか? 「mixi2」の実装に見る“優しさ”への誘導:「キュン」や「ほぇ〜」でほっこり、ほっこり
いろいろなサービスの“ほっこり”要素を取り入れた“ほっこりとこどり”なサービスが爆誕しました。
「mixi2」が爆誕しました。
爆誕……もはや“死語”かもしれません。30代以上の人間にはなじみ深いネット用語ですが(筆者は46歳)、どうにも古さが感じられます。
mixi2はそんな雰囲気をまとっています。「X」(旧Twitter)に似たテキストSNSでありながら、アイコンなどのデザインは、平成中期のイメージです。「mixi2」というサービス名も、平成16年(2004年)公開の「mixi」から取っています。
mixi2のデザインには、「荒れないSNS」への希望が詰まっているように感じました。その理由を解説します。
SNS=荒れる?
昨今、SNSのイメージは良くありません。Xでは日々“炎上”が起きていますし、デマが拡散したり、犯罪に悪用されたりすることもあります。「Facebook」や「LINE」でも、なりすましや詐欺などの問題が日々報じられています。
ここ10年ほど、「SNSとはそういうもの」という諦めの空気がまん延していたように思います。少なくとも筆者はとっくに諦めていましたが、「そうではないかもしれない」という希望をくれたのがmixi2です。
「SNS=危ない、怖いと言われることがある中、mixi2は楽しい、優しい、ほっこりとした場になればと考えています」。mixi2のヘルプにはそう書かれています。
「優しいSNSにしたい」。そう言って終わりではありません。機能や実装において荒れない仕組みを目指そうという思想が、mixi2からは伝わってきます。
招待制で軽いブレーキ
mixi2は初代mixiと同様「完全招待制」をうたっていますが、招待状はXなどでも拡散可能です。友人からメールなどで招待状をもらうしかなかった初代と違い、インフルエンサーが拡散している招待状を見つければ、誰でも登録できます。
とはいえ、「招待状から利用する」と「登録すれば誰でも利用できる」の間には壁があります。mixi2は招待してくれた人を自動でフォローし、その通知も招待者に届くため、招待者を意識せざるを得ませんし、招待者の動きが目に入ります。
Xは「誰でも系」で、完全に独立して登録できるため、つながりゼロでスタートします。誰の目も気にせずに運用できる半面、場の空気感を学ぶ機会もありません。今Xに新規登録すると、陰謀論やデマ、エロ関連の投稿がタイムラインに大量に流れてきます。
mixi2は緩い招待制を採ることで、ユーザーに場の空気を学んでもらい、使い方の方向性を導いているように見えます。
リプライでの中傷を防ぐ
投稿に「いいね」やリポスト、リプライを付けられるなど、mixi2にはXとほぼ同じ機能があります。
ただしリプライ欄には、「やさしいことばで返信しよう」と常に表示されます。さらに秀逸なのが、「リプライが必ず相手のタイムラインに表示される」仕様です。デフォルトでは、自分のタイムラインにも自分が他ユーザーに当てたリプライが表示されます。
リプライはいわば“場にさらされる”ため、こっそり返信できません。その結果、リプライはかなり抑制的に使われている印象です。
リアクションで“日本語の壁”をつくる
リプライの代わりによく使われているのが、投稿に付けられるリアクションアイコンです。「Slack」や「Discord」などにも同様の機能はありますが、大きく違うのが「日本語がメイン」という点です。
リアクションアイコンは100以上あり、7割程度が日本語です。「ありがと」「いいな」「かわいい」「がんばれ」などの平仮名や、「推」「愛」「草」などの漢字のアイコンがあり、それぞれ平成スタイルのポップな字体で描かれています。
リプライを抑制しつつリアクションアイコンをポジティブにすることで、投稿への反応もポジティブに誘導されていきます。また、アイコンをあえて日本語にし、リプライ代わりに使ってもらいつつ、日本語話者以外を遠ざけています。
Xで問題になっている「インプレゾンビ」は、ほとんどが海外のユーザーです。mixi2は、日本語話者限定のアイコンを実装することで、ビジネス目的の海外ユーザーを遠ざけようとしているように思います。
リアクションアイコンのデザインは、ちょっとレトロで平成を感じさせます。平成時代のトレンドに親しみの強い、年齢層高めのユーザー向けにデザインすることで、マナーを守りながら使ってもらうことを期待したのかもしれません。
「完全時系列」で分断を避ける
Xが荒れている元凶の一つが「トレンド」です。多くリポストされるほどユーザーの目に付く機会が増え、トレンドに浮上するなどしてより拡散していきます。その結果、閲覧数(リポスト)を稼ごうとした過激な内容やデマなどが拡散しがちな構造になっています。
mixi2のタイムラインは現状、完全に時系列です。トレンド機能など、全体の話題を把握する機能もありません。また、閲覧数を稼いだユーザーが収益を得られる仕組みもありません。
このため、過激な発言や“炎上”が可視化されにくく、どんなユーザーのつぶやきも「1ポスト」として平等にタイムラインに流れてくるので、影響力(フォロワー数や拡散力)の強さでユーザーが分断されづらく、フラットな感覚でいられます。
あえての? Web版なし
mixi2にはWeb版がありませんので、PCからの利用は困難です。しかし、PCでアクセス可能になると活気は出るでしょうが、ビジネス目的のユーザーが増えるなど、荒れる原因にもなりがちです。
また、APIも出ていません。APIで外部サービスと連携すると便利になるだろう、と期待できる半面、ユーザーの投稿が文脈抜きで外部サイトにさらされたり、タイムラインを流れて消えたはずの投稿が長く残ったりするリスクがあります。
mixi2はユーザーを守るために、Web版やAPIの公開を慎重に考えているのではないでしょうか。
優しいSNSは守れるか
mixi2には他にも、「楽しい、優しい、ほっこりとした場」を保つための工夫が、そこかしこに見られます。
紆余(うよ)曲折あった「mixi」の運営を経験してきた同社らしい、考え抜かれたSNSだと感じ入るとともに、「荒れないSNSの実現は可能かもしれない」という希望を持たせもらっています。
ただ、mixi2は始まったばかり。今後ユーザーがさらに増え、人々の生活に定着すれば、悪意のあるユーザーも増えていくでしょう。
「優しいSNS」を守れるか。MIXI社に期待したいです。
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