派生型でもっと便利にデータを扱う:目指せ! Cプログラマ(10)(2/2 ページ)
連載第3回ではchar型や整数型など基本型について学びました。今回は基本型を組合せて使える派生型について説明します。派生型には構造体、共用体、配列などがあります
構造体のメンバーをビットに割り当てる
構造体には1バイトの大きさを持つchar型のメンバーを含むことができますが、ビットフィールドを使うとより小さなデータを表現することもできます。ビットフィールドは構造体のメンバー宣言に続けて、“:”(コロン)とビット幅を指定することで宣言します。
struct bunrui { unsigned int mousho_bi : 1; // 猛暑日 unsigned int manatsu_bi : 1; // 真夏日 unsigned int natsu_bi : 1; // 夏日 unsigned int fuyu_bi : 1; // 冬日 unsigned int mafuyu_bi : 1; // 真冬日 unsigned int nettai_ya : 1; // 熱帯夜 };
ビットフィールドの宣言で使用できる型は_Bool、signed int、unsigned intです。この例ではunsigned intを使っていて、その日が猛暑日であったかどうかなどを1ビットで表せるようにしてあります。ビットフィールドのメンバーへのアクセスは、ビットフィールドではない構造体のメンバーと同じように “.”演算子を利用します。
PleiadesやVisual C++の環境では、unsigned int型のオブジェクトは32ビットの大きさを持ちます。しかしビットフィールドとして宣言した場合には、そのビット幅分だけの大きさが隙間なく用意されます。つまりこの6つのビットは並んで用意されます。
ここでは1ビット幅のビットフィールドしか使用しませんでしたが、宣言に利用した型の大きさまでは宣言に利用できますので、必要であれば10ビットや20ビットといったフィールドを宣言することもできます。
ただしビットフィールドの記述方法や動作は処理系ごとに異なる部分が多いため、使用するときにはコンパイラーのマニュアルを確認してください。
現代のコンピューターでは効率を多少上げることよりも、ソースコードの書きやすさや読みやすさを優先したほうが良い場合が多くなっています。ですから、扱いづらいビットフィールドをあえて使う必要はありません。システム プログラムのようにビット単位での処理をした方が明らかに合理的であるようなときに使うこととして、それ以外の場合にはこういうものがあるという程度に覚えておけば問題ないでしょう。
構造体や配列の大きさを知る
オブジェクトの大きさを得るためにはsizeof演算子を使いました。同じように構造体や配列の大きさを得ることができます。
// struct kisho => 20 (環境により異なる) printf("struct kisho => %d\n", sizeof(struct kisho)); // kion => 192 (環境により異なる) printf("kion => %d\n", sizeof(kion)); // kisho_day => 480 (環境により異なる) printf("kisho_day => %d\n", sizeof(kisho_day));
構造体ではパディングが追加されることがあるためサイズは環境によって変わりますが、sizeof演算子はパディングも含めた大きさを返します。構造体のメンバーの大きさもsizeofで得ることができます。ただしビットフィールドに対しては使えません。
また、配列全体の大きさだけではなく、配列の要素数を得たいときもあります。要素数は、配列全体の大きさを、要素1つ分の大きさで割ると得られます。
// kion => 24 printf("kion => %d\n", sizeof(kion) / sizeof(kion[0]));
コラム●可変長配列
C99以前は、配列を宣言するときに指定できる要素数は、定数だけでした。つまり、変数を指定することができません。つまりそれは、コンパイル時に配列の大きさが決まるということです。
C99で導入された可変長配列を使うと、宣言時に変数が使えるようになり、プログラムの実行時に大きさを決めることができるようになります。つまり、「int a; /* a の値を変更 */ int b[a];」といったことが可能になります。
大変便利なように思われるかもしれませんが、これまでのCプログラミングと考え方が異なるためか、現時点ではあまり使われていないようです。慣れるまではこの機能のことは忘れて、配列は固定長で扱うと考えておいたほうがいいでしょう。
関係する整数定数をまとめて宣言する列挙型
気象データに天気を追加してみましょう。とりあえず、晴れ、曇り、雨の3種類を扱えるようにしたいとして、どのように実装すればよいでしょうか。単純に考えると、整数型を用意しておいて、晴れ=1、曇り=2、雨=3 として値を入れておいたらどうか、という案が考えられます。
この案は良い方法ですが、「晴れとは1である」というルールを覚えておくのが大変です。また、ソースコード上に1という数値が登場した場合、それが天気の晴れを意味するのか、あるいは別の意味を持つ1という値なのか、区別するのが難しくなります。
このようなときには列挙型を使って、整数の値に名前をつけます。
enum tenki { HARE = 1, // 晴れ KUMORI = 2, // 曇り AME = 3 // 雨 };
こうしておくと、enum tenkiという新しい型が作られ、そこにはHARE、KUMORI、AMEという値を入れることができるようになります。enumで新たに作られる型(例ではenum tenki)を“列挙型”、新たに作られた値(例ではHAREなど)を“列挙定数”と呼びます。
enum tenki t; // enum tenki型のオブジェクトを宣言した。 t = HARE; // そして今日は晴れである。
HAREという値は、実際にはint型を持つ1という整数値と同じですから、「t = 1」と書くこともできます。しかしながら「t = 1」と「t = HARE」を比べた場合、後者のほうが「晴れ」という天気を扱っているということがはっきり分かりますので、より良いソースコードと言えます。
なお、列挙定数の宣言で使用する “=”(イコール)は省略できます。省略すると、その直前の列挙定数に1を加えたものになります。先頭の列挙定数の“=”を省略すると、その値は0になります。
コラム●列挙定数と整数
列挙定数として宣言された値は、実際にはint型のオブジェクトとして処理されます。本文中でも説明したとおり、enum tenki型のオブジェクトtに対して、「t = HARE」はもちろん、「t = 1」という式も正しいということになります。
これはつまり、列挙定数を整数型のオブジェクトに代入することが可能ということです。つまりint型のオブジェクトaに対して「a = HARE」ということが可能であるということです。
ただしこれが文法上許されているとしても、分かりやすいコードであるかどうかとは別の問題です。可能な限り宣言に利用した列挙型のオブジェクトを定義して、そこに列挙定数を入れるというコードが良いでしょう。
構造体や配列の値を初期化する
charやintなどの型と同じように、構造体や配列も宣言と同時に初期化することができます。
// 気象データの構造体を宣言と同時に初期化します。 struct kisho { double kion; // 気温 double shitsudo; // 湿度 unsigned int kousuiryo; // 降水量 } k = { 18.0, 60.0 }; // 気温を宣言と同時に初期化します。 double kion[24] = { 20.0, 19.1, 18.2 };
構造体の初期化では、宣言したメンバーの宣言順に値を並べて書くことで、それぞれのメンバーに値を入れることができます。 この例では、気象データkのkionには18.0、shitsudoに60.0が入ります。配列kionも同じように、配列の先頭要素kion[0]から指定した値が順に入ります。さらに、値が指定されていない部分は0に初期化されます。つまり気象データkのkousuiryoと、気温kionの4つ目以降の要素(kion[3]以降)には0が入ります。
さらにchar型の配列については文字列リテラル(ダブルクォートで囲った文字列)で初期化することもできます。
char str1[] = "abc"; // このコードは次と同じ。 // char str1[] = { 'a', 'b', 'c', '\0' };
このようなやり方での初期化は便利でよく使われますし、初期化以外のところにも書けるのですが、残念ながら関数の実引数のところでは使えません。
// 気象データを引数に受け取る関数。 void func(struct kisho k) { /* ... */ } int main(void) { // 気温18.0、湿度60.0の気象データを渡したいが、次のようには書けない。 func( { 18.0, 60.0 } ); // エラー! // 次のように書く必要がある。 struct kisho k = { 18.0, 60.0 }; func(k); // OK! return EXIT_SUCCESS; }
文字列リテラルを用いたchar型配列の初期化についても、同じやり方で関数に配列を渡すことはできません。実引数として構造体を渡したいときには、構造体の変数を宣言し、その値を指定してから渡す必要があります。
そこでC99からの新機能として、複合リテラルが使えるようになりました。複合リテラルを使うと構造体や配列の値を素直に記述することができます。
func( (struct kisho){ 18.0, 60.0 } ); // C99ではOK!
func呼び出しの実引数が複合リテラルです。(){}という記述は、これ全体で複合リテラル演算子と言います。()の中には型の名前を、{}の中は値を書きます。{}の中は、先ほどの初期化と同じ書き方ができますので、素直に理解できるかと思います。ここでは構造体を例にしましたが、配列でも同じように書くことができます。
さらにC99からは、要素指示子付きの初期化という方法も追加されています。これは初期化の時に、宣言の並びに関係なく指定した要素の値のみ初期化する方法です。
// 気象データ構造体kの湿度だけ値を指定する。残りのメンバーの値は0。 struct kisho k = { .shitsudo = 60.0 }; // 気温kionの2つ目と3つ目の要素だけ値を指定する。残りの要素の値は0。 double kion[24] = { [1] = 20.0, [2] = 18.2 };
複合リテラルと要素指示子付きの初期化は組み合わせて使うこともできます。活躍できる場面は多いと思いますので、C99が使える環境であればぜひ使ってみてください。
今回学んだこと
- 構造体を使うと、複数の型を含む新しい型を作ることができます
- 配列を使うと、ひとつの型のオブジェクトがたくさん集まったデータを扱えます
- 共用体を使うと、重なりあった新しい型を作ることができます
- ビットフィールドを使うと、構造体のメンバーの大きさをビット単位で指定することができます
- 構造体や配列を宣言と同時に初期化することができます
- C99以降では構造体や配列の初期化に複合リテラルや要素指示子付きの初期化が使えます
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