第11回 クライアントHyper-V:Windows 8レボリューション(1/3 ページ)
従来はサーバOS向けに提供されていたHyper-Vが、クライアントOSであるWindows 8でも利用できるようになった。従来のWindows Virtual PCとの違いやサーバ版Hyper-Vとの違い、およびVirtual PCのディスク・イメージをクライアントHyper-Vで利用する方法を解説する。
※今回の記事は、ベータ版に基づいた以前の記事を、RTM版をベースに大幅に加筆・修正をしたものです。
今回はクライアント向けHyper-V機能について取り上げ、解説する。サーバ版のHyper-V機能については今後Windows Server 2012の連載で取り上げる。
Windows 8では、仮想実行環境として新しくHyper-Vが搭載された。これは従来のWindows Server 2008 R2で提供されていたHyper-Vの後継となる機能だ。Windows Server 2008のHyper-V 1.0からWindows Server 2012のHyper-V 2.0へのバージョンアップでは、ライブ・マイグレーションやクラスタ共有ボリューム、ストレージ・ホットプラグ、動的メモリ、RemoteFXなど、特徴的な新機能が多く導入された。これに対してWindows 8/Windows Server 2012のHyper-Vではまったく新しい機能を追加するというよりは、既存の機能や操作性を洗練・強化させたものが多い。例えば、クラスタ共有ボリュームが不要なライブ・マイグレーションやクライアントでのHyper-Vサポート、PowerShellによる管理、新仮想ディスク形式のサポート、帯域制御や拡張機能(Extensions)の追加に対応したネットワーク機能、オフロード処理を強化したストレージやネットワーク機能などが挙げられる。今回はこのうち、Windows 8で利用できる、クライアント向けHyper-V機能について、以前のWindows Virtual PCと比べながら解説する。
機能 | 内容 |
---|---|
クライアントOSでのHyper-Vサポート | ○ |
ホスト・システムにおける最大サポートコア数 | 最大160コア |
仮想マシンのプロセッサ | 1仮想マシンあたり最大32論理コア |
仮想マシンのメモリ | 1仮想マシンあたり最大512Gbytes |
NUMAサポート | ○ |
最大同時稼働仮想マシン数 | 最大1024台 |
VHDX仮想ディスク | 最大16Tbytesまで拡張可能な新形式の仮想ディスク/4Kbytesセクタ・ディスクのサポート/ネイティブVHDXブート |
スナップショット | ○(複数のスナップショットやスナップショット・ツリーの管理が可能) |
ディスク関連機能 | IDE/SCSI/FibreChannel/iSCSI/Hyper-V on SMB/Clustered PCI RAID/ODX(Offload Data Transfer) |
ネットワーク関連機能 | 外部ネットワーク・スイッチ/内部ネットワーク・スイッチ/プライベート・ネットワーク・スイッチ/レガシー・ネットワーク・アダプタ/無線LAN/VLAN/ポート・ミラーリング/ネットワーク・リソース・プール/スイッチ拡張機能/タスク・オフロード/NICチーミング/帯域制御(QoS)/SR-IOV(Single Root I/O Virtualization)サポート/D-VMQ(Dynamic Virtual Machine Queue)/DHCPガード/ルータ広告ガード |
DirectX/Direct3D | ○ |
仮想マシンの移動/クラスタ | ライブ・ストレージ・マイグレーション/ライブ・マイグレーション/CSV(クラスタ共有ボリューム)を使わないクラスタ |
PowerShellサポート | Hyper-Vマネージャで可能な操作のほとんどをPowerShellで操作可能。150以上のHyper-Vコマンドレットをサポート |
リモート管理 | Hyper-Vマネージャ/PowerShell |
サポート・ゲストOS | 32bitおよび64bitの以下のOS ・Windows XP SP3 ・Windows Vista ・Windows Server 2003 SP2 ・Windows Server 2003 R2 SP2 ・Windows Server 2008 ・Windows Server 2008 R2 ・Windows SBS 2011 ・Windows Home Server 2011 ・Windows Server 2012 ・Windows 7 SP1 ・Windows 8 ・Red Hat Enterprise Linux 5.2-5.6、6.0、6.1 ・SUSE Linux Enterprise Server 10、11 ・CentOS 5.2-5.6、6.x |
Windows 8/Windows Server 2012のHyper-Vの新機能/機能強化点 |
クライアントでもサポートされるHyper-V
従来、Hyper-VはServer OSでのみ提供されていた仮想化環境であるが、Windows 8からはクライアント版OSでもHyper-Vが利用できるようになった。Windows 7では、Windows Virtual PCという仮想環境が用意されていたが、これは廃止され、代わりにHyper-Vが採用された。これにより、サーバかクライアントかに関わらず、同じ操作方法で仮想マシンを管理できるほか、同じ仮想イメージを使うことも可能である。テストをローカルのクライアントWindows 8上で行い、最終的なイメージが完成したら本番用サーバに展開するという運用も可能だ。
Windows Virtual PCとHyper-Vは、同じ仮想化実行環境といっても機能は大きく異なっている。今回は分かりやすいように、クライアント環境で利用可能な機能に注目して、両者を比較しておこう。Windows Server 2012でのみ利用可能なHyper-Vの機能については、別途Windows Server 2012の連載で扱うことにする。
仮想環境 | Windows Virtual PC | Windows 8のHyper-V |
---|---|---|
仮想化の方式 | ホスト型 | ハイパーバイザ型 |
ホストCPU | x86/x64 | x64アーキテクチャのCPUが必須。最大160コアまでサポート |
ホストOS | 32bitもしくは64bit版のWindows 7 | 64bit版のWindows 8 Enterprise/Proが必要。32bit版のWindows 8ではHyper-Vの管理ツールのみ利用可能。Windows 8(無印エディション)・Windows RTではHyper-V機能も管理ツールも利用不可 |
ホストCPUのハードウェア仮想化支援機能(Intel-VTやAMD-V) | あれば利用されるが、なくても動作する | 必須 |
ホストCPUのSLAT(Second Level Address Translation)機能 | あれば利用されるが、なくても動作する | Intel EPTやAMD RVI/NPTなどのSLAT機能(ページングの仮想化を補助する機能)が必須 |
ホスト・システムのメイン・メモリ | ホストOSのサポートするメイン・メモリまで | ホストOSのサポートするメイン・メモリまで |
ゲストOS | 32bit OSのみ | 前掲の32bit OS/64bit OS |
仮想CPUコア数 | 1コアのみ | 1〜32コア(ただし実コア数以下に制限される) |
仮想マシンのメモリ | 最大4Gbytes | 静的メモリはホスト・システムの最大空き物理メモリ・サイズまで。動的メモリは最大2Tbytesまで |
メモリ割り当て | 固定サイズのみ | 固定サイズか動的メモリ |
仮想ディスク数 | 最大4台(うち1台はCD/DVD) | IDEは最大4台、SCSIはインターフェイスごとにそれぞれ最大64台 |
仮想ディスクのサイズ | VHD(最大128Gbytes) | VHD形式では最大2Tbytes、.VHDX形式では最大16Tbytes |
復元ディスク | ○ | △(スナップショットを使用) |
スナップショット(複数の状態の保存) | − | ○ |
バックグラウンドでの実行 | ログオフすると仮想マシンは停止/終了 | 仮想マシンはシステム全体で共有。ユーザーのログオン状態とは無関係に実行される |
VMの移動機能 | なし。手動で対応 | インポート&エクスポートのほか、場所を指定しての直接移動も可能 |
UEFIブート | − | − |
IDEインターフェイス | 2つ(計4デバイスまで) | 2つ(計4デバイスまで) |
SCSIインターフェイス | − | 4つまで(1インターフェイスごとに最大64デバイスをサポート) |
USBデバイスのパス・スルー・サポート | ○ | −(サーバ向けHyper-Vで利用できるRemoteFXではサポートされる) |
NUMAサポート | − | ○ |
ネットワーク・インターフェイス | 4つまで | 8つまで(これ以外に、レガシー・ネットワーク・デバイスを4つまで追加可能) |
ネットワークの帯域制御 | − | ○ |
FDインターフェイス | 1つ | 1つ |
シリアル・ポート | 2つ | 2つ |
FibreChannelサポート | − | ○ |
Windows XP Mode | ○ | −(OSのインスタンス化権はない) |
仮想アプリケーション | ○ | − |
メニューの自動公開 | ○ | − |
仮想ネットワーク・インターフェイス | 最大4インターフェイス | 最大12インターフェイス |
仮想ネットワークの種類 | 内部/共有/外部 | 内部/外部/プライベート/VLAN |
DirectX | DirectX 11 | DirectX 11 |
Direct3D | − | ○(ソフトウェア処理。RemoteFXはサーバ版でのみサポート) |
最大解像度 | 2048×1920 | 1920×1200 |
管理ツール | GUIのみ | GUI/PowerShell |
リモート管理 | − | Hyper-Vマネージャ/PowerShellを使用 |
PowerShellサポート | − | ○ |
自動起動/終了/保存 | △(終了時の自動保存のみ) | ○ |
Windows Virtual PCとWindows 8のHyper-Vの主要な違い |
仮想化の概念や内部アーキテクチャなどについては関連記事を参照していただきたいが、一般にWindows Virtual PC(ホスト方式)よりHyper-V(ハイパーバイザ方式)の方が低オーバーヘッドで安全性が高く(ゲストOSが、互いに隔離された仮想パーティション中で実行される)、高性能な仮想マシン環境を実現できる。Windows Virtual PCがデバイスのレベルまで細かくエミュレーションしているのに対して、ハイパーバイザ型ではデバイス・ドライバ・レベルでゲストOSの要求を受け取り、それを仮想マシン・モニタ(VMM)経由でホストOS(親パーティションのOS)側で処理するからだ。デバイス・ドライバの中のコードは実行せず、高レベルなコマンドやパラメータをそのまま親パーティションのドライバに渡しているので、オーバーヘッドは最小になる。
機能的な面で比較すると、Windows Virtual PCに対してクライアントHyper-Vでは、仮想マシンにおける64bit CPU(64bit OS)やマルチコア、動的メモリのサポート、複数のスナップショット、柔軟なハードウェア構成(ネットワークやディスク)、PowerShellやHyper-Vマネージャによるリモート管理機能、新仮想ファイルVHDXサポートなどが大きな利点である。
ただし要求されるハードウェア仕様も高く、特に64bit CPUと64bit版Windows 8が必要というのが一番大きなハードルであろう。32bit版のWindows 8ではHyper-Vのリモート管理機能しか利用できず(32bitのゲストOSやWindows XP Modeを使うことも不可能)、仮想環境は利用できない。必要ならサードパーティ製の仮想化ソフトウェアを導入するしかない。
またHyper-Vはもともとサーバ向けに作られたシステムであるため、クライアント用途向けとしてはいくつか不足している機能がある。これはWindows 8のHyper-Vでも同様であり、次の機能はサポートされていない。
■Windows 7のXP Mode
これは過去との互換性のために、Windows XPを仮想マシン上で実行させる機能。ただし、もともとWindows XPのサポート期限は2014年4月までなので、いつまでも使えるソリューションではない。またWindows 7の場合と違い、Windows XPの仮想イメージが提供されていないので、Windows XPが必要なら、別途Windows XPのOSイメージとそのライセンスを用意して、自分で仮想マシン上にインストールする必要がある。
■仮想アプリケーションとメニューの自動公開機能
これは、仮想マシン上にインストールしたアプリケーションを、クライアントのデスクトップ上でシームレスに実行したり、その起動メニューをクライアント側のメニュー画面に自動公開する機能。このような使い方に対するマイクロソフトのソリューションとしては、Hyper-Vと仮想化を組み合わせたVDI/MED-V/App-Vなどがある(これらの詳細については連載「Windows Server 2008 R2によるVDI実践入門」参照)。
■USBデバイスのパス・スルー機能
これは、クライアントPC(ホスト)に接続したUSBデバイスを仮想マシン上で利用する機能だが、これもクライアントHyper-Vでは利用できない。この機能はWindows Server 2012のHyper-Vで利用できるRemoteFXではサポートされる(RemoteFXについては「3DグラフィックスをサポートするHyper-VのRemoteFX」参照)。
サーバ版Hyper-Vとの違い
Windows 8のクライアントHyper-VとWindows Server 2012のサーバ版Hyper-Vは同じテクノロジに基づいているが、少し違いがある。以下の機能はWindows 8のHyper-Vでは利用できない。
- Remote FX機能
- 仮想マシンのライブ・マイグレーション(実行したままの移動)
- Hyper-Vレプリカ(仮想マシンの複製。バックアップに利用できる)
- SR-IOV(Single Root I/O Virtualization)ネットワーキング(ハイパーバイザを介さず、直接I/Oアクセスを行う技術)
- Synthetic fibre channel(ゲストOSから直接Fibre Channelにアクセスする技術)
またWindows Server 2012と違い、仮想化のインスタンス権はいっさい付属していない。仮想マシン上にインストールするOSは、正式なライセンスを得たものを入手してインストールする必要がある。Windows Server 2012の仮想化のインスタンス権については「Windows Server 2012の概要」を参照していただきたい。
Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.