SDNはネットワークの制約を打ち破れるか?:SDN Japanレポート(2/2 ページ)
12月6日、7日の2日間に渡って、SDN(Software Defined Networking)をテーマとするイベント「SDN Japan」が開催された。その一部をレポートする。
パネルディスカッション:技術者から見たSDNとその実現技術
2日目の「技術者から見たSDNとその実現技術」と題したパネルディスカッションでは、ブロケード コミュニケーションズ システムズの小宮崇博氏、Vyattaユーザー会の浅間正和氏(銀座堂)、独立行政法人 情報通信研究機構(NICT)の河合栄治氏、ヴイエムウェア(旧ニシラ)の進藤資訓氏、ミドクラのダン・ミハイ・ドミトリウ氏と通訳も務めた田村芳明氏、シスコシステムズの河野美也氏、ストラトスフィアの石黒邦宏氏(着席順)の8名がパネリストとして参加した。モデレータを務めたのは、ITmediaの三木泉である。
2時間を前後半の二部構成に分け、前半は「ネットワークレイヤについて」、後半は「より上位のレイヤについて」とテーマを区切ってディスカッションを行った。
まずは各パネリストが5分という持ち時間で「おのおのの考えるSDN」について語ったが、おおむね時間が足りず、モデレータによって無情に話を切られることになった。パネリストが使用したプレゼンテーション資料はSDN Japanのサイトに公開されているので、詳しくはそちらを参照していただきたい。
これまでのネットワークでは力不足?
ディスカッション最初のお題は、「SDNが登場したのは、従来のネットワーク技術やネットワーク機器に足りない部分があったからではないか」という疑問についてだ。だがパネリストから返ってきたのは、「足りなかったというよりは、周囲の環境が変わったためにそれに対応する必要が生じた」という意見である。やるべきことをやってこなかったと思われるのは心外、ということだろう。
石黒氏が整理したところでは「インターネットアーキテクチャがここ数年で大きく変わった」ことが要因といえそうだ。
「特に、大規模なWebサービスができ、クラウドが出てきたことで変わった。従来のアーキテクチャは、コンピュータをつなげることが目的。真ん中にネットワークがあり、そこにコンピュータがぶら下がっていた。今はデータセンターやクラウドが真ん中にあり、そこにはコンピューティングリソースもストレージもネットワークも含まれていて、ぶら下がっているのはスクリーンだけ、というアーキテクチャになった。コンピューティングリソースとストレージは仮想化されている。それならネットワークはなぜ仮想化されていないのかということになった」(石黒氏)。
シスコの河合氏はさらに、「ネットワークコミュニティは複雑なことに慣れている。だが新たなコミュニティから見ると『なんでこんな複雑なことをやっているの』、と思われたのでは」とも続けた。
次に、データセンター内でのSDNについて、「ネットワーク仮想化という技術で仮想ネットワークセグメントを作り出すだけでいいのか」という問いかけについては、進藤氏が「リーチャビリティだけがゴールではない。普段使っているネットワークと遜色ない機能を持ったネットワークを作ることだ」と回答した。
小宮氏は、「ワークロードという言葉からは、ひょっとしたら仮想マシン単体を思い浮かべるかもしれないが、そうは思わない。フロントのマシン、アプリケーションサーバ、データベース、これらが一体となったものがワークロード。つまり、ビジネスデータとビジネスロジックが一体となったものがワークロードである。そして、その時にデータセンターネットワークや仮想データセンターは、コントローラビリティもケアしなければいけない。物理レイヤとアプリケーションレイヤという2つの側面が重要だが、ワークロードは単体のバーチャルマシンではないことを強調したい。それらは同じところにあるべき」と述べた。
データセンター間をつなぐWANにおけるSDNの技術について、河合氏は「ロジカルにつなぐ仕組みはできているが、性能オリエンテッドにしていくことが課題」と述べた。またドミトリウ氏は、「WANでは、トラフィックエンジニアリング、特にQoSは重要になる。これまでは単一のバックボーンだったが、LTEなどいろいろなサービスを提供し、それを管理できるプログラマブル性が求められている」と述べた。
OpenFlow、そしてソフトウェアが貢献できる部分とは
昨今注目されているOpenFlowについては、石黒氏が「具体的なプロトコルだし、できることはスペックを見れば一目瞭然ではっきりしていい。ただ、SDN=OpenFlowではないということについて若干誤解があったようだ。OpenFlowの領域はSouthbound側で、Northbound側(上位レイヤ側)とは距離感がある。ただ、SDNを構成する非常に重要な要素の1つであり、“神に選ばれた”プロトコルとして、いいタイミングで出てきた」と述べた。
さらに「OpneFlowのいい点は、仕様が決まっているということだ。それが有用なものかかどうかとなると別の話で十分ではないが、今後要求に応じてさまざまな機能が実装されるだろう。ただし高度なインテリジェンスの実現はOpenFlow単体では無理」(ドミトリウ氏)という意見が出た。
現在議論の的の1つとなっているのがNorthbound APIだ。その標準化について、ユーザー側としては極力標準に沿って、迷わせないでくれと思うだろうが、ベンダにとってはそこが差別化ポイントとにもなる。
ソフトウェアネットワークコンポーネントが貢献できる部分とは何かに関連して、ブロケードがソフトウェアルータの「Vyatta」を買収した理由について聞かれた小宮氏は、「バーチャルデータセンターを作るため、WANも含めたソフトウェアドリブンなネットワークを作るためには、汎用プラットフォームで動く機能は魅力的だった」と答えた。ドミトリウ氏も、「クラウドというドメインにはVMがあって、いろんなサービスがある。既存のネットワークでやっていくのは難しい。エッジに機能を散らす、それを実現するにはソフトウェアでやるしかない」とした。
残念ながらパネリストの人数に対して時間が少なく、議論はやや尻切れトンボという感も否めなかった。だがそれだけSDNを巡る論点は多く、ポテンシャルも高いということ。会場の聴衆には参考になる点が多々あっただろう。
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