SaaS/クラウド環境移行時に運用者が考えておくべきこと:業務アプリ運用で泣かない(1)(2/2 ページ)
地獄プロジェクトを乗り越えて業務アプリを提供しても、部門のExcel職人は見向きもしてくれない? 彼らを取り込むために必要なのは場の提供だった
次の時代のエンドユーザーコンピューティング
エンドユーザー・コンピューティングとは、IT部門のシステム管理者だけでなく、業務部門のシステム利用者が、主体的にコンピュータを使い、システムの開発にかかわり、業務に役立てることであり、システムの仕様に関して、利用者側が強く関与することが前提となっている。
ITシステムを大胆に単純化すると、画面(input)、帳票(output)、バッチ処理(logic)という構造になる。特に業務担当者にとっては、画面、帳票の出来・不出来は、業務効率を大きく左右する。
では、その画面(帳票、バッチ処理など)をどのように開発してきたかといえば、業務部門が情報システム部門に依頼(丸投げ)して開発を進めてきたという歴史的経緯がある。ITシステムの開発は専門性が高いため、事業部門の担当者では不可能と思われており、その結果、自らが使う大事な道具(=システム)を、他者に作ってもらっているという状況になってしまっていた。
ただし、昨今のクラウドサービス(SaaS)には、多くの便利な機能が登場しているため、システムの構築というほど大掛かりな工数が掛からないものも多い。例えば、Googleドキュメントのスプレッドシートなどは、業務に必要なデータ集計などの処理を行うのに十分な機能を有している。
Salesforceなどは、CRM、SFAの統合クラウドソリューションと見られているが、各機能要素を分解してみれば、File Makerなどで処理している業務のほぼ全て実現できてしまう。
さらに、昨今のクラウドサービスは、開発支援機能が充実している。例えばSalesforceの開発支援機能などは、帳票作成、画面作成、バッチ処理作成に必要な開発支援機能自体が、クラウドで提供されている。加えて、いまの開発ツールは、単にプログラミングが、お絵かきのようにできますというだけでなく、テストプログラムの自動作成、本番環境へのプログラムの配置といった、IT専門性の高い作業までサポートしてくれる。
こうしたサービスの普及は、IT部門と他の業務部門との関係性を考える上で、非常に大きなインパクトを与えるものだということに、お気付きだろうか?
いままでは、簡易なデータ入力画面を作る程度の作業でも必ずIT部門が駆り出されていただろうが、そうした制約から解放されることになる。簡易な開発であれば、開発の権限を業務の現場に与えられるからだ*。
* ITガバナンスについては後述する。
実際の場面においては、クラウドサービスが提供する機能でも、利用する上で、少々複雑なものも存在する。また、クラウドサービスを導入したとしても、既存システムとの連携は必須なものであるにもかかわらず、その対応機能が不十分であったりするのも事実である。
しかし、各クラウドサービスベンダ以外からの支援機能も充実してきており、その支援機能もクラウド上で利用が可能という状況が、昨今登場しているため、十分に補完が可能であると考える。
業務アプリクラウド化と日々の業務の活性化 両輪運用が肝心
クラウドの導入、ツールの導入は、有用な手段ではあるが目的ではない。システムの導入が目的になったのでは、いままでの開発アウトソーシングを、単にクラウドに鞍替えしただけにほかならない。
ITシステム開発は、経営課題として軽視できない課題ではあるが、システムが稼働してからが、企業にとってのリアル・ステージであり、クラウド化は、単なるスタートラインでしかない。
その先にある課題解決、リソースの有効活用、安定した運用の継続が、企業の真の活動領域になる。だから、クラウド技術を有効に活用し、真の活動領域における「人々の活動改善」に注目した運用活動が重要になる。
ITシステム稼働後の運用、改善をどのように推進していくべきなのか? 必要な体制、会議の進め方、現場からの要望収集とそのフィードバック、ITシステムを改善するためのプロジェクト運営方法など、さまざまな活動が必要になってくる。
これは単なるITシステムうんぬんの話ではない。開発も大事であるが、運用にフォーカスし、いまの活動をさらに活性化させていくというアプローチが重要になる。
今回はクライアント/サーバシステムで運用していた業務アプリケーションをクラウド/SaaS環境に移植した場合の問題点を中心に紹介した。次回は、環境がクラウド/SaaS環境に変わったことで、どう次の手を打つことができるかを、組織面や役割分担のありかた、運用方法を中心に考えていきたい。
筆者紹介
田澤久(たざわ ひさし)
株式会社テラスカイ コンサルティング部 部長
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