写真は絆、そして思い出――震災で流された写真をクラウド・サーバを通じて修復:太田智美のビビビ「TEDTalks」ピックアップ!
「TEDTalks」の中から、編集部の太田が「ビビビ」と感じた動画をピックアップし、不定期に紹介する企画。今回取り上げる動画は、「(Re)touching lives through photos」だ。
本連載では、TED(「Technology Entertainment Design」の略)が主催するカンファレンスの講演動画「TEDTalks」の中から、編集部の太田が「ビビビ」と感じた動画をピックアップし、紹介していきます。
「(Re)touching lives through photos」
2011年3月11日、東日本大震災が起こった。あれから2年。今回は、ニューヨーク市で写真加工技師をしていたベッキー・マンソン(Becci Manson)氏らの活動を取り上げる。
ベッキー氏はボランティア団体「All Hands Volunteers」に参加し、5月13日大船渡に到着した。彼女たちは、がれき撤去や学校清掃、水産加工工場の悪臭漂う大量の腐った魚の死体の片付けなどを手伝っていた。その間、彼女や他のボランティア、地元の人らががれきの中から見つけたのが多数の写真やアルバム、カメラ、SDカードだった。それらを見つけた人は誰もが、町のあちこちに設けられた保管所に大切に持ち寄った。この光景を見て、彼女は気が付いた。写真を失うことが、被災者にとって大きな喪失感をもたらすことに。
写真加工技師のベッキー氏は、まず修復作業に加わってくれる仲間を募った。Facebookで仲間を募ると、前向きな返事が次々と届いた。時間が経つにつれて、さらに多くの写真が彼女の元にやってきた。ベッキー氏は当時のことを「多くの写真がくることは、私にとって幸いなことだった」と言う。より多くの加工技師に呼び掛けるため、彼女は再びFacebookとLinkedInで協力を募った。驚くべきことに、12カ国から80人ものボランティアが5日間で集まったという。さらに2週間後、150人が参加を表明した。
彼女は、仮設写真保管所にスキャナ装置を設置した。写真を探しに来た被災者が自分の写真を見つけると、その写真をベッキー氏らに手渡す。写真は10分もしないうちにスキャンされ、クラウド・サーバにアップロードされる。アップロードされた写真データは、地球の反対側のどこかにいる見知らぬ誰かがダウンロードして修復作業に取り掛かる。
写真の修復は、簡単にはいかない。1時間でできるものもあれば、何週間、何カ月もかかるものもあった。写真加工技師たちは、水に濡れなかった部分の色や細部の模様を利用し、元の写真を想像しながら色を塗ったり手で描き直したりした。写真の修復作業は入れ墨をするようなもので、失敗は許されないものだった。
ベッキー氏が日本に滞在した6カ月の間、約1100人のボランティアがAll Hands Volunteersに参加し、その大部分の人が13万5000枚を超える写真の復元に手を貸した。この活動期間中にかかった費用は、機械や材料費として1000ドル程度。しかし、「90を越える家族に、完全に修復した写真を返すことができた」と彼女はうれしそうに語る。
「私達は写真を撮ります。写真は、場所や人との絆、愛する人との思い出です。写真は、記憶を留めてくれる私たちの歴史です。最後に持ち出そうとするもの、そして戻ったとき、最初に探すのが写真です。それがこのプロジェクトのすべてです。人間性の1つ1つを回復させ、人のつながりを取り戻してくれるものです」(ベッキー氏)。
あれから2年、自分に今できることは何だろうか。筆者はまだ道を見つけられないまま、この記事を書いている。
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