Pivotalが目指す「企業が生き残るための新世代アプリプラットフォーム」って何?:ポール・マリッツ氏がEMC Worldで語ったこと
EMCとヴイエムウェアが4月に設立した、企業のための次世代アプリケーション開発環境を提供する企業、Pivotal。CEOに就任したポール・マリッツ氏が、5月7日にEMCのイベント「EMC World」で、この新会社について説明した。Pivotalはどういったアプリケーションを想定しているのか、具体的にはどのような製品を提供しようとしているのだろうか。
EMCとヴイエムウェアが4月に設立した、企業のための次世代アプリケーション開発環境を提供する企業、Pivotal。CEOに就任したポール・マリッツ(Paul Maritz)氏が、5月7日にEMCのイベント「EMC World」で、この新会社について説明した。本記事では、マリッツ氏の説明に基づき、Pivotalがどういったアプリケーションを想定しているのか、具体的にはどういったミドルウェアを提供しようとしているのかを探る。
どんなアプリケーションを想定しているのか
マリッツ氏は、さまざまな産業分野で、企業は生き残りのために、ITを活用して顧客に新たな体験を提供し、ビジネスモデルを変え、新たなビジネス価値を提供していかなければならない、そのためには、ビッグデータ、ファストデータ(高速に処理されるべきデータ)、新世代のアプリケーションを組み合わせた新しいタイプのプラットフォームが必要だと説明した。Pivotalが提供するのは、こうした次世代アプリケーションを開発し、運用するための、インフラから切り離された(PaaSレベルの)製品群なのだという。
では、より具体的にはどういうアプリケーションを想定しているのか。マリッツ氏によると、例えばPivotalに出資した米ゼネラル・エレクトリック(GE)は、航空機のエンジンを売るだけでなく、稼働時間を保証するような、新たなビジネスモデルを試そうとしているという。こうしたビジネスモデルでは保守作業の効率が収益性に直結する。そのため、テレメトリ(遠隔計測)を活用して、エンジンの状態を常に判断し、保守効率を高めようとしているのだという。GEは130年の歴史を持つ企業だが、「今後予想される産業の変化により、金属の塊を売るだけで、真の付加価値を提供できない企業に成り下がってしまうリスクを感じている」。そのためにPivotalへの出資を決めたのだとマリッツ氏は話した。
また、多くの携帯電話会社では、通信サービスと顧客管理の担当部門間の連携が不十分だとマリッツ氏は説明した。過去1時間に中断した通話の数は説明できるが、どの顧客の通話が中断したかを把握できていない。良いサービスを提供するには、顧客を理解する必要があると同氏は話す。また、例えばユーザーの料金グレードに応じて、つながりやすさを制御するなどができなければならないとする。
「スーパーマーケットでは、すべての買い物が終わったレジの段階でしか顧客に働きかけるチャンスがない」(マリッツ氏)。顧客が店舗に近づいた時点で(メールなどにより)働きかけるとか、買い物客が何かを探していることを検知して、何を探しているのかとテキストメッセージで聞けなければならない。
「データを理解するだけでは不十分だ。何かが起ころうとしているときにリアルタイムで理解して対応できなければならない。それが大きな変化だ」(マリッツ氏)。
既存製品を土台とし、統合プラットフォームをライセンス提供
Pivotalは前述のように4月に設立されたばかりだが、すでにEMCとヴイエムウェアから移管された多数のミドルウェアコンポーネント製品を提供している。これらは「クラウドファブリック」(Cloud Foundry)、「データファブリック」(GemFire、SQLFire、Greenplum、PivotalHD/Hadoop)、「アプリケーションファブリック」(Springフレームワーク、その他のvFabric製品群、CETAS)の3つに大別される。
既存コンポーネント製品群は今後も単体製品として提供していくが、Pivotalはこれらを機能強化し、統合した「Pivotal One」というプラットフォーム製品を今年後半に提供開始し、来年以降はこれを事業の柱としていく。筆者の質問に対し、マリッツ氏は、「今年見込んでいる最大3億ドルの売り上げのほとんどは、当然ながら既存の製品。だが、大きく成長するのは新たなプラットフォーム製品だ。5年後には10億ドルの売り上げも可能と考えている」と答えた。
自社の事業を変革しなければならないと考える大企業、そしてこうした企業にソリューションを提供したいクラウドサービス事業者やシステムインテグレータ、ソフトウェア開発ベンダに対し、ソフトウェアをライセンス提供するのがPivotalのビジネスモデルだ。
膨大なデータをリアルタイムで処理し、対応する基盤
マリッツ氏は、EMC Worldの基調講演で、一般企業が次のようなことを実現するためのツールを提供していくのが、Pivotalの目的だと話した。
- 膨大なデータを保存し、処理
- 迅速なアプリケーション開発
- 膨大なイベントのリアルタイムでの取り込みと処理
- 既存のアプリやデータインフラとの連携
- 任意のクラウドを選択して運用・スケールできること
マリッツ氏はPivotal Oneに組み込む機能の例として、「HAWQ」を説明した。これはHDFSをデータ基盤としたリアルタイムクエリエンジン。SQL、アナリティクスのインターフェイスを提供する。Hiveや「Cloudera Impara」と比較できる製品で、Hiveより数十倍高速といわれるImparaより、さらに数十倍高速だという。
また、Pivotal Oneは、基本的なアナリティクス機能を開発者が自らのアプリケーションに組み込めるように、買収により獲得したCETASを統合し、オプションとして提供するという。CETASは現時点でSQL、Key-Value、テキストとしてのデータの取り込みに対応している。
PaaS基盤ソフトウェアのCloud Foundryも、Pivotal Oneの重要な特徴となっている。「これはクラウドを抽象化する新たなOSといっていい」(マリッツ氏)。企業が求めているのは、特定のクラウドサービスにロックインされない、いつでも選択肢を維持できるオープンな開発・運用環境だという。このため、Cloud Foundryがオープンソースであることは、今後も不可欠だとする。Cloud Foundryは、今年中にAmazon Web Services、およびヴイエムウェアが5月21日に提供開始するIaaS、「VMware Hybrid Cloud Services」上で提供される。@ITの読者はご存じのように、NTTコミュニケーションズはすでにCloud FoundryによるPaaSを提供開始している。また、ユーザー自身がCloud Foundryを動かすことも、現時点で可能だ。
Javaと「30歳以下」の新世代プログラマのために
Pivotal Oneの(少なくとも当初の)利用者の中核を成すのは、Springフレームワークを使う、世界で約100万人のJavaプログラマだとマリッツ氏は話した。Pivotal OneはSpringフレームワークと統合されている。マリッツ氏はヴイエムウェアがSpringSourceを買収した時点ですでに、「Java開発者をクラウドの世界に連れていく」と説明していた。だが、「30歳以下はJavaを使わない」(マリッツ氏)。従って、これもSpringSource買収当時からマリッツ氏が言っていたように、Java開発者だけでなく、Rubyをはじめとする新たな開発フレームワークとの親和性を高め、新世代のプログラマもターゲットとしていくという。
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