「DB」「要件定義」が通じない? 顧客の知識レベルを探る:ITエンジニアの市場価値を高める「営業力」(8)(2/2 ページ)
エンジニアが市場価値を上げるには、営業力が必要だ。元SEで営業経験もある著者が、「エンジニアが身に付けておきたい営業力」を語る。
“専門用語”には、思っている以上に気を遣う必要がある
考えてみれば私も、新人研修でシステム開発の進め方という講義を受けたときに「要件」という言葉を初めて知ったのでした。それまでは、「ようけん」という音を聞けば、反射的に「用件」という漢字を当てはめていました。
ちなみにダメ出ししてくれた人は、私が「要件」は一般用語ではないかと反論したときに、「要件って、必要条件のことだよ」と教えてくれました。嘘だと思うなら辞書を引いてみろというので実際に引いたら、確かにそう書いてありました。実は、それさえ知らずに使い続けていたのでした。
要件定義をする際、「システムの必要条件を決めている」と思って仕事を進めているITエンジニアはどれぐらいいるでしょうか。多くの人が、「顧客の要望を聞いている」と思っているのではないでしょうか。「システムの必要条件を決めている」という意識で要件定義をすれば、防げたデスマーチもあったかもしれません。話が大きくそれてしまいましたが、面白いエピソードだと思ったので紹介しました。
話題を元に戻します。あなたが専門家であれば、もう自分が使っているほとんどの言葉は専門用語だと疑ってかかってもいいぐらいだということです。
思っている以上に気を遣って話をする必要があるのです。
相手の知識レベルを探るには?
では、気を遣った結果、まったく専門用語を使わずに話をすればいいのでしょうか?
そうではありません。一方では「素人相手だと思って、かんで含めるような説明をされるのが気に入らない」と思う人がいることも忘れてはいけません。
相手の知識レベルに合わせて話をすることが大事なのです。
そのためには質問しなければなりません。それが、三大質問方針の2番目である「相手の知識レベルはどのぐらいか?」ということです。では、どんな質問をしたらいいのでしょうか。
「すみません、ITについてどのぐらいご存じでしょうか」と聞いても、相手はどう答えていいか分かりません。中には、失礼な奴だと怒りだす人もいるかもしれません。意外と難しいことなのです。
私は、営業コンサルタントである友人の渡瀬謙氏に、どういう質問が有効かを教わりました。彼の著書『営業は口ベタ・あがり症だからうまくいく』(日本能率協会マネジメントセンター、2010年)を参考にしながら、答えをお伝えしましょう。
渡瀬氏は、「営業はいきなり商品説明をしてはいけない」と言います。これは、多くの営業コンサルタントの意見と同じです。ただ、営業コンサルタントの多くはその理由として、「相手と信頼関係ができていないうちに商品説明をしても効果がないから」ということを挙げます。渡瀬氏も同じように書いていますが、視点が少し違います。
「そもそも相手の知識レベルが分からずに商品説明などできないでしょう」と彼は言うのです。
言われてみればその通りです。商品に限らず、相手の知識レベルが分からずに説明をすると嫌がられるというのは、私も先ほどから長々と書いていることです。
では、どうすればいいのでしょうか? 渡瀬氏の答えは明快です。「過去のことを聞きましょう」、これです。
「この商品をご存じでしたか?」「このサービスを使ったことがありますか?」
こういう質問には答えやすいはずです。ここからつなげていけば、相手の知識レベルが徐々に分かってきます。
コミュニケーション上手なITエンジニアの質問例
ITに応用したらどうなるでしょうか。
例えば、あなたがネットワーク機器のエンジニアだとします。このたび、あなたの会社が新製品を発売しました。今まで取引のなかった会社が雑誌でそのことを知り、説明に来てほしいと電話してきました。
名刺交換をし、自己紹介を兼ねた雑談(雑談にもテクニックがありますが、また別の機会に)で場が温まり、いよいよ本題という局面になりました。
同行していた営業担当があなたに説明役を振ります。ここで、顧客に好かれない(つまり市場価値の低い)ITエンジニアは、いきなりそのネットワーク製品の特長を話し始めます。
相手は、「すまないが、あまり詳しくないんですよ」と言う。そこで、あらゆる専門用語に解説を加えながら説明しようとします。すると今度は「いや、さすがにTCP/IPは知っているよ」とムッとされる始末。
コミュニケーション上手なITエンジニアは違います。
最初に「以前どういう機器を導入されましたか?」というような質問から入ります。
「××ですよ」と相手。
「それは、自社で導入されたんですか?」
「いや、I社に導入してもらいました」
「I社への指示はどのようにされたんですか?」
「I社から設定シートをもらったので、それにこちらで記入してI社に返したら、後はやってくれたんです」
「そのシートは、○○さんが記入されたのですか? 見せていただいてもよろしいでしょうか?」
あくまでも一例ではありますが、このようなシートがあったとして、それを見せてもらえれば、この担当者の知識レベルはおおよそ分かるでしょう。
相手も忙しいのだから、単刀直入に用件を済ませるべきだという考えの人もいるかもしれません。中には、こんな質問は逆に相手をイライラさせるだけだと思う人もいるでしょう。
しかし、そんなことはないのです。自分が専門家だということを思い出してください。相手は、専門家のすることには一つ一つ意味があると思うものなのです。そして、実際にこの会話には、相手の知識レベルを探るという重要な意味があるのです。
三大質問方針の2番目「相手の知識レベルはどのぐらいか?」を知るためには、相手の過去について質問する(図2)。まずは、このことを覚えてください。後は現場での応用です。
次回は、三大質問方針の最後、「相手の興味・関心はどこにあるのか?」を探る質問についてお話しします。
筆者紹介
ITブレークスルー代表
森川滋之
1963年生まれ。1987年、東洋情報システム(現TIS)に入社。同社に17年半勤務した後、システム営業を経験。2005年独立し、ユーザー企業側のITコンサルタントを歴任。現在はIT企業を中心にプロモーションのための文章を執筆するかたわら、自分の価値を高める「自分軸」の発見支援にも従事している。
著書は『SEのための価値ある「仕事の設計」学』、『奇跡の営業所』など。日経SYSTEMSなどIT系雑誌への寄稿多数。
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