「Makeすることで世界は変わる」〜「Make」編集長が語るMakerムーブメント:D89クリップ(63)(2/2 ページ)
Makerムーブメントの旗振り役であるマーク・フラウエンフェルダー氏に、「Make誌が目指すもの」「Makerムーブメントが世の中に及ぼす影響」について聞いた。果たして、Makerムーブメントは世界をどのように変えていくのだろうか。
――まるで、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックが初期のパーソナルコンピュータを作っていた、Homebrew Computer Clubのようですね。
そう。Homebrew Computer ClubとMakerムーブメントはすごく共通点が多い。パワフルなテクノロジを目にした際、多くの人たちは「どこで売ってるんだ?」と思ってしまう。そして、ニーズのある場合や問題に直面した場合には、自分とは“遠い所”から買い付けるなど、お金で解決しようとする。だが、そうではない人たちもいる。同じような状況でも、「こういうものが世の中にあるのならば、自分たちでもできるのではないか?」と考えるのだ。
従来、米国にはそういうマインドが根付いていた。米国では1970年ぐらいまでは農業従事者が多く、農業機械の自作や修理は当り前だった。それが2012年になると農業従事者は激減し、既製品を購入して壊れたら修理せずに買い替えるようになった。この30〜40年間で大きく流れが変わってしまったのだ。技術系雑誌『Popular Mechanics』でも、1970年代までは「別荘を作る」「車を作る」などDIY関連の記事が中心だったが、2000年以降の記事では「世界で最も高いビル」「脳移植」など“他人”のテクノロジばかりで、自分の手を動かすものはなくなってしまった。
「眼前の問題を自らの力で解決したり、やりたいことにチャレンジしたりする」。こういった考え方は、Homebrew Computer ClubとMakerムーブメントの大きな共通点だと考えている。「自分自身の答え」をより大切にする考え方だ。もちろん、Makerムーブメントは単なる懐古主義ではなく、「自分たちで答えを導き出す」ための力がいまはインターネットのおかげでますます強くなっている。
従来のもの作りには大きな組織が必要だった。良いアイデアがあっても、研究開発部門、資金調達、デザイン、製造ライン、マーケティング部門など、さまざまなチームと多くの専門家がいないと製品は作れなかった。
いまでは、個人や小規模グループでもできることが増えてきた。DIYの領域では、各プロセスをより小さく効率的に回せるようになってきている。調べ物ならGoogleで検索し、Facebookでさまざまな専門家と直接交流できる。プロトタイプの開発では、DIYコミュニティサイト「Instructables」のサンプルが参考になるだろう。市場調査と資金調達は、クラウドファンディング「Kickstarter」で一気に行える。個人や小さな組織でのもの作りを支援するツールが、Makerムーブメントからどんどん生まれている。
新しい作品にわくわくする
――素晴らしいですね! フラウエンフェルダー氏自身が、いま最もやりがいを感じていることは何ですか?
新たなMakeの作品やDIYプロジェクトを発見し、世間に広めることだ。これはコミュニティを盛り上げるための大きな力になる。
Makerたちは、プロジェクトが完成すると成果を公表しようとする。多くの人は、自分たちのWebサイトに掲載するのだが、多くの場合で写真が不鮮明だったり、説明が不明瞭だったりする。これでは、せっかくプロジェクトに興味を持った人が「自分も作ってみよう!」と思っても、内容が伝わりづらくうまくいかない。そもそも、作品の素晴らしさを的確に表現できておらず、興味を持ってもらえない場合さえある。
Make誌にプロジェクトを掲載する際には、きちんと取材し、作品の魅力が伝わる写真を撮影する。説明文は誰が読んでも理解できる書き方にする。部品リストも整備し、場合によっては、より一般的な部品類に置き換える。作品を世間に広めることで、Makerの皆さんも喜んでくれるし、読者も「新しいものを作れる」「作れるものが増える」と喜んでくれる。これはとてもやりがいのあることだ。
――どのようにMake誌に掲載するプロジェクトを選んでいますか?
基準の1つは、もちろんプロジェクトそのものがイケてる、クールなこと。何かの問題を解決しているとか、ものすごく笑えるとか……。ただ、「何がイケてるか、クールか」には正解がない。なぜグッときたのかを無理してつかもうとすると本質は逃げてしまう。「どういうプロジェクトがイケてるか」という理由ばかりを考えるのではなく、そのまま受け止める方が良い。禅問答のようなものかもしれない(笑)。
加えて、作品制作を通じて読者に新たなスキルが身に付いたり、完成した作品がその後も使えたり、いろんな人に見せられることも大事だ。つまり、作っているプロセスが楽しいことに加えて、その後に手元に何か残っているとよりうれしさが増すだろう。
もう1つは、誰にでも作品を再現できることだ。Make誌に掲載されるプロジェクトは、なるべく容易に入手可能な部品を使っていてほしい。例えば、自分の祖父がハンドメイドで作った部品を使い、それがないと動かないという作品では難しい。こういった基準が満たされるようなプロジェクトなら、Make誌にぜひ掲載したい。
どんな人がやるかで、できるものが違う
――同じテクノロジを使いながら、Makeは世界各国で雰囲気が違うように感じます。そのような違いはどこから来るのでしょうか?
DIYプロジェクトは、その国々のニーズや美的感覚によって、成果物も異なる。例えば、アフリカで開催されたMaker Faireでは、「電気を作る」「飲み水を作る」など、いかにもアフリカで必要とされるものが多い。
アフリカは極端な例かもしれないが、米国の西海岸と東海岸でも、Maker Faireは雰囲気が違う。カリフォルニアで開催すると陽気であり、かつワイルドでユルい感じになる。その一方で、ニューヨークで開催すると、もっとタイトでデザインや美的センスに敏感な印象を受ける。これはとても良いことで、国内でさえそういった違いがあることを互いに学ぶことができる。国が違えばもっと多くのことを学べるだろう。
私は日本文化が好きだ。特に素材の使い方や、機能、デザインに対する感性に面白みを感じている。例えば、茶道の道具を作る際、木材の曲がり具合など、素材をそのまま生かしている。無理な力を加えるのではなく、あるがままで自然に逆らっていない。それが日本人のいう「和」なのではないかと考えている。日本の文化が世界にもっと伝われば良いと思う。
楽しめれば、うまくいく!
――日本でもMakeやMakerムーブメントが注目を集めつつあります。Maker自身やMakeを盛り上げようとしている人たちにメッセージをお願いします。
Makerたちにも、メディアやコミュニティを立ち上げてMakeを盛り上げようとしている人たちにも、同じメッセージを贈ろう。
最初から大きな成果、勝利を期待して始めようとするのではなく、何より「スモールスタート」すること、「やってみる」ことだ。
Makerだったら、試行錯誤を繰り返し、自分がクールで楽しいと思える作品を身の周りの人に披露しよう。ArduinoやRaspberry Pi、3Dプリンタ、レーザーカッタ、CNCなど、あらゆるテクノロジに手を付けようとしたら、いつまでも第一歩を踏み出せないだろう。
とにかく小さく、スモールスタートで始めて、他の人にもサンプル的に配ったりしてみるのが良いのではないだろうか。何かの「ために」やるのではなく、やっていること「そのもの」が面白く、またそれが他人から見ても面白いものであれば、一緒にやりたがる人、乗ってくる人が集まるはずだ。
著者プロフィール
高須 正和 @tks
趣味ものづくりサークル「チームラボMAKE部」の発起人。未来を感じるものが好きで、さまざまなテクノロジ/サイエンス系イベントに出没。無駄に元気です。
ニコニコ学会βにて、Makeのようなイベント「夏の自由研究」の出展を募集しています。ぜひ会場でお会いしましょう!
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