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第161回 Intel様、Quarkが組み込み世界を席巻する方法教えます頭脳放談

Intelから新しいプロセッサ「Quark SoC」が発表された。ARM対抗ともいえるこのプロセッサ。でも、組み込み世界を席巻するには、何かが足りない。組み込み市場でARMに勝つ方法は……。

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連載目次

 気を揉んでいるといったら変だが、かねがね「どういう方向に引っ張っていくつもりなのだろうか?」と疑問に思っていたことがある。IntelのAtomプロセッサのことだ。もともと「軽くて電気を食わない(消費電力が小さい)」Atomを従来のパソコン向けプロセッサ・ラインとは一線を画する応用分野に持っていくつもりではないかと期待(?)していた。だが、スマホやタブレットの市場で、ARMのCortex-Aシリーズの進展が著しくなるにつれて、それへの対抗のためか、上位のプロセッサ・ラインであるCoreシリーズの後を追うように、コアの数は増えて、そして複雑になり、つまりは重くなってきている(消費電力が増えてきている)。性能向上のためには致しかたないのであるが、消費電力がCoreシリーズよりも一回り(1けた)小さいだけの低価格な第2ライン、というような性格になってきているようだ。それって本当に狙っていた方向への進化(?)という疑問だ。

 それに対する回答があったようだ(別に質問状を送って回答を待っていたわけじゃないが)。新たに登場したQuarkプロセッサ搭載のSoC「Quark SoC X1000」である(インテルのニュースリリース「インテル コーポレーション、インターネットに接続された機器(Internet of Things:IoT)の推進に向けて端末からクラウドまでのインテリジェンスを実現」)。Atomの下がQuarkというのは、少々途中を飛ばし過ぎじゃないだろうか? 「原子の中には原子核とか、陽子とか中性子とか、まだまだ『階層』がある。Quarkはその次だろう〜」という気もする。さらに製品名に「SoC」というタブーな言葉(たぶん、日本の半導体業界はこれで痛い目に遭いすぎているので、日本の業界では局所的にいってはいけない言葉かもしれない)を付けて登場したわけである。

 でもIntelは、Atomが上へ上へと昇っていってしまうと、「背中を取られる」危機感を持っていたことは、これで明らかになった。Intelは別なカッコいい「Internet of Things:IoT」というキャッチコピー(英語なので英語力に欠ける日本人にはニュアンスがいまいち心に響かないのがいつものことである。やさしい単語を並べても気持ちが伝わらないことはあるのだ)を叫んでいるが、要はネコも杓子もネットにつながる世の中になれば、スマホだけじゃない、何でもかんでもネットにつないでスマートにする。そこで登場するデバイスはというと、いまやARMの一人勝ち……、ではいけないとやっと気付いて、そこに当てるべく、「より小さい」ところに新製品を出してきたわけだ。そんでもって「Quark」であると。

 現時点ではデータシートでもマニュアルでもダウンロード可能だから、もう議論の余地はないのだが、はっきりする前は、コアはi386ベースだ、いやPentiumベースだなどという憶測があったらしい。しかし、そんなはずがあるわけないのは、ちょっとプロセッサ設計をやった経験があれば分かる。i386の設計自体は、とても昔の作り方だったうえ、製造プロセス依存だ。とてもじゃないけれども最近の設計環境に載せること自体に無理がある。初代のPentiumはまだしもだが、現代の環境との差と考えると五十歩百歩だろう。いまの設計環境を考えたら、新たに設計した方が簡単だし、後々の応用が利く。そのうえ狙っているところが小さくて軽いところである。シングル・コアで、スカラーというのが、一番電力効率、コスト効率が高い。そういうプロセッサの設計なら、いまや気の利いた大学生ならできそうな世の中になってしまっているのだ。まぁ、いろいろなIP(プロセッサなどを構成するための部分的な回路情報)や、過去の設計資産やらツールやらが揃っていての話だけれども、君にもできるといっておこう。

 そういうわけで、ようやく素直な作りのx86が登場したことになる。こういうものがもっと前からあるとARMなどに跳梁跋扈(ちょうりょうばっこ)を許すことはなかったであろうに。ただし、SoCとしての性格を見ていくと、Intelの標語どおりにインターネット接続偏重、そこを実現するためにソフトウェア環境ではWind RiverとMcAfeeを取り込んでいるようだ。RTOS(リアルタイムOS)として、Wind RiverのVxWorksは定評があるし、採用している組み込み機器メーカーも多いはず。また、最近は「トイレをハッキングした」などという例がニュースになっているとおりで、組み込み機器といえどもネットにつながるものは油断ができない。まぁ、分かりやすい取り組みである。周波数も400M〜600MHzくらいで、組み込みの範疇か。

 対抗するARMと比べてみると、Cortex-Rシリーズ相当くらいの狙いか。当方の手前勝手な感覚だと、まだ少々高めだ。やはりIntelは、このところプロセッサの上位の方面ばかりでやってきて、マイクロコントローラのようなところはダメだったから、まだまだ感覚がズレている感じがする。勝手な意見では、ARMのCortex-Mシリーズの下位機種くらいまで対抗できる、相当な下目まで狙える可能性があると面白いと思うのだが、さすがにそこまでは狙えていない感じの味付けである。

 結局、ARMとは全分野に渡って拮抗しないと主導権を取り戻せない、ということに気付くのならば、もうひとつ下までほしい。ARMはここが盤石なので、上へ上へと昇っていっても背中を取られる心配がないのだ。Intelは、そのあたりがないので、上へ上へと「追い上げられて」しまっている感じになるのだ。

 ううむ、ここでQuarkなどと、それ以上分割できない名前を使ってしまったのは早まった感じか?(まあ、Quarkにも第1世代とか、第2世代とかあるし、アップ、ダウンの次はチャームとかストレンジとか名前を変えていくという手もあるが)。

 それより何より、SoCなどといってIntelが自分で出しているだけじゃ、なかなか組み込み市場は席巻できない気がする。何せ、組み込み世界は千差万別、いろいろあるものだ。そうだ、この際思い切って、Quarkは安価にライセンスを提供する(Cortex-Mシリーズよりもずっとだ。究極のオープン化、フリーという手もある!)とかすると面白いのではないか。そうすると現代的かつ標準的な設計環境(みんなが使える)に載っていることが必須となる。設計ハウスがこぞってx86で設計するようになったら、だいぶ市場は変わるだろう。さらにいったら、最近、Intelも大っぴらに始めたファウンダリ商売で、QuarkベースのSoCのカスタム設計を最新鋭のプロセスで受けてくれるともっといいなぁ(ファウンダリで製造を請け負うのなら、そこでお金を取ればよいわけで、ライセンスはフリーでよかろう。どうせサポートはサードベンダが手を上げるだろうし)。そこまで行けば、Intelが、いまARMとTSMCが果たしている役割を担えるわけで、業界の主導権を完全奪回できるかもしれない。そしたらアタシも久しぶりにx86製品の設計などしてみますかいな……。年寄りの冷や水だって!?

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス・マルチコア・プロセッサを中心とした開発を行っている。


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