一般企業だってイノベーションを起こしたい、AWS総責任者のジャシー氏:AWS re:Invent 2013
AWS総責任者のアンディ・ジャシー氏は11月13日(米国時間)、re:Invent 2013の基調講演で、「一般企業は、スタートアップ企業と同じようにイノベーションを起こしたいと考えている、しかしインフラがその邪魔をしている」、AWSを使えば制約を考えずに、事業アイデアを即座に形にすることができる、と語った。
「世界は(以前とは)違う場所になっている」。米アマゾンの上席副社長でAmazon Web Services(AWS)の総責任者であるアンディ・ジャシー(Andy Jassy)氏は11月13日(米国時間)、AWSがラスベガスで開催したイベント「re:Invent 2013」の基調講演で、APIコールログ、デスクトップ仮想化、アプリケーションストリーミングといった新サービスの発表を交えながら、AWSがネットサービス事業者だけでなく一般企業、公的機関など、あらゆる組織においてイノベーションを実現するために不可欠なプラットフォームになってきていると話した。
「世界は(以前とは)違う場所になっている。いままでこれほど安価で速く構築でき、新しいものを生み出すのが容易になったことはない。顧客のために新しいものを生み出すことが必須になっているというだけではない。顧客の体験を変えることができると分かっていれば、働くことが楽しくなる。否定されることに甘んじないでほしい。行動して何かを起こしてほしい。われわれがそのあらゆる過程で、できる限り支援させていただく」(ジャシー氏)。
ネットサービス企業やメディア関連企業では、こうしたAWSの考えが体現されたサービスに共感し、利用しているところが多い。今回の基調講演では、銀行や保険会社などを経営するSuncorpグループのためにITをはじめとした共通サービスを提供するSuncorp Business ServicesのCEO、ジェフ・スミス(Jeff Smith)氏は、わずか3カ月で、利益を生み出すオンラインアプリケーションやBIアプリケーションを自社データセンターからAWSに移行した経験について話した。
「車のフロントガラスはバックミラーよりはるかに大きい。なぜ未来に関する判断を過去の経験に基づいてやらなければならないのか」。この教訓をIT環境の再創造に適用するため、自社ITのAWSへの移行を決めたのだという。「やるということが決まっているなら、クラウドにできないことを探すのは時間の無駄だ」。同社はすべてのアプリケーションをAWSに移行すると決め、そこからすべてが始まった。
「制約は通常、時間や金にあるのではない。発想にある。完璧を目指すのではなく、成功を目指せ。そうしないと、人生で重要な新しいことを学ぶチャンスを逃してしまう」(スミス氏)。
「企業にのろのろしている余裕はない」
ジャシー氏は企業におけるAWS利用について時間を掛けて説明。AWSを採用することで、迅速な事業展開が可能になると訴えた。「一般企業は、スタートアップ企業と同じようにイノベーションを起こしたいと考えている、しかしインフラがその邪魔をしている」。AWSを使えば物理リソースの準備のための時間やコストが掛からず、何千もの仮想サーバを数十分で立ち上げられ、制約を考えずに、事業アイデアを即座に形にすることができる。「一般企業にのろのろしている余裕はない」(ジャシー氏)。
アイデアをすぐ形にできるのはいいが、当然ながらアイデアを形にするアプリケーションを構築する必要がある。AWSについて誤解されやすいのは、この部分だとジャシー氏は話した。
多くの企業担当者は、AWSを「単なるデータセンターではないか」という。しかしAWSでは、「アイデアから迅速なデプロイメントまでの過程で、あなたたちがインフラ・ソフトウェアを書いたりインストールしたりし、ハードウェアの値段を交渉したり、買い過ぎを心配したり、電源やネットワーク帯域のことを考えたりする必要はない」。
ジャシー氏はさらに、完全なクラウドとは、演算能力やオブジェクトストレージを提供するだけのものでない、と強調した。AWSがストレージやデータベースでは複数の実装形態を提供し、バックアップ/リカバリ、ビッグデータ分析サービスやデータウェアハウスサービスを提供し、キューイングや電子メール、ワークフロー、監視など、多数のサービスを提供してきた。さらに個々のサービスでは、Redshiftに見られるように、顧客の求めるかゆいところに手が届くような機能を追加してきているとジャシー氏は訴えた。
ユーザー企業はAWSを使うからといって、すべてのアプリケーションやデータをクラウドに移行する必要はない。ジャシー氏はAmazon VPCによって企業社内とAWSを安全な接続で結び、AWSを実質的に企業データセンターの延長として使えることを強調した。既存のITベンダも、こぞって「ハイブリッドクラウド」を語り始めている。しかしこうしたベンダは将来も、大部分のIT機能が社内に残ると考えている。AWSの考えは完全に逆で、大部分をクラウドに移行することでメリットが得られるとする。
一般企業のAWS利用方法を、ジャシー氏は6つに分けて説明した。
- 開発・テスト環境
- クラウド用に新たなアプリケーションを開発
- 既存の社内アプリケーションの動作を改善するため、クラウドに移行
- 社内システムと統合されたアプリケーションをクラウド上で動作
- 既存アプリケーションをクラウドに移行
- すべてをクラウドで行う
ダウ・ジョーンズのグローバルCTOであるスティーブ・オーバン(Stephen Orban)氏は、ダウ・ジョーンズ情報サービス、ニューヨーク・タイムズ、News UKなど世界中の同社事業部門全般にわたり、自社データセンターからAWSへの移行を進めていると話した。
同社は今後3年以内にITリソースの75%をAWSに移行、これにより世界中で40のデータセンターを6に減らす計画。現在すでに1000仮想インスタンスをAWSで稼働しているという。
オーバン氏は、AWSのコストメリットに加え、グローバルに均質なインフラが使えることを評価する。特に便利なのはAWSが豊富にAPIを提供していることだという。ダウ・ジョーンズはAPIを活用してクラウド利用のガバナンスツールを作成。利用料やセキュリティの監視、パフォーマンス最適化を行っている。
2015年1月までに3000のアプリケーションを移行する計画。ダウ・ジョーンズが目標としているインフラコスト1億ドル削減に、AWSへの移行は大きく貢献するという。
デスクトップ仮想化はもう1つの企業向けキラーアプリケーション
AWSが昨年のre:Inventで発表したデータウェアハウスサービス「Amazon Redshift」は、AWSのサービスで最も急速に採用が進んでいるアプリケーション。一般企業に向けたキラーアプリケーションの1つになっている。ジャシー氏は一般企業に向けた新たなキラーアプリケーションとしてデスクトップ仮想化の「Amazon WorkSpaces」を発表。PCoIPを使う同サービスは、一般的なDaaS(Desktop as a Service)と基本的には同じ。だが、月額料金制で、1仮想CPU、メモリ3.75GB、ディスク50GBの構成の場合、Windows 7 OSライセンス込みで35ドルと安価で、初期費用は不要。クライアントソフトウェアはPC、Mac、iPad、Kindle、Androidタブレット用がある。テンプレートに個人プロファイルを適用する使い方も可能だという。Amazon VPCを活用して、安全な接続ができる点も特徴の1つ。
仮想デスクトップをAWS上で動かせば、データやアプリケーションもAWSに移行したほうが快適なはず、とだれもが考える。AWSは新サービスに、こうした形で一般企業におけるAWSの利用全般を促進する効果も期待しているようだ。
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