リーダーの仕事って何だろう?:あるエンジニア、かく語りき(2)(2/3 ページ)
一介のエンジニアが人生の節目節目で考えたこと、今回は初めてリーダーを務め、失敗した話です。
研修の内容は「セルフマネジメント」「リーダーシップ」「論理的なコミュニケーション」といった、いわゆる若手ビジネスパーソン向けのビジネススキル入門みたいなありきたりのものでした。しかしこれが、私の根本的な勘違いをぶっ壊してくれたのです。
その勘違いとは、「自分は内気で口ベタで空気が読めない。だから、リーダーやマネジメントなんて向かない。まず無理だ」というものです。スタート地点で思考停止していた状態から、少なくとも前進できました。
性格的に強いアドバンテージを持っている人もいますし、実際そういう力を持って自然とリーダーを務めるケースも多いと思います。けれども、それらは資質であって職務ではない。人に好かれることも、空気を読むことも、雄弁に説明をすることも、別に目的ではないのです。
結局のところ、目的を達成するための手段が講じられるなら何でもよいわけです。そう考えると、ものごとがシンプルになりました。
特に印象深かったのはセルフマネジメントという言葉です。セルフコントロールとは異なる「自分の目的を達成するために、まず自分という自由になるリソースを活用する」というもの。時間管理や体調管理、モチベーション管理や自己強化が要素としてあるのですが、この考え方を「自分」から「チーム」や「組織」に広げていくと、あら不思議、それはチームマネジメントそのものなんじゃないか? と。
なんかかみ合った。分かった気がする!
ちょうどこのころ自社に呼び戻され、自社開発プロジェクトのアーキテクトチームリーダーを担うことになりました。会社としても世の中としても新しい技術を導入するということで、アーキテクトチームを事前検証のために構築し、先行開発に携わらせるという立て付けでした。私にとって、アーキテクトとしての初仕事でもありました。
「よし、やるぞ」と私は思いました。そして、失敗しました。
「あなたはリーダーの仕事を放棄している」
このエピソードは簡単にまとめられます。
座学中心で現場をあまり知らない若手エンジニアがリーダーに抜てきされるが、「決めた通りに人は動く」「人は自己申告通りの働きをしている」と思い込み、現場での影響力を失ってしまう。外にある政治的な動きに気が付かず、派閥ができ、プロジェクトチームは弱体化し、重要な意思決定やリスクコントロールに十分な機能を発揮できず、動きは後手後手に回り、プロジェクトは失敗してしまいましたとさ。めでたくなし、めでたくなし、という話です。
残念なことです。いや、自分の力不足を残念なことの一言で済ませてはいけませんし、関わった人へ迷惑を掛けたことは、本当にいくら謝ってもきりがないのですが、エピソードの全体像に面白みはありません。
ただ、私はこの失敗の過程で得難い経験をしました。それは、真正面から自分の抱えている問題を指摘され、改善を求められた、ということです。
プロジェクトが本格的に動き始めたころの話です。私はプロダクトオーナー(プロマネ兼部門長)の依頼仕事を日々こなしていました。自分が他のチームとうまくかみ合っていないことは何となく感じてはいました。
プロダクトオーナーは、最初から仕事の進め方や落としどころ、チームの役割について決めているように見えました。幾つかの重要な意思決定は見えないところで行われ、チーム内の意思決定には声の大きな人が不自然に関わっていました。チームは私よりもずっと長くこのプロダクトに関わっており、暗黙の了解が山ほどありました。私は私で、自分はあくまでも「アーキテクトチーム」のコントロールを求められているだけだと思っていましたので、チーム外で起こっていることに、徐々に無関心になっていました。
そうしてある日、チームにいたM君にタバコ部屋(兼会議室)へと呼び出されたのです。
「あなたは影響力を全く失っていて、ただの技術オタクだと思われている。それはあなたがきちんとした活動のスケジュールを示さないからだし、やっていることの必要性も証明していないからだ。今のあなたは最低のリーダーだ。リーダーの仕事を完全に放棄している」
ぼろぼろです。彼はよほど見かねていたのでしょう。
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