運用自動化ツールは経営の武器へ:運用自動化ツールまとめ(外資ベンダー編)(3/3 ページ)
運用自動化というと「コスト削減」「効率化」といったイメージが強いが、攻めの経営を支える武器となるものでもある。後編では外資ベンダー3社の運用自動化ツールを紹介する。
ITを「サービス」として提供する基盤を整備――日本IBM「IBM SmarterCloud Foundation」/「IBM SmarterCloud Orchestrator」
日本IBMは運用自動化製品群「IBM SmarterCloud Foundation」を2012年3月から提供している。既存の統合運用管理製品群「IBM Tivoli」のラインアップから、プライベートクラウド環境の構築・運用に適した機能をピックアップ。機能強化を施した上で製品ポートフォリオを整理した新しいブランドの製品群となる。
ここでは物理/仮想環境の運用自動化を行う上で核となる3製品――仮想サーバーのプロビジョニングを自動化する「IBM SmarterCloud Provisioning」、仮想化、クラウド環境の稼働状況監視やキャパシティー管理を行う「IBM SmarterCloud Monitoring」、サービスポータル画面を通じてエンドユーザーのリクエストを受け付け、自動的なリソース提供を可能にする機能などを持つ「IBM SmarterCloud Control Desk」、また2013年5月に発表したプライベートクラウド環境管理にフォーカスした「IBM SmarterCloud Orchestrator」を紹介したい。
まず、IBM SmarterCloud Provisioningは仮想サーバーのプロビジョニングとイメージ管理が行える製品。仮想サーバーのプロビジョニング作業には、インスタンス作成からアドレス/管理情報の追加、マスター保管、削除といった一連の手順があるが、本製品はこの作業手順をコマンドインターフェースを使って効率的に定義できる。これにより、ユーザー側が必要なスペックを指定するだけで、定型的な仮想サーバーが自動的にプロビジョニングされる環境が整う。これを利用することで、例えば「一時的に大規模なテスト環境を立ち上げ、テストが済み次第、仮想サーバーを全てシャットダウンするとともに自動的に削除する」といった運用も行える。
特徴は管理対象をCPUとストレージに分け、コンピュートノードとストレージノードの2つでシステムを構成する仕組みとしていること。これにより、仮想サーバーに割り当てるCPUやストレージリソースを独立してスケールアウト/スケールアップできるため、業務の状況に応じた柔軟な運用が行えるという。
IBM SmarterCloud Monitoringは仮想環境を監視する製品。物理/仮想サーバー、ストレージ、ネットワークリソースの関連性を可視化するトポロジーマップを作成し、今のシステム構成を正確に把握できる。リソース使用状況を監視し、あらかじめ設定したしきい値に応じて、障害やその予兆のアラートを自動的に発信することも可能だ。
なお、IBM SmarterCloud Monitoringは、仮想環境の運用管理に課題を抱えている企業が多いことに応え、さまざまな運用管理支援機能を実装している。例えば、問題原因の識別に役立つ性能履歴データ収集機能、適切なしきい値設定のベストプラクティス、各種障害への対応アドバイス機能、パフォーマンスの問題原因を効率的に特定できるワークフロー機能、システムに最適なリソース容量を割り出すキャパシティープランニング機能、仮想マシン配置を最適化するためのアドバイス機能などだ。一方で、ビジネスの安定的な遂行も監視できるよう、エンドユーザー視点でシステムパフォーマンスを監視する「IBM SmarterCloud Application Performance Management」を用意している点も特徴だ。
「ITをサービスとして提供する」仕組みを実現
一方、IBM SmarterCloud Control Deskは、サービスポータル機能をはじめ、インシデント管理、リリース管理、構成/変更管理、資産管理、リポート/分析機能などを統合した製品。サービスポータル画面を通じて、業務部門のエンドユーザーからのリクエストを受け付け、ITサービスを迅速に提供するとともに、IT基盤の運用管理を確実に行うための「統合サービスマネジメントソリューション」となっている。
図8 IBM SmarterCloud Control Deskでは、インシデントの一覧やステータスなどを一覧可能。構成/変更管理、資産管理、リポート/分析など、ITILに準拠した一連の作業を統合管理できる(資料は2012年12月の取材時のもの)
ポイントは、ワークフロー機能によって、あらかじめ定義した運用手順に沿って、IBM SmarterCloud Foundationはもちろん、IBM Tivoliも含めた各種運用管理製品を制御できること。専用のGUIツール「ワークフロー・デザイナー」を使って、「リソース容量の確認」など、あらかじめ用意された各種運用作業部品を選択。ドラッグ&ドロップ操作で画面上に配置し、線でつないでいくだけで「複数のツールを使った、複数のステップを踏む作業」を自動化できる(部品数は非公表)。
例えばIBM SmarterCloud ProvisioningやIBM SmarterCloud Monitoringと連携させれば、サービスポータルで受け付けたリクエストに応じて、仮想サーバーのプロビジョニング作業や、その後の障害対応作業なども自動化できる。サービス提供の自動化だけではなく、状況に応じて変化する物理/仮想環境の構成、変更管理、資産管理なども一括して行えるという。
ITサービスマネジメントの各作業プロセスをあらかじめ定義したワークフローのひな型、「ITUP(IBM Tivoli Unified Process)」を用意している点もポイントだ。「ユーザー企業の要望に応じて定義済みのプロセスを修正、最適化することで、運用作業の標準化やプロセス策定を支援する。IBMのパートナーであるSIer各社が、それぞれの知見を定義済みプロセスに反映することで、ユーザー企業の要望に沿ったプロセスを迅速・柔軟に提案できる点も強みの1つだという。
自動化は経営の武器へ
なお、同社は2013年5月、大規模なプライベートクラウドの展開・運用にフォーカスした「IBM SmarterCloud Orchestrator」を発表した。クラウドサービスのプロビジョニング、メータリング、モニタリング、キャパシティー管理機能などにより、異機種混合のハイブリッド環境を標準化して統合管理できるプラットフォーム製品だ。IaaSレイヤーの管理に「OpenStack」を採用し、PaaSレイヤーは標準規格「OASIS TOSCA」に準拠することで、複数のクラウド間の相互運用性を担保し、クラウド上で稼働するアプリケーションの可搬性を確保した点を特徴としている。
このIBM SmarterCloud Orchestratorも、クラウド環境の構築・運用を自動化するオーケストレーション機能を実装している。クラウド基盤の構築に必要なリソースやワークロードなどを、GUIを使って設定・自動化できるセルフサービスポータル機能を持ち、クラウド構成の作成、プロビジョニングなどの作業を効率的に設定、自動化できる。
クラウド基盤のリソース管理に必要な承認ワークフローも、ポータル画面からGUI操作のみで作成できる他、自動化の設定作業を効率化できるよう、あらかじめ必要なシステム構成や設定情報を組み込んだ「自動化パッケージ」も複数用意している。また、作成したクラウドの構成/設定情報を、セルフポータルサービス上で「仮想イメージ」(IaaS)/「仮想パターン」(PaaS)としてカタログ化して管理。これらを複数のクラウド間に展開可能とすることで、ハイブリッドクラウド環境の柔軟な運用を支援する点も特徴としている。
以上のように、運用自動化のテクノロジーは着実に進展している。特に注目すべきは、今回紹介した複数のベンダー製品も実装している「ユーザーのリクエストを受付→リソースを配備→課金→継続的にITサービスを管理」といった一連の自動化機能が、プライベートクラウドの重要な実現要件であり、もはや自動化は「効率化」「コスト削減」といった守りの側面だけではなく、経営を直接的に後押しする武器になっているということだろう。
無論、結論を急ぐ必要もないが、経営環境がシステム運用にスピードと柔軟性を求めているのは事実だ。特に「ITリソースをエンドユーザーにサービスとして届ける」という考え方は、昨今話題になっているDevOpsの文脈でも注目されている。それ以前に、今、多くの企業が悩んでいる仮想環境の運用管理を効率化するという観点で運用自動化ツールを眺めてみるのも意義があるはずだ。
自動化ツールの導入事例は着実に増えつつある。各ベンダーの製品機能を参考にしながら、「自社において効率化すべきプロセス」を洗い出してみると、自社のシステム、ビジネスを継続的に強化し続けていくための何らかのヒントが得られるのではないだろうか。
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