パッケージソフト導入の「お・と・し・あ・な」:美人弁護士 有栖川塔子のIT事件簿(5)(1/2 ページ)
パッケージソフトの導入には、ベンダーのスキル不足や業務との不適合といった危険が常につきまといます。そうした問題に直面したとき、ユーザーとベンダーはお互いの状況や立場を積極的に共有し、垣根を超えて話し合うことが重要です。
※この連載は「なぜ、システム開発は必ずモメるのか?」(細川義洋著)のCHAPTER1を、著者と出版社の許可の下、一部修正して転載するものです。
自称“元カレ”こと、大手スーパー「越後屋」の跡取り息子、越後章介と食事をすることになった弁護士の有栖川塔子。のんきな章介が心配な塔子は、とげとげしい態度とは裏腹に、パッケージソフト導入に当たっての注意点を話します。
…… ったく。まさか本当にシャトー・ペトリュスを置いている店に連れて来るなんて。アンタどんだけ金持ちなの。
気にしないでいいよ。塔子と食事をするって言ったら、「あの人は高いモノには目がないから、絶対にケチるなよ」って、パパに言われたんだ。
何か、とんでもない誤解をされてるような……。
ねえ、続きを教えてよ。パッケージソフトを使うときの注意。
ああ、そうだったわね。やっぱり要注意はベンダーのスキルかな。
スキル? 自分で勧めるソフトなんだから、スキルはあるでしょ?
そうでもないのよ。客先でシステムを作る技術者は、そのユーザーのいろいろなシステムに携わるから、1つの技術を深く知らないのが普通だし、ちゃんと知っている技術者がいても、そういう人はあちこちから呼ばれるから、1つのプロジェクトに張り付けず、掛け持ちになったりするのよ。
人気者はつらいね。僕みたいだな。
有スキル者のいないパッケージ導入は悲惨よ。ちょっとした質問をしても答えが1週間も返ってこないなんてザラだし、ソフトの動きをユーザーの業務に合わせて直すのに、追加の作り込みが良いのか設定変更する方が良いのかも判断できなかったり。せっかく修正可能なソフトでも、直し方を間違えてボロボロになる危険もあるしね。
じゃあ、みんなどうしてるの? うまくいった開発は?
理想は開発会社の技術者に、プロジェクトに参加してもらうことよね。ソフトのバグまで分かっているような人に最初から入ってもらえれば、失敗の確率は減るわ。
でも、なかなかそうもいかないんだろう?
ベンダーとユーザーだけでうまくいった例もあるわ。以前、サーバーの運用管理をするシステム※1を導入しようとした金融機関があってね。世界的に有名なソフトだったんだけれど、海外モノだからベンダーに有スキル者がいなかったの。
それじゃあ、入れられないじゃない。
週1くらいで支援してくれる技術者は見つけたんだけれど、それじゃあとても主担当にはできなくて。仕方なく、サーバーの運用業務を知っていて、サーバー機器の操作をある程度分かっているメンバーを充てたの。
そんなんじゃあ、お客さん納得しなかったんじゃない?
最初はね。でも、ベンダーはそのメンバーに必ずしも十分なスキルがないことを正直に話して、代わりにプロジェクトの進行に合わせてメンバーを教育するスキルアップ計画を立ててきたのよ。
スキルアップ計画?
まず、開発会社の実施する教育を受けさせるでしょ。それから週1の支援者にはOJTを実施してもらって、さらに開発会社には24時間対応可能なサポート窓口を作ってもらう。日程とスキルアップ目標を考慮してそんなことを計画して、説明したの。
それで?
ユーザーは、ベンダーの担当と支援者の人柄を見て、その上司やパッケージ開発会社にもよく話を聞いて、スキルアップが可能だと判断したの。
スゴいねぇ。
でも、それだけじゃなかった。
※1 組織内に導入したサーバー群の稼働状態や健全性を監視したり、電源投入やシャットダウン、さまざまなジョブの起動などを一括して行うシステム。
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