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プライベートクラウドの導入理由と、使って分かったIaaSのメリット、デメリット事例:博報堂アイ・スタジオの高付加価値クラウドへの挑戦(1)(2/3 ページ)

集中するリリースタイミング、高可用性、高トラフィックへの対応など、変化するビジネスに迅速・柔軟に応えなければならない広告業界。デジタルプロモーション分野のスペシャリスト集団、博報堂アイ・スタジオが、その厳しい業務要件に応えるために、プライベートクラウド導入に踏み切った経緯を語る。

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多種多様なクライアント企業の要請にどう応えるか?

 では広告系システム業務の特徴を紹介しましょう。広告業界というと、メーカー、金融、小売りといった一般的な業態に対して業務内容のイメージがだいぶ異なると思うのですが、実際、システム業務も他の業種に比べて幾つか異なる部分があります。

クライアント企業が多種多様

 広告はあらゆる商品・サービスに付きものなので、クライアント企業も多種多様です。しかもクライアント企業ごとに文化が違いますから、要求されることもまちまちです。できることとできないことを明確に線引きすることが難しいことも多々あり、広告を支えるシステムの構成には柔軟性が求められます。

 実際、大半のサーバーは、クライアント企業から制作を依頼されたデジタルプロモーション案件の配信用サーバーとして稼働していますが、そんな中でサーバー運用を行っていると、本当にさまざまなご意見やご要望を頂きます。クライアント企業が変われば企業文化やシステムに対する視点もまるで違うわけです。

 特に金融系のクライアント企業からはセキュリティ面のご意見を頂くことが多くあります。そのたびにプロジェクトチームで意見を出し合い、期待に応えるべく対応してきました。例えばファイアウォールのログ分析、オフィスから管理するための閉域網の整備、オペレーションルームの隔離、データセンターの監査対応、侵入検知器の設置、重要度に応じてセグメント分けされた各領域へのファイアウォールの設置、ハードディスクの物理破壊対応、データの破棄証明書の発行などなど。キャンペーンなどで個人情報を数多く扱う機会もあるため、運用面も含め、セキュリティはかなり整備してきたと思います。

媒体に広告出稿中の案件が多い

 Yahoo!トップページの右カラムに表示される広告枠「Yahoo! ブランドパネル」など、インターネット上の広告媒体に出稿中のWebサイト運用案件を請け負うことが多いため、広告からの誘導を受け止めるWebサイトのシステムはほとんどの場合、高負荷、高トラフィックの中での可用性が重視されます。クライアント企業にとっては、Webサイトの構築・運用コストに加え、媒体出稿費用が別途掛かっているわけですから、出稿中にWebサイトを閲覧・利用できなくなるなど、機会損失につながるような事態は、サイト構築・運用を担う弊社としては何としても避けなければなりません。

広告の出稿タイミングは重なる

 クリスマス、お正月、ゴールデンウィークなど、企業の広告出稿タイミングは重なることが多いため、システムも激しい繫閑の差に対応することが求められます。繁忙期はひたすらサーバーが必要になり、1カ月で何十台も構築する月もあれば、数台の月もあります。これを管理する上では運用管理部門の気力・体力の問題もありますが、それ以上に効率化が強く求められてきました。

急な依頼への対応

 以上の出稿タイミングの問題に加えて、急な依頼にどう対応するかという問題もあります。というのも、デザイナーやクリエイティブ系のディレクターから、Webサイト運営やデジタルプロモーション運用のためのシステム基盤整備を、直接依頼されるケースもよくあり、急な対応を求められることも少なくないためです。彼らとは専門領域が異なるため、やはり先回りしていろいろな事を考慮しサポートしていく必要があります。

パブリッククラウドの利用を検討した背景

 以上は広告業界独特の事情として紹介しました。ただ市場の動きが速い近年は、皆さんの会社に共通する部分もあるかもしれませんね。いかがでしょうか。

 ちなみに、弊社では創業した2000年からサーバー事業に取り組んできました。当時はまだクラウドサービスもない時代だったので、物理サーバーのみの運用をしていました。仮想化技術はあったのですが、CPUなどのハード面がまだまだ現在より性能的に劣っていた他、サーバー上でハイパーバイザーを動かしたりするとそれだけで動作がモッサリしてしまうため、個人のデスクトップPCにVMWareを入れてテスト環境として使う程度でした。

 この物理サーバー時代にとても苦労したのは、何と言っても機器の調達スピードです。そもそも広告業界は納期が短めの依頼が多く、企画をギリギリまで練ってクリエイティブにこだわる文化・伝統があります。しかしプロモーションの詳細が決まらないと、規模も分からないため設計が難しくなります。これには「プロモーションの話が急に湧いてくる」というより、「インフラの相談がどうしても最後になりがち」という事情もあります。

 従って、「今週中に何とかならない?」といった話になることもたびたびあります。物理サーバーをベンダーから直接購入すると、船便で1カ月かけて海外から送られて来ることなど、業務部門のスタッフは思いもよらないわけです。

 そこで急な相談にも対応できるよう、国内のベンダーパートナーと手を組み、仕入れ方法の改善などに取り組みました。そのかいあって、徐々にスピード対応が可能になり、最短で5営業日ほどになったのですが、この辺りが限界でした。こうした事情がパブリッククラウド(IaaS)の利用を検討することにつながっていったのです。

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