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視覚はどこまで他の感覚器官をだませるか―― 「おいしそう」の科学錯覚とインターフェースの可能性(2)(1/2 ページ)

ユーザー参加型の学会として発足し、毎回数万人規模の視聴者を集める「ニコニコ学会β」第5回シンポジウム。本稿では全体のハイライトとなった人間の感覚に注目したセッションを紹介する。

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錯覚とインターフェースの可能性


 ユーザー参加型の学会として発足し、毎回数万人規模の視聴者を集める「ニコニコ学会β」。本稿では前回に続き2013年12月21日、ニコファーレで行われた第5回シンポジウムでは、5つのセッションが行われた。慶應義塾大学の稲見先生が座長を務め、全体のハイライトになった人間の感覚に注目して発表する「研究100連発」を紹介する。

現実と虚構を混ぜる 藤井直敬氏(理化学研究所)

 3人目の発表者は稲見座長自ら「稲見よりもマッドな研究をしている」と紹介された藤井直敬氏(理化学研究所 脳科学総合研究センター チームリーダー)。

 知覚、脳科学についての研究を行っている。「脳をハックすることで新たなリアリティを紡ぐ」と紹介された研究は、脳と感覚の話が中心になった。

 眼科医としてのキャリアスタートから、視覚が脳でどう動いているかに関する研究に話は進む。サルの脳に大量の電極を刺したときの、視覚と身体情報の違いについて検証する研究だ。脳のさまざまな部位に200本もの電極を刺して検証を進めたという。研究に十分なデータを取るだけで2年ほどの日数を費やしたという。


眼科医のキャリアから話し始める藤井氏(撮影:石澤ヨージ)

電極をサルの脳に刺す研究

 藤井氏の研究はその後、脳全体の活動を効果的にモニターする方法を突き詰める方向に発展し、脳の情報を直接取得する「Brain Machine Interface」にたどり着く。

 そして、取得した脳の活動データを共有/提供するサービス「neurotycho」を開発したのだという。

 さらに、SR(代替現実)システムの紹介もあった。SRシステムとは、体験者の視界をHMDに置き換え、「いま眼の前にある」映像を流す。その後、カメラの画像を録画に切り替えても、録画と現在の映像を区別することはできないので、体験者はどちらかが分からない。

 うまく両方の画像を切り替えることで、体験者は録画と現実のどちらを体験しているのかが分からなくなる錯覚を覚える。


体験者はこのようなヘルメット型のHMDを身に付ける

 SRシステムはさまざまなメディアやテレビで取り上げられるなど、非常に評判になり、藤井氏はこれを利用したコンテンツを幾つも開発している。

 東京ゲームショウで披露したのは、「バイオハザード」とコラボしたコンテンツ。体験者の視界の中で、説明をしてくれていた現実の女性が、体験者が気付かないまま映像に切り替わり、ゾンビになって襲ってくる。藤井先生自ら、「何回やっても怖い」というクオリティ。


ゲーム「バイオハザード」とのコラボ

 下記は視覚では現実の女性とコミュニケートしているつもりが、実際は大根を触っている「セクハラインタフェース」とのコラボだ。心拍数を基にエンディングが変わる。この研究では「TENGA賞」を受賞。TENGAから研究費を付与され、さらなる開発を行っている。


映像では現実の女性が表示されているため、大根を触っているようには感じない

 さまざまな方向に発散する藤井氏の研究は、最終的には脳活動のモニターに戻ってくる。サルにSRシステムを適用し、その際の脳活動を記録する研究を発表して、20連発は終了した。


サルにSRシステムを適用する

 ここまで、感覚をハックすることに注力した研究が続いたが、藤井氏の研究はそれをエンターテインメントに結び付けるようにシステムにまとめている。これによって、脳の認知と錯覚を使ったさまざまななコンテンツとのコラボレーションが実現している。ゲームやアトラクションが進化していく方向がそこに見えたように思う。

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