女性の特別扱いは、もういらない:業界20年、運用技術者が砕く「男女の壁」
JANOGが開催した「JANOG33ミーティング」で、「がーるずとーく in JANOG33」が実施された。業界20年の三ツ木氏が語った、女性運用管理者ならではの体験談や知恵をリポートする。
日本ネットワーク・オペレーターズ・グループ(以下、JANOG)が2014年1月23〜24日、別府国際コンベンションセンターで開催した「JANOG33ミーティング」で、女性運用管理者ならではの体験談やそこから得たTipsを発表・共有する「がーるずとーく in JANOG33」が実施された。今回の発表者は、20年間、運用管理の世界で働いているシーイーシーの三ツ木絹子氏。
三ツ木氏は、新卒で日本電気に入社し、サブリーダーとして社内サーバーの運用を行う一方、不正アクセスやセキュリティに関する調査・研究も行っていた。現在勤務するシーイーシーでは、サーバー運用やデータセンター、MEX(AS7514)の運用を任され、クラウドサービスの構築・運用のリーダー(管理職)も担っている。
ここでは、三ツ木氏への事前個別取材で得た情報を交えながら、イベントの模様をリポートする。
女性は男性に劣っているか?
「運用現場では、『女性って不利だなぁ』と思うことが正直、現実としてある。でも、そんなことはない」――三ツ木氏は言う。例えば、身長。三ツ木氏の身長は155センチメートルほどである。そのため、ラック内の高い位置にサーバーやネットワーク機器を設置するとき、背が低いと力が入りにくい。また、筋肉が少なく体重が少ないため、重心が安定せず、重い物が持てないこともあるようだ。しかし、三ツ木氏は「女性だからしょうがないなどと、言い訳にしてはいけない。男性だって、身長が低い人もいれば筋肉質でない人もいる。この問題の根底にあるのは男女の差ではなく、この不利な部分をどうやってカバーするかという問題だ」と語る。以下は、彼女が日々の仕事の中で見つけ出したTipsだという。どれも、少し工夫するだけで克服できることにはっとさせられる。
身長・体力がないなら、道具を使え!
「身長・体力がないなら道具を使え」と、三ツ木氏は言う。彼女の秘密道具はこれだ。
写真を見て分かる通り、秘密道具といっても特別なものではない。2段の脚立にドライバー、圧着機、ニッパー、カッターと、一見どこにでもある道具である。しかし、彼女の道具にはややこだわりがある。例えば、ドライバーや圧着機は握りが大きくて力を入れやすいものを、ニッパーはとにかく切れやすいものを選ぶのだという。一方、カッターは100円均一で購入したものを使用している。カッターは、高価なものを選ぶよりも、手ごろな値段のもので歯を頻繁に折った方が切れ味がいいそうだ。
その他、静電防止袋や段ボール、緩衝材、気泡緩衝材も非常に重要なアイテムとなる。静電防止袋や段ボールは、重いサーバーやルーターを移動させる際、下に入れて引きずったり押したりするときに滑りを良くする働きがある。また、緩衝材や気泡緩衝材は、マウントするときに段差を埋めるのに役立つ。
三ツ木氏は新入社員だったころのエピソードを語る――「ある日、50キロのハードディスクを運ぶ作業を頼まれました。一人では運べないと判断し、先輩に手伝ってほしいとお願いしたのですが、怒らせてしまい手伝ってもらえませんでした。私は『どうやって持ち上げたらいいんだろう?』と悩みました。そのとき、『あ、持ち上げないでいいじゃん。運べばいいんだから、滑らせればいいじゃん』というアイデアが生まれたんです。これまでは、『ハードディスクは精密機器だから、持ち上げて運ばなければいけない』と思い込んでいましたが、よく考えてみると、ハードディスクは精密機器だからこそ厳重に梱包され箱に入っています。それで、『持ち上げなくてもいいじゃん!』という発想になったんです」(三ツ木氏)。
同氏は続ける――「こんなこともありました。ラックをマウントするのに苦戦していると、上司から『おまえに頭は付いているのか? 重いものでも、“てこの原理”を使ってこまめに動かせば上に上がる。力任せに解決するんじゃなくて、そうやって頭を使えばいいじゃないか』と言われたことがありました。この時から「どうやったらできるのか」と考えるようになりました。例えば、どうしても高くて届かない場所に設置するときには自分より背の高い男性にお願いしますが、ただお願いするだけではなく自分で協力できることはできる限りやります。例えば、私は台になることができます。サーバーの下に入り、自分の頭を台にすれば、重さが少し分散されるはずです。男性だって高い位置にサーバーやネットワーク機器をマウントするのは大変なんです」(三ツ木氏)。
三ツ木氏には、さらに伝説のエピソードがある。某メーカーの人に「サーバーやスイッチが重いので、小さく軽くしてください」と直接お願いしたという。しかし、「分かりました」とすぐに動いてもらえるはずもなく、「三ツ木さんだけのために、できません」とあっさり断られてしまった。三ツ木氏は言った――「みんな年を取るんだから、絶対に軽くて小さいものが必要になります。重くちゃだめですよ」。後日、三ツ木氏のもとに小さくて軽くなったサーバーとスイッチが届いたという。さらに、1センチくらいの小さな凹みしかなく持ちづらかったルーターやスイッチに、取っ手を付けてもらえるよう依頼すると、これも実現した。「困っていることがあるなら、言ってみたら意外と解決するかもしれない」と、三ツ木氏は言う。
力がないなら、関節を使え!
さらに、三ツ木氏は「関節を使って物を運ぶ」というテクニックを伝授する。関節で力を受けることで、力が分散し、重いものを運ぶことが可能となるそうだ。
肘で支える
始めに、肘で支えるテクニックである。ラックをマウントするときなどに有効だ。通常、力のある男性はこのような体勢でマウントをする。
しかし、力の弱い女性の場合、肘を伸ばした状態でマウントすることが難しい。そのため、肘を曲げ、次のような体勢を取るとやりやすい。
腰骨に乗せる
続いては、腰骨に乗せるというテクニックだ。これは、身体のつくり上女性にしかできないテクニックかもしれないが、サーバーなどを運ぶ際、腰骨に少し引っかけて運ぶようにするという。こうすることで重量が分散され、運びやすくなる。
肩を入れる
さらに重さを分散させるには、肩を入れるというテクニックを使う。肩だけを突き出す感じでマウントすると、いくらか楽にできるそうだ。
狭いところは女性に任せろ!
比較的小さな体格の女性なら、フリーアクセスの下に潜ることが可能な場合もある。短い距離であればケーブルを這わすこともできる。また、ラックの隙間に手を入れての作業も行いやすいため、ラックの隙間にある物も探しやすい。
おしゃれだって、工夫する!
もう一つ、気になるのが運用系女子のおしゃれ事情である。運用系女子にとって、おしゃれ一つするのにも工夫が必要だ。指輪がサーバーに引っかかってしまったり、イヤリングをラックの下や通風孔に落としてしまったりとトラブルは絶えない。運用系女子は、どのような工夫をしておしゃれを楽しんでいるのだろうか。
例えば、指輪などのアクセサリーはどこかに引っかけるとけがをしたり機械を傷つけてしまったりする。また、作業中に身に着けていると紛失しやすいため、できるだけ業務中は付けないようにしているそうだ。どうしても付けたいときは、業務終了後に身に付ける。また、大きなイヤリングは緊急対応時などで電話を肩と首の間で挟みながら作業する際に邪魔になるため、こちらも仕事中は着用しないようにしているとのことだ。
おしゃれ用のネイルもあまり塗っていない。爪を伸ばすと作業の際に割れやすくなる他、きれいにマニキュアを塗ってもすぐに剥がれてしまうためだという。
服装は、やはりパンツスタイルが多いようだ。サーバールームでは空調の風によって、スカートだとまくり上げられてしまうためだ。三ツ木氏は、「自分はいいけど、男性のほうが『パンツが見えている!』とうるさいのでパンツを履くようにしている」と答える。また、同様の理由で襟ぐりが大きい服も控えているという。出掛ける予定があるときは着替えるなどで対応するが、中には作業着を会社に常備している人もいるという。靴は、細いハイヒールだとフリーアクセスの穴にはまってしまうため、穴より太いものを選ぶようにしているそうだ。一番やっかいなのが髪の毛。髪を伸ばしているとファンに吸い込まれてしまうため、後ろで1本に縛る。
また、作業中は口紅を付けないという笑い話も。何かの拍子で前へ倒れ、ルーターにキスしてしまったときにキスマークがくっきりと付いてしまったことがあった。それ以来、「キスによって機械が熱暴走しないために、口紅は塗らないことにしている」そうだ。
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男性と女性には、ところどころに差はあるかもしれない。しかし、ちょっとした工夫で縮めることはできる。最後に、三ツ木氏は「誰もが抱える職場での『どうしよう』を前向きに捉え、みんなでTipsを集め共有していけたらいいです」と話し、今後もこのような共有の場を作ることを約束した。
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