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プライベートクラウドの運用管理、リアルな課題とはプライベートクラウドをめぐる誤解(4)(1/2 ページ)

仮想化統合の取り組みを進めていくと、従来とは異なる運用上の課題が次々に浮上してくる。これにどう対処できるのか。具体的に考える。

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 「プライベートクラウド」という言葉を意識しなくても、仮想化統合を進めていけば、新たな運用管理上の課題が表面化する。このため、運用管理に対する考え方や手法は変わっていかざるを得ない。

 この新たな運用課題は、主に「量」と「多様性」の増大に起因する。

「ちょっとした」アプリケーションのための対応という課題

 情報システム部門が管理してきたアプリケーションを統合するだけでも、対象となるアプリケーションの重要性やニーズはさまざまであり、これらへの対応はおのずと複雑化してくる。対象アプリケーションの数が多くなれば、統合的な管理のもとで、個別のニーズにどう対処するかが課題になる。ここでいう個別のニーズとは、性能、データ保護、可用性などだ。

 さらに業務部門あるいは業務部門の委託先が管理してきたアプリケーションの統合を進めていくと、上記の量と多様性の問題が増大する。

 業務部門側のアプリケーションは、性能、データ保護、可用性といった点で、個々の要件の違いが非常に大きい。日常業務に欠かせないアプリケーションがある一方、ちょっとした業務上のニーズを満たすために作ったアプリケーションも多いと考えられることから、これらの要件の違いは当然と言える。後者のアプリケーションのオーナーや利用者の多くは、基幹システムのように、まったく止まらず、可能な限り最高の性能で提供されることなど求めているわけではない。

 こうした多数の「ちょっとした」アプリケーションに関しても、インフラのレベルのみにしろ、情報システム部がその運用を肩代わりすることが、全社的な効率向上に貢献する。そして、情報システム部が多数のちょっとしたアプリケーションも、全社インフラに統合していくのであれば、少数の重要なアプリケーションのためのインフラ運用のやり方をそのまま適用するわけにはいかないし、適用しても誰も喜ばない。

 多数のちょっとしたアプリケーションへの対応では、効率性を積極的に追求していく必要がある。こうしたアプリケーションの数が多いほど、それぞれに過剰な物的リソース、人的リソースを費やして個別対応することは大きな無駄につながり、全社的な仮想化統合の目的と逆行してしまう。

 そこで、標準化が重要になってくる。統合インフラへの移行とその後の運用の双方で、各アプリケーションへの個別対応をできるだけ避け、仕様および運用を可能なかぎり定型化していくことが求められる。

標準化・定形化は押しつけになってはならない

 標準化や定型化は押し付けになってはならない。逆に、業務部門に対してよりよいIT環境を提供するために、標準化や定型化を生かしていかなければならない。

 もともと、日本の多くの企業で、情報システム部は全社的なアプリケーションだけを管理し、業務部門レベルのニーズはそれぞれが満たすという「棲み分け」、あるいは「断絶」が生まれたのは、情報システム部が業務部門のITニーズを把握しきれるものではないという問題があったからだ。

 その後IT技術は進歩した。仮想化によって、アプリケーションとインフラを分離して運用できるようになった。このため、業務部門レベルのアプリケーションについては従来どおりその部門が運用する場合でも、インフラについては情報システム部などが運用を引き取れるようになった。そこで、企業全体として、効率およびインフラレベルでのコントロール確保を重要な目的として、全社的な仮想化統合を進める企業が増えてきた。

 業務部門にとって大事なのはアプリケーションであり、インフラではない。だから、インフラの運用を誰かに任せた方が楽だ。だが、情報システム部に任せることで不便になるなら、任せたいとは思わない。結局、情報システム部と業務部門のITが分かれる前の状況に逆戻りさせようとしているかのような印象を持ってしまう。

 仮想化統合が、業務部門への押し付けになってしまうのでは、本末転倒だ。ITをさらに便利に使えるような環境を業務部門に提供できてこそ、業務部門は情報システム部の提供するインフラを使いたくなる。

 この連載で繰り返しお伝えしているように、誰が運用するにしろ、「クラウド」という言葉が意味を持つのは、ユーザーが利用に専念できる環境を提供できることにある。業務部門が、情報システム部から押し付けられているという感覚を持たずに、IT利用に専念できるようにするためには、「サービスメニュー」という形で、複数の選択肢を提供し、この中から業務部門側に能動的に選択してもらえるようにする必要がある。

 ユーザー側には、サービスの内容と対価を明確にした上で選択肢を提供する。ユーザーは使用したいサービスを選択することで、事実上自らのニーズを情報システム部門に伝えることになる。

 すなわち、運用上の都合だけでなく、業務部門が便利になるように、ITインフラ運用の標準化、定型化を進める必要がある。

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