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プライベートクラウドの運用管理、リアルな課題とはプライベートクラウドをめぐる誤解(4)(2/2 ページ)

仮想化統合の取り組みを進めていくと、従来とは異なる運用上の課題が次々に浮上してくる。これにどう対処できるのか。具体的に考える。

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スピード、柔軟性という新たなITニーズへの対応

 業務部門のアプリケーションを対象としたインフラ統合を進めていくことは、業務部門のアプリケーションにおけるインフラ調達の新たなニーズへの対応が必要になるということでもある。その新たなニーズとは、次の通りだ。

ニーズその1:スピード

 組織によって、ITに関する予算配分や権限執行に関する事情は異なる。だが、業務部門が活発にアプリケーションを構築・運用しているような場合は、ITインフラを迅速に調達したいというニーズがある。

 いうまでもなく、昔からITインフラはできるだけ早く調達できればよかった。だが、いくらそう望んでも、これを実現できる技術はなかった。ところが、その後の仮想化技術の登場と、これを使ったクラウドサービスの広がりで、いまでは当たり前になった。その当たり前になっていることを提供できないなら、業務部門のために便利なITインフラ環境を提供することは難しい。

 社内のユーザーが必要な手続きを経て申請すると、数分あるいは数十分で仮想マシンやストレージが利用できるようになるといったレベルまでの迅速さが求められることは、一般企業では少ないかもしれない。だが、ユーザーが便利に感じるようなレベルの迅速性を、安定的に提供しなればならない。

ニーズその2:柔軟性

 業務部門でどのような仕様のITリソースがどれくらい必要とされるかを事前に予想することは不可能だ。従って、情報システム部が提供するITインフラサービスメニューの中身は、運用開始後に利用状況を見ながら調整していかざるを得ない。

 また、一度提供した特定仮想マシン/ストレージの仕様(仮想CPU数や仮想メモリ、仮想ストレージ容量)を、後で変更できることは、仮想化技術のもたらす重要なメリットだ。これまで、一度設定・構成したものを変更するという考えを、運用担当者が持つことはなかった。だが、ユーザーにとっての利便性、全体最適の双方の観点から、積極的にこれを活用していくことにはメリットがある。

パブリッククラウドサービスではやりにくいこともある

 それでは、一般的なパブリッククラウドサービスと同じではないかといわれれば、そのとおりだ。だが、社内で提供するクラウドでは、業務部門にとってこれまでのアプリケーション運用のやりかたとの親和性が高い選択肢も提供できる。

 例えばデータのバックアップだ。パブリッククラウドでは、バックアップに関する選択肢が限られていることが多い。これに比べれば、従来型のバックアップソフトを使った運用を含めて、幅広い選択肢を提供することが可能だ。

 ただし、仮想化する時点で、従来のバックアップソフトをそのまま使ったバックアップは、負荷の観点から利用が難しく、仮想化に対応する仕組みを備えたバックアップ手法への移行が必要になることは多い。それでも、ユーザーに対し、幅広いバックアップ手法を提供できることはメリットがある。

 ユーザーとの役割分担という点でも、ユーザーに選択肢を与えられる。バックアップソフトにしろ、スナップショットにしろ、ユーザー側は運用ポリシーに関しては自らがコントロールしたいとしても、実作業を実施したいわけではない。従って、業務部門側が設定したポリシーに基づき、自動的にバックアップが実行されるような仕組みを導入することで、業務部門にとっての満足度を高められる。また、バックアップデータを用いた復旧に関しては、業務部門で全ての作業を実施したい場合はその権限を与え、ユーザーが復旧に関わりたくないようなものについては情報システム部で代行する選択肢を提供できる。

プライベートクラウド運用管理の課題への対処

 上記を踏まえると、プライベートクラウドの運用管理では、可能なかぎり自動化を進める必要がある。ITインフラの運用が静的なものから動的なものに変わる。対応すべき量は増大し、不確実性も増える。この変化に効率的に対応するには、自動化しかない。

 日本ではあまり注目されていないが、クラウド運用オートメーションは、いまや重要な製品ジャンルに育ってきている。クラウド運用オートメーション製品は、マクロ的な機能を通じて、仮想マシンやストレージの提供に関わる一連の作業を自動化できる。こうした製品をうまく使わないと、そのうち運用を回していけなくなるし、そもそも業務部門が満足するようなサービスを提供できない。

 もう1つ言えるのは、ハードウェアでもソフトウェアでも、IT製品を使い続けていくためのメンテナンス作業や、IT製品の利用を拡大するための再構成に要する作業、つまり「IT製品のためのIT製品の管理作業」は最低限に抑えられなければならないということだ。

 組織内でプライベートクラウドの日常運用を行うなら、これを構成するITコンポーネントには、「IT製品のためのIT製品管理」の負荷を最低限に抑えられるようなものを選択すべきだ。

 ITインフラ製品の一部は2通りの側面で進化している。1つは自律的に機能やサービスレベルを自己調整でき、あるいは製品の機構の複雑さを隠ぺいして、日々のメンテナンスや拡張などにおける作業負荷を積極的に減らせるものが増えてきた。つまり、IT製品自体の「お守り」的な作業を減らせるものが増えてきた。もう1つは、ITインフラ製品とIT運用管理製品などとの連携により、個々のITインフラ製品に対する設定を、より抽象的な「ポリシー」という形で指令できるようになってきたということだ。最近話題となっている「Software Defined 〜」は、上記2つの双方に絡むが、特に後者について今後さらに進化が期待できる動きだと言える。


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