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クラウド経済通のアーキテクトが必要な理由クラウド通が指摘するサービス選定のよもやま話(1/3 ページ)

群雄割拠のクラウドサービス。ユーザーが増えつつある状況で、顧客の声を生で聞き、現場を知る、国内クラウドサービスの中の人々が自社も他社も関係なく、よもやま話を展開。今必要なのは「クラウドの経済」通のアーキテクトだという。その理由は?

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 以前の記事では、これからの利用を検討している読者に向けてクラウドサービス事業者の選び方や、IaaS業界を中心とした事業者の状況を俯瞰した。今回は視点を逆にして、クラウドサービス提供事業者らの視点による座談会を実施。事業者やエンジニアの視点から、今後のITインフラの方向性について議論してもらった。事業者ならではの視点や、現場近くでユーザーの状況を見ている人たちの視点は、IaaS未経験の読者にも参考になることだろう。

 参加したのは、所属と名前を明かさない約束で登場いただいたA、B、C氏とX氏だ。当日の議論は多岐にわたる内容が含まれていたが、ここでは彼らの議論を基に、クラウドサービスの今後や、選定する際の指針を考えていこう。

登場人物紹介

A氏 某国内クラウドサービス事業者A

B氏 某国内クラウドサービス事業者B

C氏 某クラウドサービスエンジニア

X氏 某リサーチャ


AWS寡占が続くクラウドサービス事業者マップの「なぜ」

編集部 北米では一般的になってきていますが、日本国内でもクラウドサービスの企業利用が進んできた印象です。一方で、北米と同様に「AWS(Amazon Web Service)」のシェアが高いと聞きます。

A氏 北米には「Rackspace」という、非常に強い競合が存在するよね。少し前のAWSシェア凋落の理由はRackspaceにあるのではないかと思っている。

X氏 RackSpaceの攻勢は既に一段落している*。直近の、世界全体でのIaaSシェアに関する資料を基に分析したところ、AWS単独の売り上げと「Microsoft Azure」「Salesforce.com」「IBM SoftLayer」「Google Cloud」の売り上げ合計が拮抗するようなかたちだ**。

X氏 一方の日本では米国以上にAWSのシェアが高い状況が続いている。少し前に調査したところ、北米地区のAWSのシェアが50%程度であるのに対して、日本におけるそれは70%近かった。

C氏(クラウドサービスエンジニア) 最近の国内に目を向けると、直近では面白い動きも少なくない。アプリケーションパッケージやIaaSサービスを持っている大手総合ITベンダーが、自社パッケージ製品のクラウド展開において、国産他社IaaSサービスを採用した。移植コストを考えると、最もシェアの高いAWSなどの海外勢を優先しそうなものだが、日本企業の商習慣や利便性などを優先したということだろう。

X氏 ホスティングサービス類はどうだろうか。

A氏 米国のホスティングサービスは過当競争になっている。もはや定価が意味をなさないほどの価格競争だ。

B氏 徹底した自動化と大規模化がなければ成立しないコモディティ市場の戦いになっている。

X氏 逆に言うと、こうした環境だからこそ、自動化やセルフサービス、低価格でのサービス利用が当たり前になっている。そうした素地があるからこそ、IaaSへの移行が進んでいるともいえるだろう。従来型のホスティングサービスがある一方で、ベアメタルサービスもいくつか登場しており、まじめに作られたベアメタル環境はNIST定義も満たすクラウドサービスとして成立している。

A氏 特にベアメタルサービスは、リソースプールからの切り出しを物理サーバ−単位に限定する代わりに、仮想化のオーバーヘッドを排除できる。オンプレミスで運用していたシステムを移行する場合には分かりやすいといえる。一方で、クラウドらしい分散システムを組もうとすると物理サーバー単位でしか増設できない点で、コスト高になりやすいリスクも持つ。

X氏 なるほど。そうした状況も考え合わせると、現在のクラウドサービスの市場は、昔のRISC(Reduce Instruction Set Computer)とCISC(Complex Instruction Set Computer)の戦いみたいな結論になるんじゃないだろうか***。もちろん、今もマイクロプロセッサー分野では、明確に異なるアーキテクチャとして使い分けられていることもあるだろうが、パーソナルコンピューティングや情報システムの領域では両方のおいしいところをうまく使える環境が登場し、それぞれのアーキテクチャの違いについて意識することなくプログラムを作ることが当たり前になった。よほど厳密な用途でない限りは、誰も気にしないよね。

 だから僕は、アーキテクチャの違いを意識することなく「いいとこ取り」をするという意味で、AWSやそれ以外のクラウドサービスとのハイブリッド化に進む時期がどこかで来ると考えている。AWSの寡占が永続的なものになるとは思っていない。そのタイミングを作るのが何になるのかまだ分からないが、直近でいうと、多様なインフラ環境間でアプリケーションのポータビリティを担保するDockerのようなコンテナー技術もその一つとなるのかもしれない。

C氏 いずれにしても、インフラ技術がPaaSに向かう通過点の一ピースとして、Dockerを中心としたコンテナー技術へのアーリーアダプター層の関心は高いし、これによって実現する運用も見えつつある。コンテナー技術に対するユーザーからの要請が高まると予想されることから、事業者側のDocker対応は必須になるだろう。

* RackSpaceは、自身の身売り先を探しているとされているが、その渦中の2014年8月7日、マネージドクラウドサービスを発表している。
** Synergy Research Groupの資料を基にatoll Projectが作成した時系列シェア資料による。世界全体の売り上げ構成でみると、AWSが25.7%、他の4社合計が23.1%になっている。
*** RISCとCISCの戦い 設計の異なる2つのプロセッサーアーキテクチャーが市場シェア競争を行っていたことを指す。現在では両方の特性を取り込んだプロセッサーが登場している。



価格競争ではない、使い勝手の問題は?

X氏 クラウドサービスでは、AWSとグーグルのように、価格競争が話題になることが多いけれど、実際のところ、価格だけでAWSが支持されているわけではない印象だ。

C氏 例えばCPUコストだけで比較すると、AWSよりもコストパフォーマンスのよいものがある。

A氏 ユーザーが求めているのはCPUパフォーマンスだけではない。安ければシェアを奪還できる、ということではない。

C氏 CPUパワーのコストパフォーマンスが軸なら、今日の時点では国内某社が世界制覇していないとおかしい。

X氏 その点で国内某社はすごく頑張っている。しかし、実際には多数の事例があるものの、技術者の支持が高いにもかかわらず、ビジネスユースで利用するイメージがあまり定着していない。

X氏 一方で、AWSはビジネスユースになり得ている。しかも、AWSに移行することはユーザー企業が大々的に発表することも少なくない。AWSはCPUコストパフォーマンスなどの指標を超えてユーザーに支持されている印象がある。しかし、クラウドサービスの本質的な意味での利点は「使いたいときに使いたいだけ」の伸縮性を武器にしたコストパフォーマンスや運用効率の高さにある。シンプルに考えると、この「使いたいときに使いたいだけ」という要件に則して効率良く調達できるサービスを選択するのが妥当だろう。だが、実際にそういった点を軸に評価して採用しているかどうかが定かではないケースも見受けられる。

B氏 それでいうと、日本の事業者だって、ユーザーが支持してもいいようなサービスを十分に提供している。一定の水準の機能を提供しているし、サービスの品質面では、ほぼ互角かそれ以上のものも少なくない。

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