富士通も日立も去る、日本での「メインフレーム脱却」が一筋縄ではいかない理由:世界とは異なる特殊なレガシー事情
国内では富士通に続き、日立、BIPROGYのメインフレーム撤退が明らかになった。レガシーシステム刷新がより差し迫った問題となる今、念頭に置くべき日本のメインフレーム事情の特殊性とは。アクセンチュアの中野氏に聞いた。
日本企業のレガシーシステム刷新が待ったなしになっている。40年近く前に開発された基幹システムが改修を重ねながら動き続ける現場では、仕様書は失われ、開発当初を知る担当者も既にリタイア。システムを移行、刷新しようにも着手できない状況もある。
そうした中、富士通は2035年までにメインフレーム事業から撤退する方針を公表しているが、日立製作所もメインフレーム向けOSの販売・保守を終わらせる方針を2026年5月に発表。BIPROGYのメインフレーム事業撤退も明らかになった。世界の中でも独自に築かれてきた国内メインフレーム市場はいま、後戻りできない大きな転換点を迎えている。
今後より一段と必要に迫られるレガシーシステム移行を控え、企業は“日本独特の特殊な事情”を踏まえなければならないと指摘するのは、アクセンチュアでレガシーシステムのモダナイゼーションに携わる中野恭秀氏(デジタルコア シニア・プリンシパル)だ。
日本におけるメインフレーム事情の特殊性とはどのような点にあるのか。単に提供ベンダーの違いだけでは語れない根深い事情が関係している。「COBOL」などいわゆるレガシー言語で構築されたシステムの移行・刷新に当たり、企業は何を押さえておくべきか。
世界標準では語れない――「日本のメインフレーム」が直面する特殊事情
世界ではIBM製メインフレームが9割以上と圧倒的なシェアを占めるとされる。一方の日本では、富士通、日立製作所、NEC(日本電気)という国産ベンダーが独自の市場を築いてきた。
Expert's View:中野恭秀氏(アクセンチュア株式会社 デジタルコア シニア・プリンシパル)
「日本ほどメインフレーム分野で成功した国はない」と語る中野氏。それは生成AIやAIエージェントによるモダナイゼーションが注目を集める中でも、グローバル基準と同じには考えてはいけないことも意味する。同社ではCOBOLやPL/IからJavaへの変換ツール「MAJALIS」による、国内事情を考慮した移行を支援する経験に加え、AIの急速な進化を踏まえ、AI Readyな脱メインフレーム・脱レガシー言語の手法を推進する。
欧州でもかつて英国のICL、フランスのBull、ドイツのSiemensなどがメインフレームを提供していたが、事業再編や買収、撤退などを経て、IBMが事実上の標準となった。一方、日本では富士通、日立製作所、NECがそれぞれメインフレーム事業を長年維持してきた。国産ベンダーが優位なシェアを占め、そのビジネス基盤を維持してきたこと自体、まずは世界では見られない特殊な状況だ。
そうした国内ベンダーが撤退を表明する動きが広がっている。富士通は自社製メインフレーム「GS21」シリーズについて、2030年度に販売を終了し、2035年度に保守サービスを終了する計画を公表している。日立製作所は2017年にメインフレームのハードウェア製造から撤退し、2018年度以降はIBMから供給を受けたハードウェア上で、自社のOSやミドルウェアを動かす形に移行していた。2026年5月には、メインフレーム向けOS「VOS3」(Virtual-storage Operating System 3)の販売を2027年11月、保守を2034年12月に終了する方針を明らかにした。
Unisys製メインフレームを国内で提供してきたBIPROGYもメインフレーム事業から撤退することが一部報道(日経クロステック)で分かった。@ITの取材でも、ハードウェア、OS・ミドルウェアなどのソフトウェア、関連機器の全てが撤退の対象であること、撤退の具体的なタイミングは顧客との調整の中で検討中であることが確認された。
BIPROGYは既存ユーザーに対して、基本的にはオープン化を提案していく。BIPROGYが事業をやめればUnisys製メインフレームは事実上、国内からの撤退になるとみられる。同社によれば、撤退のタイミングは確定次第、公表予定とのこと。
NECはメインフレーム「ACOS」シリーズの製造・販売を継続している。2022年5月に同シリーズの新モデルを発表しており、その販売目標を5年間で200台としていた。
国内でメインフレーム事業を継続方針としているのは、現段階ではIBMとNECの2社になる。「国内のマーケットは半分以下になる」として、その影響は単純に富士通や日立、Unisysのメインフレーム台数が減る以上のインパクトになると中野氏はみる。ベンダーが撤退していく中で、SIerを含めてCOBOLを扱う人材を育成しようとする動きも、これからさらに先細りすると考えられるからだ。2035年に向けて一段と縮小局面が色濃くなる中で、まだ「2社が提供しているから」と安心していられる状況ではなさそうだ。
グローバル標準とは異なる国産メインフレーム
こうして国内のメインフレーム市場が縮小していくとなれば、古いものでは40年と動き続けてきたレガシーシステムを、移行の期限が見えてきた中でどう維持、刷新していくかが問われる。生成AI、AIエージェントの台頭がモダナイゼーションを加速させる一つの要素になるとも考えられるが、中野氏によればここでも“日本市場の特殊性”を考慮する必要がある。
AIコーディングツール「Claude Code」を提供するAnthropicが実践ガイド「Code Modernization Playbook」(2026年2月公開)で触れたように、COBOLのようなレガシー言語で書かれたシステムにおいて、コードの依存関係の可視化や、ビジネスロジックのドキュメント化、Javaへのコード変換など、従来多大なコストがかかっていた工程は生成AIによって大幅に短縮可能になっている。
こうしたAIの進化を踏まえて、中野氏も今後はAI駆動開発が前提になっていくとしながらも、「海外で成功したモダナイゼーションの手法やツールを、そのまま日本へ持ち込んでも通用しない」と指摘する。
例えばIBMのメインフレームでは、オンライントランザクション処理に「CICS」(Customer Information Control System)、データベースに「Db2」が広く使われている。それに対して日本の国産メインフレームでは、富士通ではオンライントランザクション処理を担うミドルウェア「AIM/DC」(AIM:Advanced Information Manager)とネットワーク型データベースといったように、ベンダーごとに独自だ。文字コードに関しても、漢字などの2バイト文字を扱うことに対応したベンダー独自の文字コード体系が使われている。
こうした日本特有の技術スタックは、世界的な標準となっているIBMのメインフレームと比較すれば、GitHubを含めて公開情報がほとんど存在しない。事前学習の量がアウトプットの質を左右する生成AIにとって、インターネット上に公開情報が少ない“ガラパゴス化”した日本独自の領域は、不得手になってしまう。
背景にはバブル経済の崩壊も
「40年物、50年物のシステムともなれば、ソースコードがないプログラムが100本あることも当たり前。COBOLのファイルシステムをデータベースのように作り込んでいたり、サードパーティーベンダーのデータベースを使っていて、その読み書き処理が特殊な書き方になっていることもある」(中野氏)
こうしたシステムが構築され、延命されてきた背景として切り離せないのが、いわゆるバブル経済とその崩壊だと中野氏は語る。要するにバブル期には潤沢な資金を投じてシステムが構築されたが、バブル崩壊で景気低迷。刷新のタイミングを逃し、IT投資や人員補充が進まず、必要最低限の改修を繰り返しながら延命されてきた――というわけだ。技術的な視点とは異なるが、レガシーシステムの現状を理解する上では欠かせない特殊な事情だと言える。
日本独特の技術スタックを含めて、こうした背景の中で維持されてきたものがある。AIがどれだけ進化しても、AIでは補い切れない領域としてその事情を考慮しなければ移行はスムーズには進まない。
では具体的にはどのような観点でモダナイゼーションに向き合えばいいのか。次回は、レガシーシステムが40年以上にわたって使われてきた経緯を改めて考えると同時に、アクセンチュアの知見も踏まえ、生成AIやAIエージェントの活用が広がる中で企業が向き合うべきモダナイゼーションの手法に焦点を当てる。
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