ここ数年、企業の人事や社内カウンセラーに従事する人から、「うつで休職する人が増えた」という話をよく聞くようになりました。
彼らは続けます。「だが、何かがおかしい。同じ病名なのに、いろいろな症状の人がいるような気がする。彼らを全員『うつ』と呼んでしまってよいのだろうか?」と。
涙が止まらない
ここで、ごく個人的な話をすることをお許しください。
数年前のことです。会社で思うようにいかない出来事があり、私はひどく落ち込んだ日々を送っていました。
「仕事なのだから頑張るべきだ」と、頭では理解していたのですが、感情が追い付きません。悲しくゆううつな気持ちが続き、仕事をしていると自然にダラダラと涙がこぼれてきます。泣きながらPCに向かい、泣きながら書類を作成します。打ち合わせ中にも前触れなくダラダラと泣き出すので、周りの人はギョッとしたことと思います。「いい大人がみっともない」「社会人として失格だ」と思うのですが感情は止められず、ダラダラと泣き続ける日々が数週間続きました。
このころ私は、うつ病だったのでしょうか?
うつ病は増えているのか?
私の話は後半でまたお話しするとして、いったん冒頭の話に戻ります。「うつ病で休職する人が増えた」のならば、その元となる「うつ病の患者」も増えているのでしょうか?
表を見ていただきましょう。これは厚生労働省が発表した、「平成23年度の患者調査」の「うつ病で医療機関を受診している患者数」の推移です。昭和59年(1984年)には11.0万人だった患者数が、平成11年(1999年)には33.5万人に、直近の平成23年(2011年)には70.1万人まで増えています。27年間で6.4倍です。
いかがですか? 「やっぱり、うつ病患者は増えている」と思いましたか?
いえ、そうとは言い切れません。この表から分かるのは「うつ病という病名で医療機関に受診している人が増えた」ということです。もっと正確に言えば、「うつ病、または抑うつなどのうつ状態と診断され、医療機関を受診している人が増えた」です。
なぜこのようにまどろっこしい表現をするのか、少し詳しく説明しましょう。
うつ病の診断方法
私が「まどろっこしい」表現をしたのには理由があります。というのも、この表の最初のころと現代とでは、うつ病の診断方法が異なるからです。
ときは1980年にさかのぼります。この年に米国精神医学会(American Psychiatric Association)が、精神疾患分類体系「DSM(Diagnostic and Statistical Manual Disordetrs)」の第3版、通称「DSM-III」を発表します。日本語で「精神障害の診断と統計の手引き」と呼ぶこの分類体系は、公式の診断基準として初めて「操作的診断基準」を採用しました。操作的診断とは、平易な言い方をすれば「病気の原因や経過ではなく、現れている症状に着目して診断する方法」で、代表的な症状のうち、一定数以上が認められれば、ある疾患と診断するものです。
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