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ITエンジニアとして2020年に向けて活躍するための3つの「習慣」2000人アンケートから考える、誰でも今すぐ試せるスキルアップサイクル

@ITでは、日本のITエンジニアの現状や課題、技術への「思い」などを知るための読者調査を実施した。今回は、このアンケート結果を元に、エンジニアが日々の仕事の中で技術との関わりを楽しみ、社会でその能力を存分に発揮するために何ができるのかについて考えてみたい。

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 @ITは2014年9月、日本のITエンジニアの現状や課題、技術への「思い」などを知るための読者調査を実施した。2000人近い読者から回答を得て、その結果の一部を記事としてすでに公開している。

 このアンケート結果を元に、「IT投資が増加していくとされる2020年に向けて、エンジニアが技術との関わりを楽しみ社会でその能力を存分に発揮するために何ができるのか」について、現役エンジニアによる座談会が行われた。本稿では、座談会から見えてきた誰でもすぐに試せるスキルアップサイクルを紹介したい。スキルアップサイクルは下記の3つの要素で構成されている。

 出席者は、日本マイクロソフトでエバンジェリストを務める井上章氏。デジタルアドバンテージ代表取締役の小川誉久氏。そして、co-meeting取締役CTOであり、「パブリッククラウドエバンジェリスト」としての活動も意欲的に行っている吉田雄哉氏である(以下、敬称略)。

【1】まずは試す――もっと気軽に「何かを作る」ことから始めてみよう

――本日はよろしくお願いします。早速ですが、アンケートで「スキルアップのために取り組んでいることは」という質問がありました。こちらへの回答結果については、皆さんどのような印象をお持ちになりましたか。


スキルアップのために取り組んでいることを全てお選びください(n=1309)

吉田 回答を見て思ったのは「みんな真面目過ぎるんじゃないか?」ということです(笑)。例えば、スキルアップのために「何かしている人」のうち、8割前後の人が「雑誌や書籍、Webサイトを通じた独学・情報収集」をしていると答えています。一方で、「Webサービス・アプリの開発」をやっている人は半分以下です。

 恐らくですが、モノを作るに当たって「何か社会的な役に立つものを」と真面目に考えてしまって、結局それが見つからないために、作るところまで進めていない人が結構いるんじゃないかと思います。

 ここはハードルを下げて、「自分のためになるもの」「家族のためになるもの」「役に立たないけど面白いもの」などでいいので、まずは“趣味”として「作ってみる」のが大事なんじゃないでしょうか。例えば、自分が普段使っているアプリに感じている不満を解消するものでもいいんですよ。何なら、公開をしない限りは普段使っているアプリをマネしてもいいし、マネしたアプリに一機能加えるのでもいいでしょう。

 あまり大上段に構えずに、まずはその段階まで進んでみる。自分が満足して、家族が喜んで、もしかすると他の人たちもそれを便利に使ってくれるかもしれない。そうすれば大成功ですよね。もちろん、それでお金をもうけようとする、つまり“仕事”になると、急に大変になりますが(笑)。

井上 吉田さんにとって、“仕事”と“趣味”って、明確に区別できるのですか? 趣味が仕事の一部になっていますか?

吉田 趣味でもあるし、仕事でもある……といった感じでしょうか。「今、僕ができることの中で、多少なりとも人に良い影響を与えられるものはこれしかない」と思ってやっている部分はありますね。ただ、自分が好きなことをやっているので、それ自体が幸せです。(笑)

井上 自分が好きなことが仕事になっていると、生活の中での優先度が上がる。つまり、そのために時間を割けるのでしょうね。ITを「単なる仕事」以上に、愛着のあるものとして捉えられれば、より良いのかもしれません。

小川 「単なる仕事」といえば、いわゆる「王道」のシステムインテグレーションの世界では、古い内向きの体質がまだ根強く残っていて、その中で多くのエンジニアがモチベーションを維持できなくなっているわけです。この状況を、どう変えていけばいいか、考えなければいけませんね。

【2】コミュニケーションする――「互いに歩み寄る」ことの大切さ

吉田 とはいえ、いわゆる「王道」の企業向け情報システムに関わっているエンジニアの中にも、積極的に新たな技術に取り組んで成果を出す「ヒーロー」はいると思います。ただ、彼らの取り扱われ方に違和感を覚えることもあります。

 メディアなどでは、実際にそのプロジェクトの中核となった人がフォーカスされますが、会社の中でやったのであれば、その人に「やってみろ」「やっていいよ」と言った上司がいるはずですよね。あまり表には出てきませんが、成功したプロジェクトの裏にはそうした上下間の「コミュニケーション」というベースがあります。

 僕自身、前職は、エンタープライズの情報システム部門でのキャリアが長く、情シス出身でありながらSaaSを作って事業を始めましたが、これってかなりレアなケースだと思うんですよ。

 どうしてそんなことができたのかを考えてみると、当時の上司がコミュニケーションを通じて僕という人間の個性を見て信用し、好きなようにチャレンジすることを許してくれていました。もしかすると、こういう環境が多くの企業の社内文化として根付けば、空気も変わってくるんじゃないでしょうか。

 もし、経営側が技術に関心を持って新たな知識を得たり、知識を持っているエンジニアとコミュニケーションしたりする環境があれば、彼らがやっていることにすぐに理解を示せたはずです。ところが、現実にはいろんなところで経営側とエンジニア側の間で「ボタンの掛け違い」が起きている気がします。


デジタルアドバンテージ代表取締役 小川誉久氏「私が一番ショックを受けたアンケート項目は、『あなたがITエンジニアとして将来実現したいこと、チャレンジしたいことはありますか』ですね。約4割のエンジニアが将来的にチャレンジしたい目標を持っていないという結果でした。これは『ITエンジニアの高年齢化』問題とも無関係ではないでしょう」

小川 「ボタンの掛け違い」の誤解を正すためにエンジニア側に何ができるかは難題ですよね。

吉田 エンジニア側も、自分たちがやっていることに、どれだけの価値や利点があるのかを、もっとうまくアピールできるようになることが大切だと思いますよ。「自分たちのやっていることが評価されなくても関係ない」という態度は問題です。

 僕は、会社を作ることで、自分たちの技術や製品に、どれだけの価値があるのかを強くアピールする必要性を痛感するようになりました。「社内の技術者であっても、そうした意識を持つことは大切だ」と今だからこそ強く思います。

 一方で、企業内のエンジニアとして、そうした「ボタンの掛け違い」を解消する“方法”が分からないのは、仕方のないことだと思います。基本的に「言われたことをやるので精いっぱい」な場合がほとんどですから。ただ、それだけを繰り返していては、状況は変わりません。そこは、エンジニア側もある程度、“経営側の視点”に寄ってみる必要があるのではないでしょうか。

 例えば、なぜ、ほとんどの企業で経営陣が「コストカット」を常々言うのかというと、企業の目的は「利益を増やす」ことだからです。売上を上げて利益を増やすことは、市場状況など「社外要因」に大きく左右されます。一方で、コストを減らしても利益を増やせますが、こちらは「内部要因」だけを解決すれば実現できるので、売上を伸ばすよりは「簡単」です。だから、経営陣は「コストを減らせ」と言うのです。

 つまり、「コストカット」の本質は「利益の幅を広げる」ことにあります。すると、やれそうなことが見えてきますよね。事業に掛かるコストを下げながら、そこで生まれた原資を元手に、より伸びそうな分野にスモールスタートで挑戦する。エンジニアなら、それが両立できる技術として、例えば「クラウド」が使えることを知っています。クラウドを使って何ができるか、「利益の幅を広げる」のにクラウドにはどのような可能性があるかを、きちんと経営側にアピールできれば、理解してもらえる場面は多いと思うんです。

井上 そうした、経営者とエンジニアの「歩み寄り」は、大きな会社ほど難しくなっていますよね。そもそも経営に対して、技術的な視点で意見を言う文化がないと思います。

吉田 今、小さい会社や組織に「元気がある」と感じるのは、そういうことがやりやすい環境だからかもしれません。

小川 顧客との関係でも、そうですよね。お金を出して、開発を依頼してくれている会社のビジネスに対して、エンジニアが口を出すのは相当難しいはずです。

吉田 確かにそうですね。でも「言われたシステムを作るだけ」ではなく、エンジニアが「情報関連の専門家」として顧客のビジネスに関われるようになっていくと素晴らしいと思うんです。エンジニアが単なる「御用聞き」ではなく「パートナー」として、一緒にビジネスの課題を考えましょう。簡単なことではないし、お互いに勇気がいることですが、ユーザー企業にもそういった考え方を持ってほしいし、エンジニアにもそうした意識で技術とビジネスの双方に目を向けてほしいと思います。

――ここまでのお話で、エンジニアにとってもこれからいろんな場面で「コミュニケーション力」がカギになってくる気がします。

吉田 そうまとめてしまうと「自分は口ベタだから」と悲観するエンジニアもいると思うのですが(笑)、そんなことはないんです。なぜなら、エンジニアは自分の作ったものを媒介に人とコミュニケーションできますから。“話すきっかけ”を作ることができるのです。

小川 コミュニケーション力は、確かにエンジニアにとって、大切になってきていると思います。世の中の変化のスピードが速くなって、今、どれだけ大きな規模を誇っている会社でも、いつダメになるか分からない。エンジニアにとっても、社外の人とのつながりを作ることが、一つのリスクヘッジになる時代です。

井上 その点で、自分で価値を生み出せるエンジニアは、会社に縛られる必要はありませんからね。社外での人とのつながりが、“転職のきっかけ”になったり、場合によっては“起業のきっかけ”となったりすることもあると思います。

【3】フィードバックを得る――自分が作ったもので「誰かが喜ぶ」経験がモチベーションになる

――さまざまな“きっかけ”の話が出てきましたが、「王道」のSIerの中堅以上の社員でも、技術に「単なる仕事」以上の思いを持って向き合えるようになる“きっかけ”はあるのでしょうか。

 アンケートでは「IT技術にわくわくした瞬間や出来事を教えてください」という質問にも自由回答をいただき、その中では「初めて自分で考えて作ったプログラムがちゃんと動いた時」という回答が多くありました。こうした「喜び」は、技術を「面白い」と思う“きっかけ”の一つだと思いますが、「単なる仕事」でプログラミングを続けた人は、この感覚を忘れてしまうのかもしれません。


co-meeting 取締役 CTO 吉田雄哉氏「プログラムも、最終的に使うのは“人”です。身近な人にプレゼントを贈るときには、開けた人が喜ぶところを見たいと思いますよね。プログラムも使っている人が喜ぶところを見たいという思いで作りましょうよ。そのための道具として“技術”と向き合えば、それは大変な“仕事”や“勉強”ではなくなるはずです」

吉田 それは、ちょっとだけ足りないものがあるんですよ。自分で作ったプログラムが動いたという「喜び」は、あくまでも「自分の中だけのもの」なんです。僕は小学六年生のころ、初めてパソコンに触って、プログラムを作りました。ある時、画面にキラキラ光る星が表示させたんです。すごくキレイなものができたので、それを家族にも見せたら、ものすごく褒めてもらえた。そのときのうれしさは、今でも自分の原体験だと思っています。「自分の中での喜び」に加えて、「誰かが喜んでくれた」「褒められた」体験が、結構大切なのではないでしょうか。

井上 確かに。企業内で仕事としてプログラムを書いている人たちが、その成果物に対して正しく評価されているか、褒められているか、というのはポイントかもしれません。

吉田 給料のような形の評価は別にして、そのシステムを使っている人が喜んでくれているかは大切ですが、使っている人から「フィードバック」が来ることはほとんどありません。それなら、「直接聞く」という“方法”があります。こっちから出向いていってコミュニケーションを取ればいいんです。作ったものが喜ばれていれば、それは大きなモチベーションになります。

小川 特にWebサービスの分野では、そうしたフィードバックをすぐに得られますよね。

吉田 当然ですが、ポジティブな反応もあれば、ネガティブな反応もあります。ネガティブな部分だけに気を取られずに、ポジティブな反応を糧にしていく強いメンタルは必要ですよ。(笑)

ITエンジニアが【1】【2】【3】を「習慣」化するためには

――ここまでをまとめると、エンジニアはまず【1】試したり、作ったりすることを、コミュニケーションの“きっかけ”にして、さらに【2】コミュニケーションを“きっかけ”に社内外での影響力を高めたり、転職したり、起業したりするなど、活躍することができるのではないかと。それには、コミュニケーションをとって作ったものに対して、【3】フィードバックを直接もらいにいくことが重要で、それによって、また新たに何かを試したり、作ったり、コミュニケーションが生まれたりというサイクルが生まれるというところですね。この【1】【2】【3】を「習慣」化するところから始めてみるには、最初の一歩【1】の「まずは試したり、作ったりする」からですね。

小川 今は、「試す」だけならさまざまな開発ツールが無料で使用できるので、最新の開発環境やクラウド環境を実際にいじってみるべきでしょう。きっと「こんなことまでできるのか!」という発見も多いと思います。


日本マイクロソフト エバンジェリスト 井上章氏「現在の技術状況を考えると、どんなシステムでも1つのベンダーの技術で閉じているケースは少ないです。さまざまなベンダーやコミュニティの技術と製品を試し良いところ、悪いところを知ることで初めて、それらをどう組み合わせるのが自分たちにとってベストかが分かると思います」

井上 例えば、Microsoft Azure(以下、Azure)を使えば、手元のマシンにVisual Studioをインストールしなくても、ものの5分で最新の開発環境を構築できますからね。無料評価枠でもAzure仮想マシン上でVisual Studio次期バージョンのプレビュー版が使用できますし。

吉田 Azureの無料評価版でLinuxを動かせるようになったとき、僕は結構衝撃を受けたんですよ。無料とはいえ、システムリソースは使われるわけですから。だったら「どこまでタダでできるのか試してやろう」とイタズラ心に火が付きましたね。ホント、無料枠を出しているクラウドベンダーさんには心から感謝してます(笑)。

 エンジニアの皆さんはぜひ、世にある無料評価版を、自分が持っているスキルとアイデアを総動員して、イジメるかのごとく極限まで使い倒してみるといいと思いますよ(笑)。その中で、最新技術では何ができるのか、自分がそれにどこまでコミットできるのかが見えてくるはずです。

小川 最後に補足させてください。書籍『習慣の力(The Power of Habit)』(講談社刊)には「人間の行動の4割は“無意識”に実行されている」と書かれています。それは人間の優れた能力であり、そうなることで、ある作業をする際の生産性は非常に高まるわけです。

 ただ一方で、一度“無意識”になった行動は、それ以上進歩しなくなってしまう問題もあります。エンジニアにとって、日々の「仕事」を違和感なく“無意識”にこなせるようになるのは、実はかなり危険な状態ではないでしょうか。もしかしたら、その「仕事」は、5年前のベストプラクティスから進歩していない可能性があるからです。

 そのため、今の「仕事」に直接関係はないかもしれないけれど、新しい製品や技術をあえて“試す”ことで、日々の「仕事」からは気付けない「違和感」を生じさせる時間を積極的に作ってほしいと思います。そこから、新たな気付きやエンジニアとしての進歩が生まれる可能性があるはずです。

――今回、日本のITエンジニアの現状や課題、技術への「思い」などを知るために行った読者アンケートで2000人近い方から回答を集めました。1週間でこれだけ多くの読者から回答をいただけたのは、それだけ、このテーマに関心がある方が多いということの表れでしょう。また、自由回答もしっかり書かれた方が多かったので、自分の現状や将来に対して普段から抱えている思いを誠実に答えていただいていると思います。

 そのアンケート結果を基に、今回のようなスキルアップサイクルが見えてきたというのは、大変意義深いことではないでしょうか。2020年には、今回見えてきたスキルアップサイクルが習慣化していて、ITエンジニアのみなさんが次のチャレンジを楽しめるようになっていることを期待したいですね。

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年11月30日

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